「血管が細すぎるのよ」
せっかくの入院記録なので、入院記録らしいものをもう少し残しておこうと思う。
総合的にはいい病院だったと思うし、医師や看護師のみなさんには感謝している。もしもまた胃腸の不具合で入院しなくてはいけないことになったら、お世話になる病院候補のひとつに違いない。
しかし、「そんなこと言われてもー」ということもあったのだ。
点滴と血液検査とで、入院中は34回ほど腕に針を刺した。そのうち約15回は採血のためだった。
ワタクシの血管は細い。若い頃は献血をしていたが、いつもやたら時間が掛かっていた。ワタクシが採血されている間に、隣のベッドでは2名くらい入れ替わっていた。そのくらい細いらしい。自覚はある。
だが血管の細さを自覚していても、患者本人がそのためにできることは何もない。
入院中の採血は、朝6時の起床の合図とともにやってくる。
それは、その日はじめて会う(そしてその後も一度も担当されなかった)看護師に言われた。
当初、彼女は右腕から採血しようとした。だがよい血管が見つからなかったようで、左腕から採ることになった。
やはり血管探しに時間が掛かっていたが、ついに看護師は意を決し、ゴムチューブ(「駆血帯」というらしい)でワタクシの左上腕を縛った。
が、チューブはすぐに解けてしまった。その瞬間、
「ちょっと! なんでコレ脱いでるの。着なさいよ!」
いきなり怒られた。ちなみに、「コレ」とは病衣の上衣のことだ。
ワタクシは寝相が悪くひっきりなしに寝返りを打つ。レンタル病衣の上衣はよくある和服風で、腰の脇で紐を結ぶタイプのもの。これを着たまま寝ると度重なる寝返りで上衣がよれてしまい、心地悪さで目が覚める。そのため、寝るときには上衣を脱いでTシャツを着ていたのだが、それが気に入らなかった… いや、それでなかなか採血できなかったらしい。
ゴムチューブを素肌の上で縛ると、解けやすくなるようだ。それで怒られてしまった。
素直に上衣を着た。
今度は駆血帯がきっちり効き目指す血管が浮き出たようだが、それでもなかなかうまく刺さらない。
こういう状況は慣れている。だからワタクシは痛いと言わなかったし、眉間に皺も寄せなかった。無表情だった。たぶん。
そこで、とうとう放たれた一言。
「血管が細すぎるのよ、あなた」
はあ、そうおっしゃいましても、ワタクシ、太くする術を存じません…
患者の血管が細いと、医師や看護師は採血や点滴でいろいろ大変かと思う。しかし、その血管の持ち主も、多かれ少なかれ不具合を経験している。
血管の細さを指摘されても、「はあ」とか「すみません」とかしか返事はできない。だから、言及しない心遣いをいただければ幸いだ。
そういえば、以前別の病院で大腸内視鏡検査を受けたとき、内視鏡医に、
「腸が長いですね~」
と言われたことがあったな。あれも、言われてもどうしようもなくて困った。ほめられたのか馬鹿にされたのかも不明だった。たぶんどちらでもなくて、ただの感想だったのだろうが。
本人の努力ではどうにもならないことについては、言及しないでいただきたいものだ。血管を太くすることはできないし、腸を短くすることも無理だもん。
件の看護師については、夜勤明けで疲れていたのだろうと解釈している。