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泣きながら未来の自分に手紙を書いた話
いつも通り意味もなくインスタのリールを見ていると、こんな動画が流れてきた。
「1年後の自分に手紙が書ける!蔵前のおすすめスポット!」
どこの誰かもわからない、明るくて若そうな女の人の声。
最近は大学の授業と就活の予定ばかりで、日常つまんないな〜と思っていたところだった。
どこか知らないところに行きたかった。
鬱々とした気分を晴らしたかった。
ちょうどいいや。その明るい動画に相対する静かそうなお店の雰囲気と、未来の自分に手紙を書くという特殊さに惹かれて、行ってみようと思い立った。
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お店の名前は「自由丁」。
子どもの頃なんでも好きにお絵描きできた自由帳を思い出す。確かジュエルペットの自由帳を使っていた。
お店の中を覗くと、店員さんらしきお姉さんが一人いるだけだった。
引き戸をそっと開ける。
「あの…予約してないんですけど、大丈夫ですか」
「大丈夫だと思います!が、一応確認してみますね」
お姉さんは笑顔でやさしく温かく対応してくれた。大丈夫っぽいとのことで、カウンターの席でお好きなところへどうぞと笑顔で案内してくれた。一番すみっこの左端の席へ。
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1年後の自分への手紙を書くにはまず、その時の気分や書きたいことに合わせて5つのテーマから1つ選ぶ。
①夢に向かう、新しい朝の自由丁
②自分と語る、暖かい昼下がりの自由丁
③答えを探す、綺麗な夕暮れ時の自由丁
④余韻に浸る、静かな夜の自由丁
⑤過去と未来に思いを馳せる、特別な日の自由丁
就活で自己分析とやらをやっていて、自分については普段散々考えているつもりだから、「自分と語る」「答えを探す」とかは違うかな。でも、特に具体的な「夢」があるわけでもないし、、
特になんともない今日が特別な日になったらいいな。
そう思って、5つ目の「特別な日の自由丁」にしてみた。
「年末ですし、1年を振り返るきっかけにするのもいいですよね」
お店のお姉さんにそう言ってもらい、たしかにと思った。
しばらくするとレターセットと紅茶を持ってきてくれた。
レターセットには、封筒と便箋以外に、Reflection Questions と書かれたポストカードと、自由に使える画用紙が。
書くものはお店のものを好きに選べるとのこと。一見黒色だがよく見たら青い、落ち着いた色のペンにした。(万年筆もあった、使ったことなさすぎて怖かったからやめた)
Reflection Questions と書かれたカードには、自分が選んだテーマに沿った質問がいくつかある。
「最近しあわせと感じることは?」
「これからもなくなってほしくないものは?」
「今までで一番記憶に残っていることは?」
「これからの1年、どういうものにしたい?」
まずは質問に答えていこう。
そう思い、自分の日常に思いを馳せる。
気づけば時間を忘れて、「思い出して、考えて、書く」ことに没頭していた。
そして度々泣きそうになっていた。
質問の答えを考えるなかで、私を大切に思ってくれている人、仲良くしてくれている人、やさしくしてくれている人たちが思い浮かんだ。普段は何気なく素通りしていた、その人たちが私にしてくれたこと。どれだけありがたいことなのか、当たり前でないことなのか、気づく。
感謝の気持ちでいっぱいになった。普段はつらい、しんどいの毎日だけど、そんな中でも自分はしあわせだということを実感させられた。涙で文字がゆがんで見えた。
なんとか質問にすべて答え終わり、いよいよ自分への手紙を書く。
「22歳の自分へ」
そう最初に書いたとき、小学生くらいの頃友達によく手紙を書いていたことを思い出した。返事をもらったとき、うれしかったな。
「元気にしていますか。」
いざ書き始めると、未来の自分に聞きたいこと、話したいことがどんどん出てくる。一通り思いついたことを書き終え、最後に、未来の自分に伝えたいことを書く。
未来の自分はきっと今と同じように、自分に厳しかったり、自分の嫌いなところが多かったり、不安がたくさんあったりと、きっと悩んでいるだろうから、いっぱい励ました。
すると気づいたことがある。
こんなに自分にやさしくなれたのは初めて。
今しかないと思い、自分への愛をたくさん書き留めた。
涙があふれてきた。
過去、今、未来。どの自分も確かな自分であるはずなのに、1年後の自分というだけで、大切な親友、家族に手紙を書いている感覚になった。自分じゃない自分がもう一人いるみたいな感覚。そのおかげでやさしくなれたんだと思う。
たくさんの伝えたいことを書き留めて、詰め込んで、手紙を書き終えた。
1時間くらい経っていた。
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そのあと、封筒の封をするシーリングスタンプに使うろうの色を4色と、スタンプの柄を選ばせてもらった。
目の前でろうが溶けていく。
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4つの色が境界をなくしていく様子が、手紙を書くことで心が溶けていった自分と重なった。きれいだった。
いい頃合いに封筒にろうを垂らす。
少し不格好になったが、そんなところも自分らしいなと思い、愛着が湧いた。
思い出の一通となった。
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出来上がったあとも、時間いっぱいまでゆっくり過ごしてくださいと、お姉さんに言っていただいた。店内を見回る。
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しばらくすると、次のお客さんがやってきたのでお会計をお願いした。
お会計を済ませ、お店を出る。
来てよかった。
外は日が落ち始め、空が、影が、夜になる準備を始めている。
寒空の下、私の心はいつになく、あったかく感じた。
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