ニンジャスレイヤー・トリロジーにおけるニンジャの死因
※本稿はニンジャ学会誌に投稿されたものではありませんが、2019年のニンジャスレイヤー222企画に参加するため投稿されたものです
ニンジャスレイヤー1) はニンジャが死ぬ小説であり、作中において多数のニンジャがその命を失っている。多様なニンジャの戦においては、その散り方もまた多種多様であるからこそマッポーの世に微かな彩りを添えてくれる。本研究においてはニンジャスレイヤー・トリロジーのTwitter連載中に死亡したニンジャの死因を様々に分類し、傾向を見る手段を提案する。
背景
ニンジャスレイヤーには数多くの個性的なニンジャたちが登場し、物語を作っていく。あるものは組織のために忠義を尽くし、あるものは己の欲望に従う。しかし、その多くは死を迎える−なぜならこの物語はニンジャスレイヤーだから。
彼らの死を思い返す縁として、Twitterの大海には一つのbotが存在する。「オタッシャ重点 @bakuhatsushisan」2) がそれであり、ニンジャスレイヤーのTwitter連載時に散ったニンジャの名を命日に奥ゆかしく教えてくれる。
しかしながら、それぞれのニンジャが誰に殺され、武器は何であり、どこが致命傷となり、爆発四散したのかしないのか…そのようなことを振り返るには、一つ一つのエピソードを読み返すしかなく、全体的な傾向やその移り変わりを見ることは困難であった。本研究の目的はそのような情報を分析することでニンジャスレイヤー世界の理解の一助とすることにある。
材料と方法
ニンジャスレイヤー作中には多数のニンジャが登場し、そのニンジャネームや死因はTwitter版と書籍版でも異なる。また第4部からは作中時間がかなり経過し、同じニンジャネームを持つ別のニンジャも登場する。このため、本研究に用いる材料としては検索性に優れるTwitter連載版のログが残る、Twilog 3) を基に、第1-3部に登場(死亡)したニンジャを使用している。
死んだニンジャのリストとしては「オタッシャ重点 @bakuhatsushisan」運営チームの公開資料 4) を参考にした。ただし、本研究では固有名が述べられていないニンジャを除外している。
分類する死因としては、以下のようなものを選択している。
表1. 本研究の集計対象とした項目
不明の場合は「?」、複数ある場合は「,」区切りで併記している。
結果
本研究で集計したデータはGoogleスプレッドシートで随時更新されており(4部のニンジャはまだ収録されていないものの)以下のURLで閲覧が可能である。
サヨナラDB
このような項目で分類したデータを作成することにより、検索対象を特定の部や手を下したニンジャで限定するなどして傾向を見ることができる。本研究は1-3部のTwitter版限定であり、また依然として分類法や精度には問題が残るが、いくつかの初期的解析結果を列挙していく。
殺忍ランキング(1-3部)
何しろ作品名がニンジャスレイヤーであるので、この作品で最もニンジャを殺しているのはニンジャスレイヤーであろうことは予想がつく。しかしそれ以外ではどうであろうか?このような疑問に本データは簡単なランキングを作成することができる。
図1. ニンジャの死因となった殺忍者ランキングの円グラフ
本データに収録した第1-3部死亡ニンジャ589のうち3忍以上の死因となった殺忍者を示した。2忍以下は「その他」と分類している。なお、共同スコアはその多くが「その他」に含まれている。
第一位のニンジャスレイヤー、第二位ダークニンジャ、第三位デスドレインなどは納得のランキングではないだろうか。ジェノサイド、ヤモト・コキ、レッドハッグやガンドーなどの主要キャラクターも殺忍数は多い。誰に殺されたかわからない「?」も多く含まれているが、これは場面上ある程度特定可能であっても「?」としている(例えばスローハンドを殺害したニンジャ)ものも多い。「自身」つまりセプクを選んだニンジャも8忍に上った。
トドメ箇所ランキング(1-3部)
図2. ニンジャの死因となった攻撃箇所の円グラフ
本データに収録した第1-3部死亡ニンジャ589のうち3忍以上の死因となった攻撃箇所を示した。2以下は「その他」と分類している。なお、複数箇所の場合もその多くが「その他」に含まれている。
ではニンジャの死因となった攻撃箇所はどこが多いであろうか。例えば、ニンジャスレイヤーであればチョップ一閃による首の切断、心臓の破壊などが思い浮かぶ。しかし、図2のようにニンジャのイクサ全体を見た場合、「?」あるいは「全身」のようにどこが致命傷になったのかはわからないまま死を迎えたものがかなりの部分を占める。これはカラテ描写の解像度によるものも多いであろう。例としてアノマロカリスの死の瞬間を見てみよう。
アノマロカリスの死について、ニンジャスレイヤーが殺したことはわかるものの、このスピード感を優先したカラテ解像度においては攻撃手段や攻撃箇所は不明とするしかないことが分かるであろう。
図3. ニンジャスレイヤー、ダークニンジャそれぞれのトドメ攻撃箇所
当然ながら、殺忍者で絞り込んだ攻撃箇所を解析することもできる。ニンジャスレイヤーの攻撃箇所でかなり多いのが「頭」であるが、これはカイシャクで敵ニンジャの頭を踏み砕くことが多いこともあるだろう。一方、ダークニンジャのトドメは不明なものを除くと心臓が多い。これはベッピンによるヤミ・ウチの多さが寄与しているであろう。
トドメの方向と距離
ニンジャのイクサにおいてはアイサツが大事であるなどその礼儀も重要視されるが、最終的なトドメの一撃は必ずしも正面きってのものではない。方向と距離についても見てみよう。
図4. トドメの被害者から見た方向と距離
方向と距離に関しては入力に混乱が見られる。うつ伏せのニンジャの背中を踏んでカイシャクした場合これは「背面,上面」と入力すればよいのか、「上面」だけでよいのか?ともかく、大多数のニンジャは近接攻撃でトドメを刺されている。方向に関しては必ずしも明確に書かれていないが、正面が多い。ニンジャスレイヤーの攻撃に頭部が多いのと同様、カイシャクのムーヴのため上面がそれに次ぐ。背面攻撃はこれらよりレアではあるが、目立たないというほどではない。
死因と死体の末路
最後に最終的な死因と、トドメを受けたニンジャの身体がどうなったかである。ニンジャと言えば思いつくのは首を刎ねられて爆発四散するものであるが、衰弱死するなど過程によってはそうではない。一体どの程度のニンジャが実際に爆発四散しているのであろうか?
図5. 短い死因と死体の末路
行間で死亡していたりするニンジャが多数いるが、一番ありふれた死因としてはやはり頸部離断であり、カイシャクで用いられることの多い頭部破壊がそれに次いだ。正直なところこちらも入力に混乱が見られ、コトダマ空間で死亡した場合なんと書けばいいのか、爆風で死亡した場合「爆死」なのか「全身打撲」のようにすべきなのか、課題が残る。
一方、身体の末路としては当然ながら爆発四散が多いが、それに次いで不明のものも多い。これは、単に「死んだ」と書いてあった場合爆発四散したのか、身体の一部でも残ったのか不明であるからである。ダメージ描写の後物語に登場していないであるとか、スピードの向こう側で行方不明のニンジャも少数いる。
1-3部の傾向
今回のデータには1-3部の区別も入力してあるため、それぞれの項目で部ごとの傾向を見ることもできる。例えば、殺忍数ランキングを部ごとに比較して割合を比較してみると、次のようになる。
図6. 1-3部の殺忍数ランキング
例えば第1部ではニンジャの60%はニンジャスレイヤーによって殺されているが、第2部では30%程度まで低下し、他のニンジャの殺忍数が増えイクサが多様化したことがわかる。しかしボリューム自体が増えているので、ニンジャスレイヤーの殺忍数自体はそれほど変わっていない。
これに対して第3部では、まず全体的なボリュームがかなり大きいため、全体の死者数が多い。ニンジャスレイヤーとそれほど関わりのない各自の物語を持つニンジャも多くなっていくのだが、一方で第1部的なシンプルにニンジャが出てニンジャスレイヤーが殺す物語も多いため、全体としてはニンジャスレイヤーの犠牲者が増えている。
一方で、それほど大きい差が見られない項目もある。例えば図7は1-3部のトドメの部位の比較である。
図7. 部ごとに集計したトドメの部位
2部は頭部、3部は不明部位が若干多いが、全体で見るとトドメの箇所の割合にそこまで大きな違いはない。登場ニンジャがそれなりに移り変わっていることを考えると、このような均等さは興味深いことである。ニンジャのイクサかくあるべしという原作者の姿勢が、この間一貫しているということを示すものかもしれない。
今後の課題と展望
今回集計したデータは1-3部のTwitter連載版に限ったデータに過ぎないが、それでも多数のニンジャが多様な死に方をしているため数々の課題が浮上した。
・共同スコアをどう集計するか
・致命傷とカイシャクを区別するか
・死因をもっと系統的に分類できないか
・4部データが未入力
しかしながら、データの精度を上げ、分類を正確にしていくことでより興味深い解析を行うことが可能になるであろう。
また、別研究によりあるエピソードの原作者をかなりの精度で推定できることが示されている 5)。かなりの手間になるが、今回のデータに原作者の項目を追加することで、ボンド/モーゼズ両氏が好む描写も明らかになるかもしれない。例えば、一部ヘッズの間で囁かれる「女性ニンジャがバックスタブを受ける描写は作者の趣味」などの噂についてなどである。このような研究のため、本データには致命攻撃を受けた方向や武器についても項目を設けてある。
本研究は数字でカウントできるものを対象にしており、結果は興味深いが無味乾燥なものである。しかし、入力の際に一忍一忍の死に向き合ってみると、滑稽なサンシタのあっけない爆発四散であったり、意地を見せた末にハイクを詠んでの死であったり、カイジュウ映画のクライマックスのようでどう入力していいか分からなくなったりなど、改めてニンジャスレイヤーの面白さを噛み締めることができた。皆様もこの機会にさまざまなニンジャの死に触れてみてはいかがだろうか。
あと死に様ランキングやりたいよね。
参考文献
1):「ニンジャスレイヤー」シリーズ, フィリップ・N・モーゼズ&ブラッドレー・ボンド(翻訳:本兌有&杉ライカ)
4):「オタッシャ重点 @bakuhatsushisan」運営チームの公開資料
5):「圧縮率による著者推定法のニンジャスレイヤーへの応用」ニンジャ学会誌894号掲載