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ライフロングキンダーガーテンと生成変化:カラアゲムシの物語から考える創造と触発の関係」

 夜、息子が突然紙芝居のように語り始めました。「ある朝、カラアゲムシは…」と始まり、彼は24枚組の自由画帳を二巡しながら、自分だけの物語を紡いでいきました。その語り終えた後の満足げな顔。「お話つくるの、たのしい?」と尋ねると、彼は目をキラキラさせて「楽しい! 大好き!! 明日もやるんだ」と答えました。

 その日、私は学校で文化祭的行事の一日目を終えて帰宅したばかりでした。息子の創造性と情熱を目の当たりにし、彼のような「プロの幼稚園児」が持つ純粋な探究心と表現力について深く考えさせられました。

ライフロングキンダーガーテンの理念と現実

 MITメディアラボのミッチェル・レズニック教授が提唱する「ライフロングキンダーガーテン」は、生涯にわたって幼稚園のような創造的で遊び心のある学びを続けることを目指しています。この理念は、子どもたちが持つ自然な好奇心や創造性を、大人になっても失わずに持ち続けられる社会を作ることを目的としています。

 しかし、実際にそのような教育環境を小学校や社会で実現することは、想像以上に難しいものです。カリキュラムや評価制度、時間的な制約など、さまざまな要因が子どもたちの自由な探究や創造性を阻んでいるように感じます。

創ることと触発されること:生成変化のプロセス

 ここで注目したいのが、息子が物語を「創る」一方で、その過程で新たなアイデアや表現に「触発されている」という点です。彼は一つの絵を描くことで次のアイデアが浮かび、それが連鎖的に新たな物語を生み出しています。これはフランスの哲学者ジル・ドゥルーズが提唱した「生成変化」の概念に通じるものがあります。

 ドゥルーズは、主体が固定された存在ではなく、環境や他者との相互作用の中で常に変化し続けるプロセスであると考えました。息子の物語作りは、まさにこの生成変化のプロセスを体現していると言えます。彼は自ら創造する一方で、その創造によって自らも変化し、新たな発見や学びを得ているのです。

ピアジェとヴィゴツキーの視点から

 心理学者のジャン・ピアジェは、子どもたちが自らの経験を通じて知識を構築する「構成主義(コンストラクティヴィズム)」を提唱しました。彼は、子どもたちが自発的な活動や遊びを通じて世界を理解し、認知発達を遂げていくと考えました。

 一方、レフ・ヴィゴツキーは「最近接発達領域(ZPD)」という概念を提唱し、子どもが自力では達成できないが、他者の支援によって達成可能な領域があると述べました。彼は社会的な相互作用が子どもの発達に重要であると考えました。

 息子の活動は、ピアジェの構成主義とヴィゴツキーの社会的相互作用の両方の視点から理解できます。彼は自らの興味と経験を通じて学びつつ、私たち家族との関わりや環境からの刺激を受けて成長しています。

創造と触発の相互作用がもたらすもの

 息子が物語を創る過程で新たなアイデアに触発され、それがさらに創造を促す。この相互作用は、彼の学びと成長を大きく促進しています。これは、創造性が一方向のプロセスではなく、環境や他者とのダイナミックな関係性の中で育まれることを示しています。

ライフロングキンダーガーテンの難しさと価値

 ライフロングキンダーガーテンの理念を実現することは、多くの困難を伴います。しかし、創造と触発の相互作用を重視し、子どもたちが生成変化のプロセスを体験できる環境を整えることは、彼らの可能性を引き出すために非常に重要です。

 私たち大人が、子どもたちの創造性と探究心を尊重し、そのプロセスに寄り添うことで、ライフロングキンダーガーテンの理念に近づくことができるのではないでしょうか。

結びに

 カラアゲムシの物語を通して、私は子どもたちが持つ可能性と、それを支える、邪魔しない、灯す、引き出す教育の重要性を改めて感じました。創ることと触発されることの相互作用、そして生成変化のプロセスを大切にし、子どもたちと向き合っていきたい。

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