どんな状況にいようとも
相談者の話。
70歳くらいだったと思う。彼女は精神障害や長年の生活習慣で酷く腰が曲がり歩行も困難。薄暗いゴミ屋敷で、薄っぺらい布団の上で寝たきりの生活をしていた。
介護する人はなく、夫が1日に1回様子を見に来るだけ。
カップラーメンとなめこの瓶が用意されて、それを食べていた。カラダは骨に皮がついているといったようなもの。
それでも彼女は美しかった。
美容師をしていたという。かつての美貌を彷彿とさせる、白く美しい顔だった。
子どもはいたが、全員自殺した。
ある日、彼女の家を訪問した。
彼女が
「あなたの口紅いいわね。買ってきて」
と言った。訪問する度に何度も何度も言われた。
彼女はどんな状況でも美しくしていたいんだ。
私は口紅を買い、そっと彼女に渡した。
「ありがとう」
微笑んだ顔がなお美しかった。
私と彼女だけの秘密。
人間、どんな状況でも、自分らしく生きたいんだなと。
この荒れ果てた部屋を見渡し、切なさに胸が詰まりながら、彼女の望みを知り、人間の意志の強さを感じた。
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