新宿MAYHEM メン子の面倒の後始末
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メン子の家にはまだ片付けに行けていない。
仕事が忙しかったっていうのもあるけれど、それは単に逃げの口上でメン子のことを考えたくなかったんだと思う。今日だって私は夜からあるだろう仕事の前に、やけにマルチの勧誘が多い喫茶店でTwitterのTLをぼんやり眺めている。とても時間を浪費している。スマホの画面に指を滑らせ、上から下に時間を流している。ごくごく狭い世界で起きた事件が視界を落ちていき、産み落とされた不満や発見された幸せが網膜を通り過ぎていく。氷だけになったミックスジュースは私に居心地の悪さを自覚させ、追加注文をする気もないので席を立つ。小腹だって空いている。この店で食欲を満たすつもりはないのでやっと重い腰を上げた。太ももにレザーのショートパンツがくっつく感触も気持ち悪い。お金を払って外に出る。
こんなに晴天だったっけと記憶を疑う午後の開始時間。今日は何を食べるべきかと考えてみる。新宿で昼時においしいものを食べようと思ったら、考えて考えて考え抜くべきだ。とんかつをお茶漬けにしたい訳はなく、担々麺はヘビーローテーション過ぎる。チーズバーガーはやや重たいし、蕎麦を手繰るには品のある店がない。どうしたものかと悩んでいると、安売りの量販店前に見知った顔を見つけた。金髪の眼鏡に透けるほどの薄手のセーラー服。
ギャルで金貸しの焚川みちるちゃんだ。
「みちるちゃんみちるちゃん」
「あれぇ、茉莉さんじゃないですかぁ。こんなとこで会うなんて珍しいっすね」
「みちるちゃん、また学校さぼったね」
「いいんすよ。成績は良くて出席は担保と利子替わりなんで」
どうやら教員にも金を貸しているようだ。
「それにしても今日暑いっすね、新宿来るもんじゃないっすね」
既に開かれている胸元を更に広げて右手で仰いで見せるみちるちゃん。高校生らしからぬ発育の良さに、私は自分を比べて少し黙る。
「どうかしました?」
「いや、何でもない。みちるちゃんは『仕事』?」
「そうっす。回収2件終わったんで、これからなんか食べようかと」
「あー、いいねー。私もお腹ペコペコだよ」
「じゃあ一緒にどうすか?」
「じゃあみちるちゃん奢ってよ」
「10個以上年下の子捕まえて何言ってんすか」
「そんなに離れてたっけ?」
あー、青春は遠い話だなー。いや私に青春があったのかもわからないけど。
「とりあえず奢ってくれなくてもいいからお店探そ」
「そうやっていつも奢らされちゃうのがいつものパターンじゃないっすか。後悔先に立たず、後の祭りっすね」
そういってみちるちゃんは、私の名前とかけたジョークを言う。
そう、私の名前は――
阿戸野茉莉という。
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