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【解釈・目次】七海澪・お姉ちゃん奮闘記

遠見東高校の生徒会長・七海澪は、7個下の妹・燈子が可愛くて仕方ない。自分にベッタリな妹から尊敬の眼差しで見られたいお姉ちゃんががんばる。そんなおはなし。

目次

・終業式が終わると、生徒会長の澪は仕事をすっぽかし、急いで家に帰る。
 (1. sister to bloom 本文はこちら

・生徒会役員の面々が七海家にやってくる。燈子は……。
 (fear of favor 本文はこちら

・夏休みも大詰め。澪は自分の宿題もギリギリな中、いよいよやばくなった燈子の宿題の手伝いを引き受ける。
 (priority 本文はこちら

・急に雨が降り始めた。傘を持っていない澪を学校まで迎えに来たのは……
 (What will you be like tomorrow? 本文はこちら
 ※2019年11月改稿

・澪はよく行く書店で、燈子と同い年くらいの女の子が店の手伝いをしているのを見かける。
 (sight of YOU 本文はこちら

・燈子とのジャンケンに負けた澪は醤油を買いに行くことに。
 (999 hectopascal 本文はこちら

・前日譚。高校2年春、生徒会長選を目前に控え、市ヶ谷知雪候補は焦っていた。
(「誰に微笑む」本文はこちら

・前日譚。高校2年春、生徒会長選を目前に控え、七海澪候補も焦っていた。
(For whom the flower blooms? 本文はこちら

・後日談。あるOGのもとに、7年前の生徒会長について尋ねるメッセージが届く。生徒会にいた彼女は誰より詳細に答えることができるのだが……
(Regarding "the 40.5" 山根由里華について前編 本文はこちら

・後日談。生徒会劇が復活する文化祭当日、7年前の生徒会役員が体育館を訪れていた。
(Regarding "the 40.5" 山根由里華について後編 本文はこちら

登場人物

七海 澪
生徒会長。妹・燈子のことが大好き。

七海 燈子 (とーこ)
小学生。姉・澪のことが大好き。

市ヶ谷 知雪 (雪くん)
澪に振り回される生徒会の苦労人。なんだかんだ澪を放っておけない。

山根 由里華
生徒会役員。澪のことすごい好き。今まで澪に告白した人間をすべて把握している。

林麻友・上村哲也(麻友ちゃん・哲っちゃん)
生徒会1年生ズ。麻友ちゃんは山根由里華ガチ勢。哲っちゃんはふつうに生徒会やりたくて来た人。

手芸部員のふたり
一緒に生徒会劇に向けて準備中。イメージは「二人共吉田愛果」。

お母さん
澪と燈子のお母さん。澪が立派に生徒会長していて鼻が高い。

解釈とか

七海澪について

アニメBlu-ray全4巻が揃い、一気見していたところ、七海澪の存在が示唆されたときに「この姉は姉で、妹のこと大好きだったのではないか?」と何となく思った、それが始まりでした。根拠は薄いですが強いて言うなら市ヶ谷知雪の「あれで妹の前では見栄張ってたのかも」発言です。そこからいろいろ膨れ上がり、気づいた時にはプロットが組み上がっていた、それがこのシリーズになります。澪・燈子大好き説からスタートしているため、本シリーズにおける七海澪はだいぶ突き抜けた(しかし邪悪ではない)シスコンとして描かれています。原作世界における七海澪がこうだったはず、と言いたいのではなく、「案外こんなものだったかもよ」とお気楽に書き並べているだけの、単なる妄想の産物です。

平時の七海澪の一人称「あたし」や砕けた口調は、燈子の前で背伸びするときの言動とのギャップをわかりやすくするために導入したものですが、少なくとも本シリーズにおいてはなんだかんだしっくり来ていた気がします。


七海澪とは結局「どんな人間だった」のでしょうか。市ヶ谷知雪によれば仕事を周りに押し付けてのんきにしてる、ちょっと困ったやつでした。一方で教師からの信頼が篤かったこと、演説等の要所をきっちり決めていたことからは、少なくとも生徒会の顔として矢面に立っていたことは窺えます。また、市ヶ谷知雪たち当時の生徒会役員が彼女のことを大好きだったという事実からは、七海澪が役員たちを決して無下にせず、大切にしていたようにも思われます。彼女が「どんな人間だった」かなどというのは結局考えても詮無いことですが、「矢面に立ち、責任を引き受け、決して言い訳せず、周囲に頭を下げることも厭わず、その苦労を周囲に悟らせもしない、相当な器量を備えた人物だった」、私にはそう思えてなりません。

七海燈子について

本シリーズにおいて、七海燈子は原作において言及されたイメージを踏まえつつ(怖がりで、姉が好きで、姉の後ろに隠れていたというようなもの)、ただひたすらかわいい存在として描かれました。これには私がこの当時の七海燈子の内面について深入りすることを避けたという側面もあります。(七海澪の一人称視点となっていることで他のキャラクターについても内面を掘り下げすぎないつくりになっています。)

七海燈子は七海澪を目指した結果、教師にも信頼される立派な生徒会長になりました。違う点はきっと、七海澪は周囲を頼ることができたという点にあると思います。七海燈子は他人を頼ることに少なからず抵抗感を示す描写がありました。生徒会劇をやり遂げた七海燈子はどうなっていくのか、……もう御覧になりましたか?私には草葉の陰で感涙にむせぶ七海澪の姿がはっきりと視えました(もちろん幻覚)。

市ヶ谷知雪について

本シリーズにおける七海澪のパーソナリティは、市ヶ谷知雪の回想を下敷きにした部分が多くなっています。ただし七海澪という人物については、既に述べた通り、市ヶ谷知雪の語ったことがすべてではないはずです。確かに七海澪は仕事を役員に押し付けていた節があるようですが、生徒会顧問の青山教諭が七海澪は信頼されていた、生徒会長・七海燈子は七海澪にそっくりだと述べたのは、故人の思い出を極端に美化している様子でもありません。結局どちらも正しいのではないでしょうか。「誰だって多かれ少なかれそういうもの」なのです。市ヶ谷知雪の語る七海澪は「市ヶ谷知雪から見た七海澪」に過ぎないのです。それでもそれを聞いた七海燈子の心は大きく揺らいでしまった訳なのですが……

市ヶ谷知雪本人について言えば、彼が市民劇団で演劇を続けているのは、七海澪とともに作り上げるはずだった生徒会劇に対する未練によるところがあるのではないかと妄想しています。また、「生徒会長選で七海澪の対立候補だったが戦ううちに彼女の人間的魅力に触れ、負けを認めるに至った説(100%妄想)」など、彼について考えるのも楽しいです。

山根由里華について

アニメ1期第4話にて、小糸侑が偶然7年前の生徒会劇資料を手に取るシーンがありました。そこに書かれていた名前は「七海澪、市ヶ谷知雪、山根由里華、上村哲也、林麻友」。7年前の生徒会を書くにあたり、市ヶ谷知雪に加えてもうひとり名前のある人物がいると書きやすいような気がしたので、とりあえず上の方に書いてある山根由里華の名前を借りてきたのでした。つまり本シリーズはアニメ時空です。

悪ノリで「澪のことすごい好き」という設定(「好きってそういう?」)を付与し、雪くんはどうせ澪に突っかかるだろうからと由里華には理解者的なムーヴをしてもらいました。すると書いているうちになんだか楽しくなり、最終的には名前を借りてきただけとは思えないくらいのメインキャラになりました。私の中で山根由里華のひとり歩きは留まるところを知らず、ついには「山根由里華について」など書いてしまう始末です。ヘンな話、今や私は山根由里華という名前だけのキャラクターに対し、世界一と言っていいレベルで強い思い入れを持っているのです。なんだか妙なことになったなあ。

市ヶ谷知雪が七海燈子に対して元副会長と名乗っていないことや彼が七海澪の会長職を継いだような話がなかったことから、山根由里華を七海澪の推薦責任者→そのまま副会長、市ヶ谷知雪を七海澪の対立候補→選挙終了直後に志願してヒラ役員(100%妄想)としています。このへんは「やが君」の物語において完全な余白であり、言ったもん勝ちになってしまうのですが。

七海母について

七海母は七海燈子が七海澪にできなかったことをやろうとしてくれていることを嬉しく思っており、そんなことしなくていいのにという七海父とはスタンスが対照的です。七海燈子が無理してるところとか、姉を失ったときの回想とかを目の当たりにしている読者・視聴者としては、燈子の頑張りを手放しで喜ぶ七海母に対して思うところが出てくるかもしれないのですが……

たとえばですよ。幼少期の七海澪が市ヶ谷知雪の言うような困ったやつ的側面の強い、良くも悪くも手のかかる子供だったとします。その子がばっちり物心ついた7歳で初めて妹を持ったわけです。産まれてきた妹かわいさに背筋が伸び、りっぱなお姉ちゃんになるぞー!と、努めて大人っぽく、まじめに、しっかり者みたいに振る舞い始めた長女。それは背伸びに違いありませんが、親としてはそんな娘を愛おしく思わないはずがありません。その末に皆に慕われる生徒会長へと成長した七海澪をどうして誇りに思わずにいられるでしょう。七海澪が実際のところどういう人間なのかはもはやこの際関係ありません。澪は間違いなく自慢の娘なのです。

その七海澪が突然亡くなると、今度は妹の燈子が変わったのです。大好きな姉の死を悲しみ、悼み、お姉ちゃんみたいにと努めて立派な振る舞いを始め、これまた頼もしい生徒会長へと成長した次女。やはり背伸びですし、それどころか結構無理をしているようですが、この変化はやはり誇らしいものではないでしょうか。「あなたは澪とは違うんだから無理しなくていいのよ」なんて突き放すようなことはまず言う気にならないでしょう。残された大事な娘が、亡くなった自慢の姉の、その先へ行こうとしているのだから。ただし七海父が言うように燈子は無理をしていましたし、家族がいろんなことを話さなさすぎたというのも事実のようです。生徒会劇が終わって、七海親子は澪が亡くなってからの7年間について話す機会を持ったと思います。以後七海両親は親として、また良き理解者として、自慢の娘を応援しているのでしょう。
(ここまで100%妄想)

原作において、七海燈子が姉になろうとしたのが間違いだと言われなかったことが個人的には救いでした。「やがて君になる」は七海燈子を中心に見た場合、「あなたは自分に価値がないと言うけれど、わたしたちにはあなたが特別なのだから、どうかわたしたちの好意を受け取ってください」という物語として捉えることができると思います。すごく、すごい。超好き。雑な締め方ですみません。

各話あとがき(執筆順)

1. sister to bloom

「七海澪が実は燈子のこと大好き」という妄想が勢いよく膨れ上がって物語のプロットの形に捏ね上がったものです。その妄想の中で七海澪がどういうシスコンであるかを余すところなく説明する、いわば導入編です。

各話サブタイトルが無駄に英語なのはこの "sister to bloom" というフレーズが降りてきたからです。念のため補足すると、このフレーズは燈子を指すものです。教科書的に言えば to 不定詞の用法のうち「予定・運命」です。「とーこはきっと、みんなに愛される素敵な女の子になれる。なるに決まってる。」が強いて言うならタイトル回収になっています。

原作の七海燈子は紅茶派であることが窺えます。これについて私は直感的に
・実はコーヒーが苦くて飲めない
・姉の影響
のいずれかが理由ではないかと思っていました。苦くて飲めない説も十分ありえますが、ここでは姉の影響で紅茶に目覚めた描写(100%妄想)を入れてみました。ブラックコーヒー飲めない要素については七海澪に組み込まれました。

"priority"

1. sister to bloom 執筆中のことでした。七海姉妹の劇中世間話として夏休みっぽい話題を探していた折、七海澪が宿題終わらなかったという原作雪くんの回想を思い出したのですが、燈子もなんだか宿題終わりそうな感じじゃありません。燈子をほっとけない七海澪が宿題をガッツリ手伝って、そのせいで自分の宿題が終わらなかったのでは……?なんと夢のある話でしょうか。

この妄想に至ったときの高揚感たるや。情動に任せて一気に書き上げました。タイトルの意味はもちろん「とーこが最優先」。細かい言い回しとかはともかく、原作由来の情報と個人的妄想のブレンド具合や、ストーリー構成、描写解像度コントロールなどがかなりイメージ通りになり、当時の狂熱がそのままの純度で、かつちゃんと物語の形を成してくれました。この回のプロットはどこも悩んだところがなく、宿題が終わらないと泣きつくかわいい生き物も、生徒会のみんなのリアクションも、まるでそういうシーンを観たことがあるかのような感覚でした。

"What will you be like tomorrow?"

priority の構想に至ったころ、原作で出てきた七海澪に関する言及に対し、それぞれ対応するエピソードを書ける可能性はあると思いました。そういったものを構想として本稿に書き留めていたのですが、いざエピソードを書くとなると、これが難産でした。原作で述べられた出来事がそこにあるのに、私自身の妄想成分がいささか火力不足で、意外と物語の形になりません。なんとかいったん形にして投稿したものの、ずっとモヤモヤがつきまとっているような感じでした。ただし山根由里華さんについては最初からばっちり仕上がっており、後述の改稿後も山根由里華の描写はまったく変わっていません。

2019年11月に改稿を実施したのですが、この改稿とその後の 999 hectopascal 以降のエピソード執筆は、本シリーズに対する嬉しい感想を1件 twitter で見かけたことに端を発します。この場を借りてこっそりお礼を述べておきます。

"999 hectopascal"

最初の構想段階ではこのエピソードは一生仕上がらないと思っていました。なにしろ七海澪の命日の話です。どういう結末にしたらよいかわからない。しかしそれから時が経って、原作が完結して、このエピソードに救いのある結末が齎されるような気がしました。

加えて、「佐伯沙弥香について」2巻です。あれはすごい。やが君関連で本編描写外の妄想をする上で、あの1冊からいくらでもインスピレーションを得ることができる気がします。第2のビッグバンの生ずるがごときすさまじいブレイクスルーをこの宇宙に齎しています。

"999 hectopascal" というタイトルは、筆者意外にはわけわからんフレーズですが、筆者は気に入っています。これは「hectopascal という単語をタイトルに使いたい」という全生命体が有する原初的欲求に端を発するものとなっており、hPa がほぼ気圧にしか使われない単位であることから、実際の気圧の値として「銀河鉄道」という単語を想起させる「999」を選定し、七海澪の命日が気圧の低い(天気の悪い)日だったという捏造設定を生み出して七海澪命日エピの仮題としました。

塞翁が馬とか、セレンディピティとかいうやつでしょうか。1. sister to bloom から続けてきた学年・日付表記と「とーこ」という呼称が、本エピソードの最終チャプター【燈子高校2年、12月XX日】で特別な意味を持つこととなりました。学年・日付は執筆が時系列順にならないと踏んでとりあえずつけておいただけでした。「とーこ」呼びに至っては「かわいいから」の1点のみによるものです(オールひらがなは読みづらいのでやめた方がよいかと悩んだくらいでした)。"999 hectopascal" のエンディングは原作漫画本編が完結してから(先行エピソード群より半年以上後に)構想が降りてきた訳ですが、いざ書こうとするとすべてがこのエンディングのためにあったかのように噛み合っていきました。書きたくない部分を書かなかった結果として曖昧になった部分もありますが、あのエンディングに辿り着けてよかったと思います。

"sight of YOU"

七海澪が小糸侑を見かけるくだり(100%妄想)。

当時七海家は遠見近辺に住んでいたため、小糸侑が昔から店の手伝いをしていたならば(多分そうでしょう)、七海澪は小糸侑と会っていた可能性が十分にあります(七海澪の写真を見た小糸侑の反応からすると望み薄ですが、憶えてないだけとすれば矛盾はしませんし、「佐伯沙弥香について」2巻を踏まえるとやはり可能性はゼロではありません)。

本エピソードは番外編的な位置づけになりました。小糸侑との短いやり取りを通して七海姉妹の関係性を間接的に描くようなやり方をしています。原作の小糸侑といえば「特別がわからない」からスタートする「好き」をめぐる心の動きが大きな魅力ですが、今回小糸侑を書く上で「特別がわからない」側面は出てきません(9歳ですし)。しかしそれでも小糸侑という人は魅力に溢れています。「好きを持たない君」ではなくなっても結局七海先輩は小糸さんのことが好きなわけですが、何も不思議なことはありません。

小糸侑の誕生日4/5に小糸さんについて考えていたら小糸さんがミステリ好きであることを思い出し、突発的に執筆&UPしましたが、誕生日要素は皆無。半年程度位相がずれています。

タイトルは "caught sight of you (Yuu)" という出来事、それから「侑」の「眼差し(sight)」という構想当初のキーワードから来たものです。

Regarding "the 40.5"(山根由里華について)

アニメで小糸さんが7年前の生徒会長について調べるシーン。あの24歳卒業生さんの返信は、人望のある生徒会長が任期中に亡くなったにしてはやけに淡々としているように思えなくもありません。「七海澪さん」が亡くなったことも、その後を受けた会長に相当する人の話も出てきません。もしやこの卒業生さんとは、かつて生徒会に在籍し、さらに言えば故・七海澪会長の後を継いだ40.5代生徒会長なのでは?(本シリーズではそれに相当する人物は山根由里華以外ありえません。)……もし本当にそうなら出来過ぎですし、世間狭すぎです。しかしこの妄想を無理やりねじ込むことで、一応すとーーんと腑に落ちる部分もあったりして。所詮は妄想で、こうだったかもしれないと考えるのが楽しいというだけなのですが。

「こいとれーちゃん」呼びは思いつきです。山根由里華は「しっかり者だが堅物ではなくそれなりにくだけた接し方をする人」という想定です。

「誰に微笑む」

上述の市ヶ谷知雪が七海澪の対立候補だった妄想を本採用しました。また、「雪くん」という並外れたセンスのあだ名を七海澪由来にしました(こちらも妄想)。

日付について、アニメ内カレンダーが2018年だったことからこのエピソードは2011年を仮定しています。アニメが5月7日(月)立会演説会だったため、このエピソードでは5月9日(月)投票としました。(既存エピソードは日付を適当に決めていたため、これを機に再設定しています。)「七海澪が演説原稿できてなくて手伝いの生徒に怒られてる」状況にしたかったためエピソード開始を5月6日(金)としましたが、これにより市ヶ谷知雪の動きが遅きに失している感じが出てしまっています。そこについては目を瞑っていただければ。

三人称で、かつ市ヶ谷知雪の視点に寄り添って書いてみたところ、七海澪がなんかあざといラブコメヒロインみたいになり、書いてる本人としては新鮮な気持ちでした。

本エピソード執筆の目的は「山根由里華について」と併せて "fear of favor" 執筆に必要な何かを受信することでした。執筆中に受信にはほぼ成功し、「あとは書くだけ」に近い状態まで持って行くことができました。

タイトルは執筆終盤までぜんぜん決まりませんでした。"For whom the flower blooms?" という英題が先に出てきて、最終的にはその日本語訳版タイトルじみたフレーズを採用しました。「誰に微笑む」の主語として「勝利の女神」を思い浮かべやすいですが、「これは七海澪が妹に微笑んでいるのだ」という発想が私なんかは出てきてしまいますし、もっと単純に七海澪に微笑む勝利の女神・燈子を思い浮かべることもできます。英題のもとになったフレーズは「女子高生収容所」で検索。トンチキですが美しく神聖な物語です。

"fear of favor"

生徒会役員たちの七海家訪問。原作でそういう出来事があったと明言されており、それに対するエピソードタイトルが浮かんだところから始まっています。タイトルは原作の印象的なフレーズ「『好き』が怖い」に英語を当てたらいい感じの語感になり、正直気に入っています。しかし「『好き』が怖い」はあくまで姉を失って以降の燈子の感情です。そこに深入りはしていません。「好き」を「子供に向けられる好奇の視線」に読み替えています。

また、原作第十話にあるように、七海燈子は七海澪がたくさんの好意を向けられていたことを、主観や願望というよりは知識として知っている様子でした。ここではそれを山根由里華が教えてくれたことにしました。余談ですが「山根由里華について」後編を執筆するまで、本エピソードで七海燈子が山根由里華に完全に懐いて「由里華お姉ちゃん」と呼ぶ構想がありましたが、採用しませんでした。山根由里華と七海燈子は七海澪がいなくなったことにより接点がなくなり、その後目立った交流もないはずです。両者が直接の仲良しになった場合、七海澪の死後も互いに交流を持ち、支える関係となり、原作本編と齟齬を生じかねない気がしました(七海家の引っ越し以降疎遠になった、でも通りますが)。ふたりはあくまで七海澪のことが大好きなのです。

このエピソードを完成させるために、生徒会役員たちには今までよりも主体的に動いてもらう必要がありました。今までよりもソリッドな生徒会役員たちを受信するために「山根由里華について」及び市ヶ谷知雪選挙戦エピソードを執筆しました。本エピソードでは結局生徒会役員全員にセリフが生まれ(特に林麻友後輩にはがんばってもらいました)、描写としては結構わちゃわちゃしましたが、好意的に解釈すれば「お祭り感」が出たと言えます。

"For whom the flower blooms?"

選挙戦エピソードの七海澪視点バージョン。七海澪と市ヶ谷知雪が選挙戦を繰り広げるという発想自体は実のところシリーズ最初期からありました。それでも構想に書き留めていなかったのはこの妄想が、言ったもん勝ちな他の妄想と異なり(主観ですが)、原作世界と明確に食い違っている可能性があったためでした。特に原作の市ヶ谷知雪は七海澪の「同級生」だったと言っており、選挙以前から親交があった可能性が十分に考えられます。だから私はこの妄想については裏設定的なものとしてこの記事にひっそり書いておくに留めていました。私は好き勝手に妄想をぶちまけつつも、原作との齟齬については相応に慎重な考えを持っているのです。

しかし結局 fear of favor への足掛かりとして「誰に微笑む」を書いたため、この危険(?)な妄想は形になりました。こうなってしまった以上、こちらも書かない理由がありません。さらに、同じ話をいつもの七海澪視点で書き、ゆるい対比構造にしつつこちらにだけシリーズタイトルをつけると楽しそうだと思いました。意外と文字数が膨れ上がりましたが、削りたくない描写ばかりだったので特に削らずシリーズ最長エピソードとなりました。文字数2位・山根由里華について後編に2000文字差がついています。

後発エピソードについて

※以降は執筆順ではありません

"where the sun rises" / 舞台の上へ

【やが君二次創作】七海澪・お姉ちゃん奮闘記 0.0 "where the sun rises"|ya__moto|note

【やが君2.5次創作】「舞台の上へ」|ya__moto|note

七海澪が生徒会長になることを決意した話の、七海澪視点及び山根由里華視点です。後述する「或る日の明晰夢」への足掛かりとして執筆しました。もう「原作世界との齟齬を生じかねない」とか言っても今さらな領域に完全に入ってしまっています。

「山根由里華について」のときから「太陽」を七海澪の象徴として描写しています。太陽が昇るのは「東」からだなあと思ったりもしつつ、"where the sun rises" が指すものとしては「七海澪が立つ遠見東高校体育館のステージ」を想定しています。

お姉ちゃん奮闘(予定)記 "Hello, my world!"

【やが君二次創作】七海澪・お姉ちゃん奮闘(予定)記 "Hello, my world!"|ya__moto|note

七海燈子誕生の瞬間です。高校生時系列とのつながりは特にない独立したエピソードになっている感じがします。

これをわざわざ書いたのはバレンタインエピ構想との関連によるものでした。そちらは結局単体エピにするほどのボリュームじゃねえなと思ったので、ここにエピソード断片としてアイディアだけ書いておきます。

エピソード断片『呑まれるなかれ』
 2月14日、放課後の教室、山根由里華が自席の椅子に座ったまま硬直している。机の上に置かれた手は、前の席に座って後ろを向く七海澪の両手に握られている。七海の顔は、親友の山根ですら見たことがないほど赤い。七海の豹変に頭が真っ白になり、なすがままの山根はやがて、七海がうわごとめいてか細い声を発しているのに気付いた。
「…………とー……こ……お姉ちゃん……だよ……と……ーこ……」
 瞬間、蕩けそうになっていた山根の目がスッと醒めた。冷静さを取り戻した山根はすぐ事の元凶を視界に捉えた。七海の机に置かれている、クラスの女子が配って回っていたチョコレートのひとつ……微量のアルコールを含む……が開封されている。これほどまでにアルコールに弱いとは……想い人の知らなかった一面を知ったことを喜ぶ余裕はしかし、今の山根にはなかった。
「はぁ~~~……」
 長いため息をついた山根は、結局七海の手を振り払うこともできず、七海が眠りにつき、また目を覚ますまでの間、なすがままにされ続けていた。
「あれ、由里華?」
 正気に戻った七海を、山根は冷たい眼で見据える。こんな不機嫌な顔を七海に向けていることに、山根自身がいちばん驚いていた。
「澪、約束して。成人してもお酒は飲んじゃだめ。アルコールの入ったお菓子もだめ。もし約束破ったら、ぐでんぐでんになった澪を私がお持ち帰りして、醜態を動画に撮って、とーこちゃんに見せるから。わかった?」

"Insomnia"

【やが君二次創作】"Insomnia"|ya__moto|note

 もともとこのシリーズとは別時空のおはなしとしてアップロードしたものですが、ここに書いておきます。別時空想定なので「私」「燈子」という表記が見られます。

 この話は「自分になろうとする七海燈子を見ていられず、来る日も来る日も自動車に飛び込み続ける幽霊七海澪」的な妄想ツイートをテキストの形にしたものです。エピソード化にあたって七海澪が心を痛める対象が「自分の死から立ち直れず弱りきった七海燈子」に変わっています。 "999 hectopascal" あとがきで触れた「書きたくない部分」とはまさに、亡くなった七海澪が、自分の代わりになろうとする七海燈子をどう思うかでした。ここについて私は答えを出したくないため、このエピソードでは触れませんでしたし、今後も触れないと思います。

 結果的に後述の「或る日の明晰夢」と地続きになるため、これもこのシリーズの1編と言ってもよいかもしれません。筆者は心の中でこれらを「おばけシリーズ」と呼んでいます。

或る日の明晰夢:水族館にて

【やが君2?次創作】或る日の明晰夢:水族館にて|ya__moto|note

 七海澪と山根由里華がデートに行く回です。こちらもこのシリーズとは別時空、七海澪生存 IF として書き始めましたが……おそろしく時間をかけて執筆する中で、いろいろと変遷した部分が多いです。

 さて、このエピソードを仕上げてアップロードするにあたり、筆者が想定している設定的なものを以下に書いていきます。しかし「そうでない読み方もできるように」ということを強く意識して本エピソードは書かれましたので、この筆者想定に囚われる必要はまったくありません。むしろ貴方がこうだと考えたことが筆者想定と異なった場合、貴方が正しく、筆者が間違っています。そのくらいのつもりでご覧ください。


Q: タイトルに「夢」ってついてるけど、これは夢なの?
A: 夢です。山根由里華の夢です。

Q: 七海澪は生きてるの?
A: 亡くなってます。これはシリーズ本編、七海澪の命日の1週間~10日ほど後の話です。

Q: 山根由里華はこれが夢だと気づいている?
A: 気づいています。

Q: 山根由里華はよくこういう夢を見るの?
A: この夢のひとつ前まではこういう夢を見ていました。

 下校中、いつもの分かれ道で、山根由里華はなんの前触れもなく、鞄から醤油の2リットルボトルを取り出した。呆然とする七海澪に醤油の大ボトルを差し出しながら、山根由里華は真剣な表情で告げた。
「澪、お願い。何も言わずにこれを受け取って。今日は寄り道しないで、真っ直ぐ家に帰って」 
エピソード断片『或る日の夢:帰り路にて』
 最初は、あの日の記憶の再現だった。澪と途中まで一緒に帰って、別れを告げて、自転車に乗って、雨が降り出す前に自宅に到着した。その後家で特に何事もなく過ごしていると、20時を回ったころ、家の電話が鳴った。そこで目が覚めた。電話が鳴るのを聞いた瞬間、つまり目を覚ます直前になって、これがあの日の再現だと気付いた。あの日、つまり、澪がいなくなった日。
 次の日も、その次の日も、あの日の光景を夢に見た。私は夢の中にいながら、それらが夢だと気付くようになった。現実の澪はもう亡くなっていて、生き返るわけもない。そう理解しながらも、この連日の夢の中で、澪のいる明日を迎えることができないか、私は試さずにはいられなかった。
 そして…………ことごとく失敗した。私はもう6日連続で、あの日の家の電話の音で目を覚ましている。大切なひとを何度も死なせている自分に、無力感が募る。しかし、私は何もできなかったわけではない。澪が車に撥ねられたのが、(少なくともこの夢の世界では、)家で切らした醤油を買いに行く途中の出来事だったことがわかった。もうなりふり構っている余裕はなかった。澪が出かける原因を絶つべく、7日目の夢の中、私は澪に醤油のボトルを持ち帰らせることにしたのだった。
「由里華……?どゆこと?」
 聡明な澪も私の意図を測りかね、眉根を寄せる。正直、この際どう思ってもらっても構わない。早く解放されたい。大切なひとの死に対して何もできない自責から逃れたい。いいから黙ってそれを持って帰って、家でじっとしててよ……
「由里華、今日ずっと元気ないし、なんか様子がヘンだよ?」
「おかしくもなるよ!こんなの!」
 思わず声を荒げてしまう。澪はびくりと身体を震わせ、悲しい顔をする。違う。そんな顔をさせたかったわけじゃない。我に返った私は縋るように続ける。
「澪。ごめん……ごめんね。イミわかんないよね。でもお願い。今日だけだから。明日から普通にするから。だから今日だけは、何も言わずに私の言うとおりにして……」
「由里華……」
 澪はまだ釈然とはしない様子だったけれど、私の両肩に手を置いて微笑んだ。
「よくわかんないけど、由里華がそう言うんだったら、そのとおりにする。明日でいいから、何があったのか話してよね」
 澪が私の手から醤油を受け取り、帰路につく。
「じゃあ、由里華。また明日ねー」
 私のこんな意味不明の言動を全部飲み込んで、笑顔で手を振る澪。その姿に、私は見とれた。見とれてしまったのだ。澪に高速で近づく自動車の姿にすら気づかないほどに。

Q: 「水族館にて」は山根由里華の都合のいい幻想ということ?
A: これはただの夢ではなく、七海澪(霊)が直接干渉しています。

Q: 結局、「水族館にて」はどういう状況?
A: 以下の文章の続きに相当します。

エピソード断片
『或る日の明晰夢:デートに行きませんか / "see you on the other side"』

 私は、隣を歩く澪の横顔を見るのが好きだった。背筋を伸ばし、まっすぐ前を向いて進み続ける澪の横顔はいつも輝いていた。しかし、ある時期から、澪の顔が以前より少し頻繁にこちらを向くようになった。いつも天を目掛けて真っ直ぐ伸びていた背骨が、ほんの僅かにこちらへ傾くようになった。ずっと澪との距離を測り続けていた私に対して、澪の方から距離を詰めてきているのがわかった。大学生活が始まり、新生活のバタバタも落ち着いてきたころ、ついに私は澪にこう切り出した。
「澪、……デートに行きませんか?ただ遊びに行くのをデートって呼ぶだけとかそういうんじゃなくて、もっと、ちゃんとした、やつ……」
―――――――――――――
 時間をほんの少しだけ遡る。あたしは途方に暮れていた。交通事故で死んでしまって、その後の気がかりが、ふたつ。ひとつはもちろん妹のとーこのこと。そしてもうひとつは、親友の由里華のことだ。
 あたしの葬儀を終えてから、由里華はここ1週間くらい、ずっと悪夢にうなされている。それが今朝は特に酷かった。目を覚ました由里華の顔は青白く、呼吸は浅く、ふらふらと立ち上がると、早足でトイレに向かった。トイレからすぐに出てくると、青ざめた顔で、身体を小さく震わせながら、体調が優れないので学校を休むと母親に告げた。またふらふらと部屋に戻り、ドアの鍵を閉め、ベッドに倒れこむと、両手で顔を押さえて泣き続けた。押し殺した嗚咽が聞こえてくる。そのまま1時間。由里華は気を失うように、また眠りに落ちた。
 あたしはどうしたらいい?死んでしまったあたしにはもう、由里華にしてあげられることなんかなにもない。胸の中に渦巻くこの気持ちに、どうやって整理をつけたらいい?由里華と、話がしたい。あたしは目をぎゅっと閉じた。
「由里華…………!」
 あたしがふたたび目を開くと、……目の前に由里華がいた。
「……あれ?」
 すると由里華はなんの前置きもなく、鞄からお醤油のボトルを取り出して、あたしに渡そうとしてくる。
「澪、何も言わずにこれを受け取って。あと、今日は澪のこと、家まで送っていくから」
 由里華は必死だった。あたしはこれが由里華の夢の中だと直感した。そして……由里華を苛み続ける悪夢の正体を理解した。
「由里華」
 あたしは由里華を抱きしめた。こんな状態でも自分を助けようとしてくれる由里華のことを、抱きしめずにはいられなかった。由里華を両腕で包み込んだまま、一刻も早く由里華の不安を取り除くため、言葉を選びながら告げる。
「ありがとう、由里華。安心してほしい。ぜったいに車にひかれないように、気をつけて帰るからね」
「え、澪……?」
「お醤油はありがたくもらっておくね。家で今日切らしちゃうから
「…………!」
「でも、本屋に寄ってもいい?……大丈夫。あの時だって、いちどは家に帰りついたんだよ?そうだ、由里華もいっしょにくる?」
「澪、まさか……!」
 由里華が状況を理解する。あたしは両腕にいっそう力を込めた。
「由里華、もう大丈夫」
 由里華は驚きのあまり言葉が継げなくなって、ただあたしに体重を預けた。お醬油のボトルがみぞおちに当たって痛かったけど、気にせずそのまま抱きしめ続けた。
 そこからはもうとにかく、とんとん拍子だった。無傷のまま家に帰って、明日を迎えて、いよいよ大詰めになってきた文化祭準備にみんなと取り組む。ちょっとしたトラブルが発生して、力を合わせて乗り越えて、その勢いで文化祭当日。生徒会劇『ミステリー部殺人事件』は大盛況。とーこも目をキラキラさせて、ものすごいテンションでほめてくれた。
 夢というにはハッキリしすぎって言われるかもしれないんだけど、あたしたち的には全然そんなことない。これは本来由里華が、そしてあたしが、ずっと夢に見つづけていた光景なんだからね。
 ……さて、と。
 あたしは「とーこの立派なお姉ちゃん」という役割をひととおりやりきったことになる。これからどうしようかねえ。ま、これは夢だし、生き返ったりするわけじゃないんだけどね。妹離れして、妹関係以外のあたしの幸せを考えてみたんだけど、ひとりの顔しか浮かんでこない。
「由里華」
 あたしにとって、由里華は最初から特別な存在ではあったと思う。話しやすさとか、頼れるところとか。生徒会に誘ったのも、だれでもよかったわけじゃない。でもそれ以上のところは正直、よく考えていなかった。
 由里華のあたしに対する接しかたはというと、そりゃずっとやさしかったんだけど、最初はだれにでも親切な性格の延長だったと思う。変わったとしたら、あたしが生徒会に誘ってからだ。あれから由里華は、あたしを少しだけ特別扱いするようになった。宿題とかなにも言わずに見せてくれるようになったし、あたしが怒られそうになるとかばってくれた。……振り返るとろくでもないやつだな、あたし。
 とにかく、由里華はあたしに1段階上の好意を与えつづけてくれた。その積み重ねがボディブローみたいに効いたのかな、あたし自身の幸せを考えてみたとき、もう由里華以外考えられなかった。というわけで、
「由里華あ……」
「由里華?」
「由里華!」
 あたしも由里華への接しかたを変えてみた。視線を送る頻度を高くして、並んで歩くときの距離を近くして、あと、たまに、ボディタッチなんかもしてみたりして。ちょっと照れちゃうけど、照れが残ってるほうが気持ちが伝わるとも思ったから、特に取り繕わないことにした。
「……!」
 そのたびちょっとどぎまぎする由里華が可愛くて、あたしももっと仕掛けたくなる。そんなことを続けてだいたい1年半弱(長い夢だよね)、今日も今日とてあたしは由里華を買い物に連れまわしていた。その帰りにお茶していると、由里華がちょっともじもじしながら口を開いた。
「澪、……」
 これは、待ちに待った瞬間がついにきたかもしれない。
「ん」
 あたしははやく続きが聞きたいとばかりに、少し身を乗り出した。由里華が息を吸って、吐いて、続ける。
「澪、……デートに行きませんか?ただ遊びに行くのをデートって呼ぶだけとかそういうんじゃなくて、もっと、ちゃんとした、やつ……」
 由里華が言いよどむ。可愛い。……うん。あたしのこれは、とーこへの気持ちとは別の感情だ。
「ふふ」
 てっきりつき合ってって言われるかと思ったんだけど、デートか、なるほどねえ。ていうかさ、どうせ夢なんだから、さくっとつき合っちゃえばいいのにね。なんていうか……真面目だよね。
「ふふふ」
 愛しい。あたしは自分の気持ちに正直に、心を込めて返事をした。
「はい、よろこんで」

Q: 最後は夢から覚めたの?
A: 覚めたと思います。あれ以上はほんとうに帰れなくなるかもしれない。

Q: 「水族館にて」の七海澪視点バージョンはある?
A: ありません。七海澪については「水族館にて」での描写が必要十分です。

終わりに

七海澪、ひいては7年前の生徒会に関するエピソードの構想はすべて出し切りました。もうほんとうに、なにもありません。「市ヶ谷知雪(CV: 興津和幸さん)の首から下の肉体を奪って生き延びていた悪のカリスマMIOとの宿命の戦い(スタンドバトル)を描く『MIOの世界』」とか、そういう処理しきれないやつしかありません。

私がやりたかったのは創作というより、原作から拾ってきた点と点をつないで「仮説もどき」を考えることでした。そうやってあれこれ巡らせた妄想の足跡を残すために、それらのエピソードを物語の形に捏ね上げていました。(それらが正解である保証も、必要もないので「仮説」ですらなく「もどき」です。七海澪がシスコンであるとするスタート地点から既に「仮説もどき」です。)従って、或る意味無限に続けられる特定CP二次創作等とはやや異なり、原作から拾ってきたものを出し切った時点で終わりとなります。私の特に気に入っているエピソードを挙げるとすれば「priority」、さらに言えば「999 hectopascal」と「regarding "the 40.5" 山根由里華について」前後編となるのですが、これらは「仮説もどき」の側面が特に色濃く出つつ、そのうえで私なりのエンターテインメントになってくれたやつらです。

七海澪妄想については一段落となりますが、本シリーズの執筆過程のように「やが君」という作品を繰り返し摂取することは人生を豊かにするため、そこは今後も大事にしたいです。この「やがて君になる」という終わっても終わらない一生モノの作品を今後もいろいろな形で楽しんでいきたいと思います。できればアニメ2期とか、それはもういろいろな形で。

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