Base Ball Bear の好きな曲①
「どんなアーティストが好き?」という話題
雑談として、人となりを知る手段として、自分の好きを話すきっかけとしてよく出る質問、「どんなアーティストが好き?」。
自分はこの手の質問に、「全然有名じゃないんだけど好きなバンドがあって…」という枕詞を添えて、「Base Ball Bearっていうバンドが好き」と答える。大抵、「そうなんだ~、わかんないや」で次の会話にいくし、「私も好きです!」という返事が返ってきたことは人生で1~2度しかない。ライブのチケットは外れたことがないし、ライブ会場に行くと「こんなにたくさんの人がBase Ball Bearを知っているのか…???」と不思議な感覚になる、マイナー中堅バンド。それでも、残りの人生で1つのアーティストしか聴くことができなくなったとしたら、迷わず選ぶくらいには敬愛するバンドがBase Ball Bearである。
先日、知り合いにBase Ball Bearを勝手に布教する機会があり、オススメ曲のプレイリストを作成して送り付けさせてもらった。演奏やメロディはもちろんだが、Base Ball Bearの魅力の大部分は楽曲の歌詞やメッセージ、背景にあり、それを言語化しようと思い記事を書くことにした。
Base Ball Bearとは
概要
2001年に結成された4人組ギターロックバンド。略称は「ベボベ」。2016年にギターの湯浅が脱退し、現在はスリーピースで活動している。ファンクラブの名称は「ベボ部」。
ボーカルの小出が高校の文化祭でライブに出るためにメンバーを集めて結成し、2006年に東芝EMI(現・ユニバーサルミュージック内・EMI Recordsレーベル、Virgin Musicレーベル)からメジャー・デビュー。
現在までに、2010年1月3日、2012年1月3日、2022年11月10日と3度の日本武道館公演を行っている。
バンド名の由来は、ボーカル小出が好きだった歌手CHOCOLATの「ベースボールとエルビス・プレスリー」という曲から「BaseBall」を取り、そこに合う単語として「Bear」を付けたという。そのため、メンバーは野球に詳しい訳でも、熊が好きな訳でもない。ちなみに、正しい表記は「Base Ball Bear」(半角・スペース入り)であり、「BaseBallBear」や「BASE BALL BEAR」等は誤表記となる。
メンバー
小出祐介 こいでゆうすけ
ギター・ボーカル 作詞・作曲
1984年12月9日生まれ 東京都出身
愛称はこいちゃん。ホラー映画が好き。
関根史織 せきねしおり
ベース・コーラス
1985年12月8日生まれ 埼玉県出身
愛称は関根、関根譲。既婚者で、sticoというバンドではチャップマンスティックという特殊な楽器を演奏する。カレー屋巡りが趣味。
堀之内大輔 ほりのうちだいすけ
ドラム・コーラス
1985年1月17日 東京都出身
愛称はホリ、ホリくん。既婚者、子持ち。プロレスが大好き。
楽曲
本当は簡素なものにしようと思っていたが、書いていくうちに全部の歌詞を拾いたくなり、めちゃくちゃ長くなってしまった。
向日葵の12月
初期の小出の文学的歌詞が色濃く出ている曲。
「向日葵、夏、彼女」は君、「12月、冬、俺」は自分を表しており、夏にいた"君"と冬を生きる"自分"の対比が繰り返されている。好きだった"君"が、夏の季節に亡くなってしまったことを想起させる。
大学一の美人(という訳ではないのだろうが、好きな子は世界一可愛く見えるよね)を「キャンパス小町」と表す小出節。
巡った先の今の季節はいつなのか? 風に飛ばされたように別れた彼女との季節を思い返している様子。
1番サビ。A~Bメロで出てこなかった現在の季節に触れられている。思い出の中の夏を吸い込み、吐き出したため息で透き通った硝子(夏のイメージ)を曇らせている?
海を割ったとされるモーゼよろしく、女学生徒の群れを割って佇む俺。映像を浮かべるとシュールだが、語感が心地よく、彼女を失った”俺”の心情が表れている。
澄んだ、彩度の低い冬の朝と、頬紅色の鮮やかな電車の対比がよい。
窓の外に降る雪を銀紙に例える表現力よ。m7はギターコード。歌えなくなったというのは、彼女がこの世を去ったという意味か。
白い兎のような雪化粧。日差しで雪が融け、高層ビルの影に落ちる水溜り。融けてきらきらと光る雪が目に浮かぶ歌詞。
雪解けの水溜りを飛び越える君が脳裏に浮かぶ。今、駄目だと~は、涙よ出るな、ということか? 枯らすグラスは「曇りガラス」と韻を踏む意味合いが強そう。涙を涸らすもかかっている?
Cメロ。小出のシャウトが”俺”のやりきれなさを際立たせる。
俺の知らない風景=君が生きていた世界線の風景。
彼氏彼女の関係
作詞作曲Vo.の小出は青春をこじらせているため、青春の恋模様を描いた曲も、第三者目線やさっぱりとした別れなど、ドライな曲が多い。街に溢れるカップルを眺めながら、彼氏彼女の関係になれなかったあの子を思い出すような曲。
イントロに多用されているギターの「チャカチャカ」音は小出の得意とするカッティングという奏法。
「夕方世代(夕方ジェネレーション)」「君色の街」など、その他の曲の表題も多数出てくる。
冬に、春を思わせる出会いをした少年少女。12月を超えた「13月」で1月を表している。
彼氏彼女の関係は、インディーズ1stフルアルバム「HIGH COLOR TIMES」収録曲。これはインディーズ1stミニアルバム「夕方ジェネレーション」の次に出したアルバムである。
冬に出会った彼女との、ひと夏の思い出。
冷めた珈琲に、冷めてしまった二人の関係を重ね合わせる。冬の朝に、あの子を思い出す情景。
サテライト・タウンにて
夜明けに散歩しながら読書をしているだけの場面を、こんなにも詩的でエモーショナルに歌えるものか…という曲。
サビが高音のため、ライブではほぼ封印されているそう。
イントロは鮮やかで瑞々しいギターリフから始まる。祖母の形見という櫛、中々のエモワード。
小説を読んでいると、その世界に入り込み現実と空想の境界線が曖昧になることがある。午前5時の人のいない街なら尚更、本を読む自分に陶酔できる。
情景表現として、噛めば甘いだろう場面の秀逸さ。
「舞い上がる」の部分、ほぼ「まゆあがる」って歌っている。笑
読む手を休め本を閉じたので、ページが舞い上がるというのは空想の描写。
場面が転換し、時系列が変化。室内で、窓から覗く夜の東京タワー(電波塔)を眺める。夜景と窓ガラスに反射した自分の姿が重なって見える。鬼灯は、赤い光と頬付きをかけている。東京タワーに触れようと手を伸ばすも、ガラスに当たりツキユビ。
電波塔のモチーフは、プレメジャーデビューアルバム「バンドBについて」から、ジャケットアートワークに多く使用されている。
ラスサビへの盛り上がり。
最も高いパート。疾走感と切なさのある曲。
BLACK SEA
ベボベには珍しく空想の生き物が出てくる歌。サビの変則的なリズムがいい。黒々とした海、髪、瞳と、蒼いビルの様な水槽。爽やかすぎない、ジメジメとした夏がベボベらしい。初期のベボベは、都市、海、レモン、彼女がよく登場する。
「水槽の中に」のキメが心地いい。夏、水槽、腐敗した人魚。少しブラックな表現が独特な雰囲気を醸し出す。
ベボベでは、度々陽の光を水色や青と表現することがある。青い空から差し込む光のイメージや、影に落ちる青のイメージからか。
ビルというワードから都市のイメージが足され、東京湾に面する臨海地区が想起される。
彼女を閉じ込める水槽を壊して、共に溺れたい主人公。
腐敗ときらきらという、撞着するワード。「気持ち悪くて気持ちいい」など、相反する言葉選びはよく出てくる。
純心は恋心のようなイメージで捉えていたが、純真の誤記だそう。いわゆる造語ということになる。雑踏で揺れる誰かの恋心と、水槽でゆらゆら揺れる君。
1番Aメロ「夏の正夢、忘れた 水槽の中に」と重なる表現。"俺"と"あなた"を隔てる水槽を壊して、忘れ物を探したい。
Cメロ。徐々に盛り上がり、裏拍でラスサビに入る。
黒や水色、蒼など、様々変わる情景の色は"あなたの心色"。
ベボベの爽やかながらどこか心地悪い名曲。
ELECTRIC SUMMER
ベボベの夏曲の一つ。これも爽やかで無敵感のある夏ではなく、じめっとした、夏休みの終わりのような切なさのある曲。(MVも曇り空。)「夏いね」(意訳:かなり夏だね)は小出の隠キャ感がよく滲み出ている。(誉め言葉)
ま/ちと海のはざ/まで指でつくっ/た銃/を誰かが撃つくろ/がねみたいな/紅のきせ/つはビ/ルの陰から顔を/覗かせている というように、言葉の区切り方が独特なAメロ。
鉄のような紅い季節=夏が、すぐそこまで来ている。
後にこの楽曲が収録されるアルバム「C」は、Sea, She, City など、いくつもの意味が込められている。サイダー(Cider)もCですね。
関根のコーラスがエレクトロ感をより演出している。曲を通して、"俺"と"君"が逢う描写は描かれていない。
あとここの「街」、絶対「まちぇ」って言ってる。
文学的な…ではなく、"小説色の滲み出す"。いちゃつくカップルを、"素肌の告白をかまし合う"という表現も面白い。極めつけの"夏いね"。
また、この2番Aメロの湯浅のギターも良い。
髪だけでなく、香りも振りほどく。あの娘はどんな約束をしたのだろうか?
Cメロ。空を切り取る情景が浮かぶ。
急に降り出した夕立のように、激しいギターソロに移る。
青春時代の夏は、一生の思い出として永遠になる。「君はこの夏何をするか?」そう問いかけているようだ。
ラストダンス
アルバム「C」の最後の一つ前の曲(最後じゃないところがミソ)。冬のキラキラした東京の街で、二人きりで踊る情景がありありと浮かぶ。
ドラムから始まる煌びやかなサウンド。肌寒い冬の季節、澄んだ空気にギターリフが響く。
最後の時を惜しむように、ふたりが踊る様子から曲は始まる。
"永遠のしばしの別れ"も、相反する言葉。あの世でまた逢える、という願いも込められているのではないか。"終わりの始まり"も、別れを決めたふたりの覚悟を感じる。
あなたのすべてが揺らぐのに見惚れる、それほどまでに愛した人を思い出に変えることの切なさ。
日が暮れ始め、別れの時が近づく。「また逢えるよ」という気休めの言葉も切ない。
"死んでも~"、"死にそうな程"~の言葉遊びがまた美しい。
前段の"死"と対比して、今、”君色の夜”に生きていることを噛みしめる"俺"。
行き交い、"乱舞る"人々にはスク"ランブル"がかかっている。見つめ合うふたりの距離には、言葉はいらない。
ラスサビ。ベボベには「DEATHとLOVE」という曲があり、死生観と恋愛の曲も少なくない。
ふたりの最後の時を愉しむふたり。観客のいない、ふたりだけの世界。個人的MV作って欲しいランキング1位の曲。