AIイラスト×700字の物語|迷路と迷宮、アリアドネの糸
迷路と迷宮は、全く異なる概念である。
迷路は、枝分かれした通路により入った者を惑わせ、入口と出口は別になっている。
一方、迷宮とは、一本道が渦を巻くように続き最深部へと至る。出口はなく、出るには引き返すしかない。
ギリシャ神話に登場する、ミノタウロスを打ち倒した英雄テセウスは、糸を使い迷宮から脱出したと云う。しかし迷宮の性質から、道しるべとして糸を用いたのではない。
迷宮は、迷うことがない一本道なのだから。
ではなぜ、テセウスは脱出に糸を必要としたのだろうか。
注目すべきは、テセウスが生贄として迷宮へと踏み入ったことである。
彼を差し出した者達は、生贄が生きて帰ってきては都合が悪い。
すなわち、生贄たちを迷宮へ入れた後は、その唯一の出入口を閉ざしたに違いない。
ミノタウロスを退治した後ですら、彼はミノス王から追われ、糸を渡したアリアドネと逃げ出すこととなる。これも、単純に脱出することはできなったことを間接的に示している。
閉ざされた迷宮から、どのようにして脱出するのか。それが、本来の『アリアドネの糸』の使い方であったに違いない。
ミノタウロスも生物であれば呼吸を必要とする。よって、地下に建造された迷宮には、地上へと通じる通風孔が作られていたのではないか。
それも、怪物の手の届かない、遥か高い天井に開けられていたはずだ。
そう、テセウスはそこから脱出したと考えられる。
通風孔からアリアドネが垂らした"糸"を昇り、ミノス王に見つかることなく迷宮から脱出しおおせた。
現代では"糸"と呼ばれているが、原文からは"縄"という意味もあることが、これを裏付けている。
✎参考文献:
迷宮学入門(和泉雅人,2000年,講談社現代新書)
ギリシャ神話物語(楠見千鶴子,2018年,角川ソフィア文庫)
✎イラスト:
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