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TX県内延伸に関する提言書
2023年3月31日に、TX県内延伸に関する第三者委員会が茨城県知事に提出した提言書がPDFで公表されていたので、転機しておこうかと。
「TX県内延伸に関する 提言書」
「TX県内延伸に関する第三者委員会(以下「当委員会」という。)」では、茨城県が「第二次茨城県総合計画(以下「県総合計画」という。)」に位置付けている、つくばエクスプレス(以下「TX」という。)の県内延伸の4つの方面案(土浦方面、茨城空港方面、水戸方面、筑波山方面)の絞り込みについて、定量的・定性的な分析結果にもとづいて、中立的な観点から検討した結果として、下記のとおり提言する。
1 延伸方面等について
当委員会では、延伸によって得られる効果と費用のバランスなどを考慮し、土浦方面への延伸が最善と判断した。なお、当委員会では、土浦方面のうち、土浦駅に接続する場合と神立駅に接続する場合を比較・検討し、土浦駅に接続した場合の方が優位性が認められるとの結論に至ったことを申し添える。
2 検討の経過について
(1) TX県内延伸の検討の背景について
茨城県においては、近年、人口減少が進んでいるが、その中にあってもTX沿線3市の人口は、TXが開業した2005 年度から2022 年度までに約26%増加し、住みよさランキングでは毎年上位にランクインするなど、TXは地域の発展に大いに寄与している。
こうした状況を受け、茨城県では、TX沿線の活力をいかに県内全域に波及させるかが、県土の持続可能な発展にとって重要な課題であると捉え、県総合計画において、TXの県内延伸に向けた検討を行うこととし、延伸方面先の候補として「土浦方面」「茨城空港方面」「水戸方面」「筑波山方面」の4つの方面案を位置付けている。
当委員会は、この県内延伸の取り組みを進めるうえで必要となる延伸方面の絞り込みについて、第三者の中立的な観点から検討を行い、その結果を知事に提言することを目的に設置されたものである。
(2) 茨城県におけるTX県内延伸の意義について
茨城県では、延伸方面の選定にあたり、県総合計画の基本理念である「活力があり、県民が日本一幸せな県」の達成に向けたTX県内延伸の意義として、次の4つの項目を示している。
①東京圏からの新たな人の流れの創出
②つくばと水戸の二大都市圏の交流拡大
③自動車からの転換に向けた公共交通のサービスレベルの向上
④TX延伸を起爆剤とした本県未来の更なる飛躍
茨城県では、この4つの意義を判断基準とし、実現可能性を加えた5つの視点(以下「判断基準等」という。)を考慮して延伸方面を選定することとしている。また、それぞれの判断基準等に沿った評価項目について調査を実施し、TX県内延伸の調査結果として整理した。
(3) 当委員会における延伸方面の選定の方針について
2022 年12 月12 日並びに2023 年1月16 日、3月8日及び3月31 日に当委員会を開催し、茨城県が示した判断基準等及び調査結果などに基づき、4つの方面案を相対的に比較・評価したうえで、方面案の絞り込みを行った。
(4) 4つの方面案の評価結果について
当委員会で4つの方面案を相対的に比較・評価した主な結果は、次のとおりである。
ア 土浦方面
(プラス評価)
土浦方面の延伸は、東京圏(秋葉原駅)からの2時間圏域の居住人口や面積が増加するほか、延伸先には霞ヶ浦やつくば霞ヶ浦りんりんロードなどの観光地があることから、新たな沿線開発・企業誘致による移住や二地域居住の促進、更には観光誘客といった東京圏からの新たな人の流れの創出が期待される。
水戸駅からつくば駅までの時間短縮効果も大きく、県北・県央地域におけるつくばからの60 分圏域・90 分圏域の居住面積も増加することから、つくばと水戸を一体化した大都市経済圏の形成にも寄与する。
地平設置であるJR常磐線に対して高架構造を想定するTXが延伸され、JR常磐線と結節点を持つことにより、河川氾濫などの災害リスクや輸送障害の軽減に向けてリダンダンシー強化が期待される。また、2つの路線の結節は、公共交通のサービスレベル向上に寄与し、自動車からの転換も期待できる。
現状での単年度収支は、4方面の中では最良であり、輸送密度も高く、B/C(費用便益比)も4方面の中では最も高いことから、実現可能性は4方面の中では最も高い。
(懸念事項)
単年度収支は現状では赤字であり、B/C も1.0 未満であることから、実現に向けた課題は残る。
イ 茨城空港方面
(プラス評価)
茨城空港方面の延伸は、茨城空港周辺が鉄道空白地帯となっているため、東京圏からの時間短縮効果が大きいことや、茨城空港の空港利用圏の拡大につながることなどから、観光面での東京圏からの新たな人の流れの創出が期待される。
東京圏(秋葉原駅)からの2時間圏域の居住人口や面積が大きく増加することから、新たな沿線開発・企業誘致による移住や二地域居住の促進といった東京圏からの新たな人の流れの創出が期待される。
水戸駅からつくば駅までの時間短縮効果も大きく、県北・県央地域におけるつくばからの60 分圏域・90 分圏域の居住面積も大きく増加することから、つくばと水戸を一体化した大都市経済圏の形成にも寄与する。
地平設置であるJR常磐線に対して高架構造を想定するTXが延伸され、JR常磐線と結節点を持つことにより、河川氾濫などの災害リスクや輸送障害の軽減に向けてリダンダンシーが強化され、自動車からの転換に向けた公共交通のサービスレベルの向上も期待される。
潜在的な発展可能性としては、空港の着陸便数の制限が緩和された場合には大きな経済発展の可能性があるほか、石岡市では住宅地・工業団地の造成やスマートシティの実証実験、公共施設の再配置が想定され、JR 高浜駅周辺のまちづくりの検討に関する調査業務をすでに開始するなど、沿線地域の期待も加わり将来の飛躍につながる起爆剤効果も期待される。
(懸念事項)
空港の着陸便数の制限があり、利用者増の制約となりうる。
輸送人員や輸送密度、B/C は4方面の中では最も低く、現状のままでは実現に向けた課題は大きい。
ウ 水戸方面
(プラス評価)
水戸方面の延伸は、東京圏から県庁所在地の水戸までの時間短縮効果について最も有効であるほか、東京圏(秋葉原駅)からの2時間圏域の居住人口や面積も最も増加することや、延伸先には偕楽園等の観光地もあることから、新たな沿線開発・企業誘致による移住や二地域居住の促進、更には観光誘客といった、東京圏からの新たな人の流れの創出が期待される。
水戸駅からつくば駅までの時間短縮効果も大きく、県北・県央地域におけるつくばからの60 分圏域・90 分圏域の居住面積も最も大きく増加することから、つくばと水戸を一体化した大都市経済圏の形成にも寄与する。
自動車から鉄道への転換人数が多く、走行距離も長いためCO2 削減量が最も多く、気候変動への対応としては最も有効であるほか、土浦方面・茨城空港方面よりもJR常磐線の代替輸送区間を長く持った上で結節点を持つことができるため、河川氾濫などの災害リスクや輸送障害の軽減に向けたリダンダンシー効果が最も大きく、自動車からの転換に向けた公共交通のサービスレベルの向上が期待される。
潜在的な発展可能性としては、今後自動車から鉄道への転換の動きが進展した際に、更なるCO2 削減効果や交通事故削減効果が最も期待されることから将来の飛躍につながる起爆剤効果が期待される。
(懸念事項)
路線長が長く、JR常磐線の複数の主要駅で接続するため、既存の鉄道(JR常磐線)やバス路線の輸送人員等に与える影響が極めて大きいことから、公共交通の維持という面で課題がある。
路線長が最も長いため建設費が最大であり、単年度収支が最低かつB/C も低いことから実現には大きな課題がある。
エ 筑波山方面
(プラス評価)
筑波山方面の延伸は、筑波山まで、鉄道がシームレスで接続されることにより、東京圏から観光地への時間短縮効果が大きく、観光面での東京圏からの新たな人の流れの創出が期待される。
住宅地や商業施設が少なく難工事が想定されないため事業費が安価であり、輸送人員も多い。
潜在的な発展可能性としては、TXとケーブルカー駅が結ばれた場合、更なる観光地の発展が期待される。
(懸念事項)
筑波山方面の延伸は、東京圏から水戸への時間短縮効果には寄与しない。
繁忙期には筑波山で登山渋滞が発生している状況を鑑みると、筑波山の収容量が鉄道輸送量に比べて小さく、TX延伸が更なるオーバーツーリズムを招くおそれもあるなど、TXが適切な輸送手段とはならない可能性がある。
JR常磐線と結節点を持たないため、つくばと水戸の二大都市圏の交流拡大には効果がないほか、災害リスクや輸送障害の軽減に向けたリダンダンシー効果も期待できない。
輸送密度は土浦方面・水戸方面に劣り、採算性やB/C も土浦方面に劣ることから実現には大きな課題がある。
(5) 当委員会における延伸方面の絞り込みについて
各方面を相対的に比較・評価した結果、それぞれに一長一短があることから、当委員会においても絞り込みに向けて活発な議論がなされた。各方面への延伸によって得られる社会的な便益や効果とコストとのバランスなどを十分考慮し、以下のような判断に基づき、意見を集約し、当委員会としての結論を得たところである。
筑波山方面は、集客力のある大学や病院などがルート上にあり、現在の状況よりも沿線開発などは期待できるものの、「つくばと水戸の交流拡大」や「JR常磐線のリダンダンシー」に寄与するとは言えず、その効果は限定的である。
水戸方面は、公共交通のサービスレベルの維持・向上という観点から、延伸によって、既存のJR常磐線や路線バスの輸送人員等に与える影響が極めて大きいことを考慮する必要がある。
水戸方面に直接延伸するのではなく、JR常磐線接続(経由)であっても、つくばと水戸の交流拡大に一定の効果が得られる。
土浦方面でJR常磐線に接続されれば、茨城空港方面や水戸方面への延伸に期待される効果についても、一定程度得られる。
土浦方面は、JR常磐線への接続が最短かつコストも最小であり、土浦駅にはJR特急も停車する。調査過程では、土浦方面のほかに、茨城空港方面や水戸方面における常磐線接続までの延伸効果も示されたが、これらの実現可能性の低さなどを考慮すると、土浦方面以外での接続は現実的ではない。
茨城空港方面については、空港経由水戸方面への延伸も含め、各自治体からの延伸の要望も多く、今後の県勢発展を考えるうえで茨城空港の将来性は考慮するべきであるが、期待される将来の姿と現況とのギャップが大きく、現状では十分な実現可能性があるとは言い切れない。
茨城空港方面については、今後、茨城空港を取り巻く状況が変化した場合に、改めて効果とコストのバランスを考慮した空港アクセスの在り方を議論すべきである。
(6) 接続駅の検討について
土浦方面の調査については、土浦駅に接続する仮定で実施していたが、当委員会において、土浦駅のほか、神立駅における接続ルートのほうがコストを低く抑えられる可能性もあり検討の余地がある、との指摘があったことから、追加調査を実施し、以下のような結論に至った。
ア 土浦駅と神立駅の調査結果について
当委員会で土浦駅及び神立駅に接続した場合の効果や影響等について、相対的に比較・評価した主な結果は、次のとおりである。
「東京圏からの新たな人の流れの創出」について、土浦駅と神立駅における東京までの時短効果や観光誘客効果は、同程度の効果が得られる。
「つくばと水戸の二大都市圏の交流拡大」について、土浦駅の方が水戸とつくばの時短効果は高い一方で、JR常磐線に与える影響に関しては、土浦駅はマイナスである。
「自動車からの転換に向けた公共交通のサービスレベルの向上」について、TXの既存路線に与えるプラスの効果は土浦駅の方が大きく、自動車事故の削減効果も土浦駅の方が大きい。
「TX延伸を起爆剤とした本県未来の更なる飛躍」について、土浦駅と神立駅の潜在的な発展可能性は、同程度と見込まれる。
「実現可能性」について、土浦駅は、神立駅に比べて駅前の市街地が発達しており、接続に難工事が想定されるなど、概算事業費は土浦駅よりも神立駅の方が低い一方、収支採算性やB/C については、土浦駅の方が神立駅よりも高い。
イ 接続駅について
当委員会としては、評価結果を踏まえて、以下のような判断に基づき、意見を集約し、結論を得たものである。
4つの判断基準のうち「自動車からの転換に向けた公共交通のサービスレベルの向上」の面では、土浦駅に若干の優位性がある。また、他の判断基準においては、それぞれ一長一短があるものの、大きな差は見られない。
土浦駅に接続する場合は、神立駅よりも概算事業費が高くなるものの、採算性やB/C で神立駅よりも高く、土浦駅に接続する場合の方が実現可能性は高い。
土浦駅では、神立駅に比べて接続に難工事が想定されるものの、今回の調査結果においては土浦駅に接続する場合の方が優位性が認められる。
3 TX県内延伸の実現に向けた今後の課題について
当委員会においては、方面選定の議論と並行して、TX県内延伸の実現に向けた課題についても議論した。以下にその内容を示す。
(1) 実現可能性の向上
当委員会は、4つの方面案の中から土浦方面の実現可能性が高いという結論を導き出している。しかしながら、B/C は1.0 を下回り、収支採算性も赤字が見込まれている。そのため、従前どおりの沿線開発にとどまらず、更なる需要増加及び費用削減の方策を検討する必要がある。また、TX県内延伸と既存路線やTX東京延伸とを一体的に扱う、いわゆるパッケージとしての事業評価や費用対効果分析の実施も検討していく必要がある。
(2) 延伸構想の磨き上げ・県ビジョンとの調和
当委員会の結論は、限定的な条件下における調査結果に基づいている。今後、延伸ルート及び事業スキームの検討等に合わせて、事業費、収支採算性及びB/C 等の実現可能性並びに政策効果を精査していくことに加え、政策実現に向けたあらゆる方法等を検討していく必要がある。
また、TX県内延伸構想は、県土全体の発展を目指すものであることから、JR常磐線とともに将来の県内交通ネットワークの主軸として、茨城県総合計画又は地域公共交通計画等の各種計画やビジョンに改めて適切に位置付ける必要がある。その際には、TX県内延伸によって、TX沿線地域とそれ以外の地域における相互発展や、県内公共交通ネットワーク全体の強化が図られるよう、十分に留意することが必要である。
(3) 将来を見据えたまちづくり
沿線のまちづくりにあたっては、人口減少社会が前提となることから、将来世代の負担も考慮した適切な計画づくりを進めることが肝要である。そのためには、居住誘導及び都市機能誘導の徹底によるコンパクトシティの実現、中心市街地の高度利用といった沿線自治体によるTXを活かす地域戦略の立案が望まれる。また、浸水想定地域等の防災計画の強化と実践及び交通ネットワークの充実にむけた周辺自治体との連携強化が必要である。
(4) 公共交通の利用促進
鉄道をはじめとする公共交通の利用促進に向けて、既存の鉄道路線との接続性向上や大規模集客施設へのアクセス向上、駅からの二次交通の充実、途中駅の駅前広場整備など、利用者の利便性向上を図る必要がある。また、更なる需要創出を目指すためにも、自動車から公共交通への大規模な転換を図るなど、県民の理解と協力を得ながら、県民の生活様式の変容を促すような政策を検討することが重要である。
(5) 関係者等との調整
茨城県においては、今後、費用負担や事業スキームの決定などに向けた検討が必要になる。その検討に際しては、国に助言を求めながら、関係都県、関係者等とも十分な調整を実施していく必要がある。また、国の交通政策審議会の答申にも位置付けられているTX東京延伸や都心部・臨海地下鉄構想などの動向にも留意しながら進めていくことが必要である。なお、関連する既存路線や鉄道プロジェクトを含めた一体的なパッケージとしての事業評価や費用対効果分析の方法の整備を国などに対して、働きかけていく必要がある。
このように実現に向けては、委員等から多くの課題が提起されたところであり、容易に進むものではなく、関係者の不断の努力により、県民や国民の理解が十分に得られるプロジェクトとしていくことが必要である。茨城県においては、これらの意見を真摯に受け止め、実現に向けた今後の方策を検討していただくようお願いしたい。
2023 年3月31 日
TX県内延伸に関する第三者委員会
記者ブリーフィング資料
延伸調査の内容を記者向けに説明した資料も公表されていました。
1 県内延伸検討の背景
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2 県総合計画に位置付けられた4方面の特色
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3 県総合計画(上位計画)との関係
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4 延伸方面選定の判断基準
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5 評価項目の一覧
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6 延伸方面選定の判断基準の総評
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7 土浦駅と神立駅の調査結果①
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8 土浦駅と神立駅の調査結果(総評)
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元ファイルはこれ。