上古漢語{灘 *n̥ˤar}
OCNR §4.3.5.1(p. 112-116)に上古漢語の無声鼻音「*n̥-」の中古音反射の話が登場する。
漢 *n̥ˤar-s > xanH ‘(river name)’
灘 *n̥ˤar > than ‘foreshore’
タイプA音節の「*n̥ˤ-」が、中西部(内陸部)方言では暁母「x-」に変化し、東部(沿岸部)では透母「th-」に変化するという説明である。
OCNR §5.5.1(p. 252-268)に上古漢語の語末「*-r」の中古音反射の話が登場する。
難 *nˤar > *nˤan > nan ‘difficult’
儺 *nˤar > *nˤaj > na ‘expel demons’
「*-r」が、一般的には語末「*-n」に合流するが、山東半島周辺では「*-j」に合流するという説明である。
p. 116の地図では「*l̥ˤ- > th-」の代表地点として「青」と「徐」が書き込まれているが、p. 268では「青」も「徐」も「*-r > *-j」の地点ということになっている。
すると、「灘 *n̥ˤar > than ‘foreshore’」は頭東尾西の混合型ということになる。
OCNR = Baxter, William H. and Laurent Sagart. (2014). Old Chinese: a new reconstruction. New York: Oxford University Press.