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『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』の内容について

同書を読んだので内容を自分なりにまとめてみる。

まずアメリカにおいて、未成年の性別違和感の診断について、いいかげんな診断が行われ、それに沿った手術も行われる、という問題自体はあるのだろう。一方で、本書のそうした危険についての紹介の妥当さは、控えめに言って懸念が残る。

未成年で、自分がトランスジェンダーではないかと悩む人の内、勘違いであるものも当然、あるだろう。一方で、勘違いでない人もいるだろう。どうやって見分けるのだろうか。

この本によると、トランスジェンダーの人は、自分の性別違和を子供の頃から明確にわかっており、本当にそうかと悩むこともなく、誰とも相談する必要もなかったという(INTRODUCTION CONTAGION)。
逆に言うと、悩んでるトランスジェンダーの人はトランスではないという主張なわけで、こういう理解を広めるのは本当に危険である。

この本のほとんどは、トランスジェンダーでないにも関わらず、性転換を行った子供達の悲劇についてエピソード形式で書かれている。ただし、これらは親とのインタビューで書かれたもので、当事者の意見は載っていない。「こういう経緯で、子供が不幸になった」と語られるが、本当に不幸と感じているのか、診断が間違っていたのか等は、わからない。診断の正しい間違い以前に、著者は未成年の子供達についてトランスジェンダーの性別を認めていない。

この本が、どういう価値観の元に置いて書かれているかは、例えば、第五章。ここでは子供達がトランス思想にはまったのは、親が子供に対して寛容すぎただったからではないかと書かれている。

「(間違ったトランスジェンダーを求めた子供達の両親は)エモやアニメ、無神論、共産主義、ゲイの目覚めなどについて、子供のためを思って認めたが、心を広くしすぎたのかもしれない。子供達がゲイと異性愛者の同盟に参加した時、(本当には怒っていなくても)怒ったふりをして、大声で叱っていれば、反抗をしたい子供達はそこで満足していたかもしれない」(CHAPTER 5、THE MOM AND DADS)である。

アニメが、無神論や共産主義と一緒になっているあたりはなかなか衝撃的である。アニメについては一章でも言及があり、ある少女が、「アニメと、擬人化動物」を見せられて、それがトランス思想の入り口だったとある(CHAPTER ONE,THE GIRLS,"Julie")。
要は、著者にとってアニメは「乱れた性」の一例なのだろう。

他に子供達にすべきことは、「子供にスマホを与えるな」「ジェンダー・イデオロギーの教育をするな」「田舎にいってインターネット絶ちさせろ」といった内容(CHAPTER11 WHAT SHOULD WE DO FOR OUR GIRLS? )。

全体的には「昔は性の乱れがなくて良かった」というだけの話であって、その根拠は著者の主観である(なお著者はジャーナリストであり医者や、医学研究者ではない)。根拠となる注等にも専門書や論文は、ほとんど含まれておらず、様々な間違いが指摘されている。

著者は、トランスジェンダーに反対するのではなく、トランスジェンダーでない未成年の誤診断を問題としている、というが、一方で、正しい診断がされる場合については、ほとんど言及しておらず、ジェンダー教育は有害であり、子供をおかしくすると主張している。子供達がゲイとの連帯をするのにさえ親として怒れと言っている。

最初に述べたように未成年のトランスジェンダー診断について、様々な問題があるだろうし、ネットの間違った情報の氾濫についても考えることはある。
一方で、あらゆるトランスは、ネットの情報とリベラル教育に洗脳された結果だとし、恐怖を煽るような本書の内容は明らかに問題があるだろう。

一度出版が決まった本の撤回を訴えることの問題は様々にある上で、例えば、「この本は翻訳しようと思うけど、どうか」と聞かれたら、私は心から強く反対するのは間違いない。

その上で、どのような意見でも公開、出版して議論を行おうというのであれば、例えば、これまでにこの本について、どういう議論があったかをまとめて注釈とし、訳者、出版社の本に対する立場、意見を明確にして出すという方法もあるだろう。
逆に言うと、そうした配慮が全く無いままに、この本を出すのは、無責任であると考える。

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