とある依頼屋の話

ああ、どうも。初めまして。
貴方が私の話を聞きたいという『依頼屋』ですね。
……ええ、『依頼屋』。
冒険者と依頼者、双方に益するように、冒険の依頼を『作り出す』プロフェッショナル。
それが我々『依頼屋』です。

っと、申し遅れました。
私は、リーンの街で、このような依頼を出した『依頼屋』です。

……まあ、今は昔。最近は生活の為に始めた他の稼業の方が、すっかり主となってしまいました。
私の都合の良い時にしか、今は『依頼屋』をしておりませんね。

っと。ついつい自分語りをしてしまいました、申し訳ない。私の事は置いておいて、本題を始めましょう。
ちなみにですが、これからの話は心構えといいますか……
いわゆる『技術的ではない、なんというか、ふわっとした話』になるかと思います。
技術的な事は、他の現役の『依頼屋』に聞けば、いくらでも話してくれますよ。
何だかんだで『依頼屋』は孤独ですからねぇ。そこに漬け込むのも、処世術(テクニック)かと。

では、老いぼれの長話によろしければ最後までお付き合い下さい。


※当記事は以下の企画に参加しています。
クエストノーツアドカレ Advent Calendar 2022


①まずはリーンの街の冒険者としての活動を知るべし

まず、最初に言いたい事はこれですね。
はて、何を言っているんだ?自分は『依頼屋』であって『冒険者』ではないぞ?そうお思いでしょう?
まあ、意味はちゃんとあるので宜しければ最後までお聞きください。

まず、ですね。リーンの街は冒険者の街です。
ですので、その「冒険者とはどんな存在なのか」を知る為にも、冒険者としての活動を知る必要があるのは、当然分かりますね?
ですが。ですがですが。
リーンの街の冒険者は、間違いなく貴方の想像を遥かに上回り、多彩で、多様で、理解が難しいのです。中には、目を背けたくなるような、相容れない存在もいるかもしれませんね。
そういう致し難いやもしれぬ者たちを相手にするのが『依頼屋』という商売です。

ああ、冒険するのは貴方自身で無くてもいいんでよ。新入りの冒険者数名のバックについて、協力関係を作って、話を共有する形でも十分かと。

②まずは簡単な依頼(クエスト)から出してみるべし

さて、当然ながら。
貴方も『依頼屋』などという、物好きがやる商売を始めるからには、自らの手で作りたいと望む依頼の一つや二つはあるでしょう。
それが、後世にうたわれるような壮大な冒険そのものだったりするのでしょう。
ただまあ、これは本当に万事がそうなのですが。まずは『依頼屋』の仕事に慣れるまで、簡単な依頼を作る事をお勧めします。
依頼を出すというのは、本当に簡単なものではない。ただ怪物を退治するだけの依頼であってすら、最初は苦労するものです。

・依頼人は何故に怪物を退治してほしいのか?
・冒険者はどの怪物を退治しなければならないのか?
・他にすべき事、してはならない事はないのか?

私であれば、このあたりが気になると考えます。
それが冒険者に伝わる依頼を作り出せてこそ、信用のある『依頼屋』になれるのだと思います。
それをこなすためにも、まずは簡単な依頼から手掛けていくのが、良いかと思うのです。貴方の信用もの為にも。
……いや、本当に。『依頼屋』にとって、信用はわりと商売道具ですからね?

③作った依頼(クエスト)はまず自らやってみるべし

さて、そうこうしているうちに貴方の始めて依頼が作り上がったとしましょうか。
まずは、おめでとうございます。そしてお疲れ様です。
冒険者の宿に依頼を張り出せば、貴方も晴れて一人前の『依頼屋』となったわけです。
ですが、ここで終わっては勿体無い。早速貴方お抱えの(もしくは貴方自身で)その依頼を受けてみましょう。可能な限り、事情を話した上で、他の冒険者を巻き込んで。

……恐らくその表情は疑問のそれでしょうか。
確かに、他の冒険者に受けてもらう為に依頼を出したのだとお思いでしょう。ですが、冒険者への依頼とは!実に!予想外の事故が起きるんですよ!
「何故ここが通れない!?」「何故ここでこうなる!?」「いやそこでそうする?」「あっれー、おっかしいぞー?(顔面蒼白)」……みたいな事が、まず大体、絶対に起きますので。
そういう問題を素早く取り除けるようになる事で、貴方も腕ききの『依頼屋』に近づけると思います。

それにこの手は、非常に高い精度で冒険者の行動や反応が得られます。こちらの考えと冒険者の考え、どれだけあっていたが、もしくは外れていたか。
その情報は間違いなく今後の糧になります。

……ふむ?何というか、自分で出した依頼をやるのは気が乗らない?
……それはあまりよろしくないと思いますよ。
そもそも、自分自身がやりたいと思えない依頼では、他人がやりたいも思わないでしょうから。

――さて、今回の話はこのくらいにしておきましょうか。まあ、相変わらず。大した話は出来ませんでしたね。
結局のところ「これも無数にあるうちの一つの答え」と割り切って、適当に参考にして頂ければ幸いです。
では、帰り道にはお気をつけて。


さて。
これにて『依頼屋』の話はおしまいです。
果たして、本当にこの『依頼屋』という変な職業はリーンの街にいるのでしょうか?
それを決めるのは、もはや私ではなく、貴方です。
貴方がいると思えば『依頼屋』は、貴方の見る街にちゃんといるのです。
そして、そうでなければ……はい。そういう事になるのです。

どんなに私がそれを希おうと、それは貴方の見るままにしかならない。
故に、私は。貴方が善なる眼で見て下さる事を、切に祈る訳です。
では、此度は此処でさようなら。