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ランダル・レイの「決定的瞬間」の話、パート1

 ぼくはがその話に到達したのはごく最近なのだけれども、「MMTの祖の一人」と目されるランダル・レイには、MMTに開眼した決定的瞬間があったらしい。

 どうやら数年前のインタビュー、で彼は次のように語っていたのです。

That changed my view and that was the most important thing
『それ』は私のモノの見方を変えた、最も重要なことだった

 さらに興味深く、またわれわれにとって重要と思われるのは、レイは「その瞬間」より前に、のちのMMTの重要要素である例えば財政のバランスシート表現、ジョブギャランティ、部門間アプローチなどなどを既によく知っていたとも語っていた、このこと。

 だって、これって言い換えれば次のようなことでしょう。

 つまりMMTの諸要素を知っていたり語れたとしても、MMTを理解したことにはならないし、MMTの視座を獲得したことにはならない。

 なのにMMTを少し齧ったうえで「MMTの説明部分」と「政策部分」を分けてから、その片方を利用するという立場なり理解を表明する人たちが実在しますよね。

 そういう人たちは、「最も重要なこと」を知らない、つまりMMTを理解したとは言えない、ということになる。
 少なくとも「その瞬間」以前のレイの水準がせいぜいでありましょう。

 レイの言葉を噛み締めます。

I had seen that before that,
それより前に知っていた

I just never thought of it that way.
しかしそのように考えたことだけは一度もなかった

 このような事情を表現するために、以前のエントリでこのような図を作りました。

MMTとそれ以外の違いの図

「回る人物」の情報は全員に与えられている。
 違うのは、ヒトの認識だけ。

 科学の歴史で言えば、たとえば同じ天空のデータを前にした師弟のティコ・ブラ―エとヨハネス・ケプラーは、一方が古来の天動説を、他方が新しい地動説を開拓した話とそっくりで、二人は全く同じデータを見ていた。

 「MMTの説明部分(または記述的部分)を利用する」という人たちが言っているその部分とは、多くの場合、政府財政のバランスシート表現のことのようです。

MMTを「援用」とある本

  でもレイによれば、こうだそうですよ。

Stephanie Kelton and I happened to have had the same money in banking teacher and he drilled balance sheets into us. So I had seen that before that, when the government spends bank reserves go up, when the government taxes bank reserves go down. And when bonds are sold bank reserves are debited.
ステファニー・ケルトンと私はたまたま貨幣・銀行論を同じ教師に学んでいた。彼は私たちにバランスシートの重要性を徹底的に教え込んでいた。だから私はそれを前から知っていた - 政府が支出すると銀行準備が増加し、政府が課税すると銀行準備が減少し、国債が売られると銀行準備が引き落とされることを。


 ミンスキー先生のことでしょうか。

 いずれにしても、この政府財政のバランスシート表現自体は「MMT以前」の話です。

 同じものを見ても、MMTとそれ以外全部は、見え姿がまったく異なるのです。

 ぼくはこの「世界の見方の転換」をきちんと踏襲できている日本語のMMT論を、まだ一つも見たことがありません。

 上の本に限らず、下の本たちも(おそらく他の本も)レイが「最も重要」としたことの記述を欠いている。

「最も重要なこと」の記述がないMMT本たち

 じゃあその「一番重要なこと」って何?

 ズバリ、レイにとってそれは、モズラーのいくつかの短い言葉のうちの、とりわけ “bond sales are reserve drain” という表現だったそうです。

the one that grabbed my attention was bond sales are reserve drain.
その中で私の注意を鷲掴みにしたのは、国債の販売は準備預金の流出だというものだった。

 繰り返しますが、国債が売られると銀行の準備預金が引き落とされる、数字が減る(be debited)ということは、その前に知っていた。

 しかし、その同じ事実を「準備預金の流出(drain)として把握する」、このことが、MMTにとって最も大事なことだったとレイは言うわけ。

 debit されるのではなく、drain するものとして把握する。

 ここなのよ。

 白状すればぼく自身、モズラーの ”a glorified reserve drain” がMMTの原点ですよと去年指摘できたのは良かったけれども、そのエントリを今読み返すとちょっと微妙なところがある。

 また、上で望月さんの本も「どこか物足りない」「肝心のことが書かれていない」と感じてはいたけれど、そのレイのインタビューに触れるまでは、その「最も重要なこと」が表現できていないのだということをポイントすることはできなかった。

 だからそのインタビューはぼくにとっても重要だったということを白状しておこう。

 もったいぶらずに教えると、そのインタビューとは、これ。

https://www.patreon.com/posts/37728507


 まあ、こう書いても、そしてこのインタビューを聴いたとしても、おそらく多くのヒトにはすぐにはなかなか理解できないワンね。

 パート2では、それがどのような「世界の見方の転換」なのかを正面から論じてみようと思うワン。

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