見出し画像

「Space In-Between:吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン」&「歌川国芳」展@大阪中之島美術館

大阪中之島美術館で開催されている「歌川国芳」展が、前期と後期で作品がほとんど入れ替わるということだったので、昨日、後期展を観に行った。
11時に着いたら、平日というのに国芳展は入るのに並んでいる状態。閉幕が近いからかもだけれど、人気のほどがうかがえた。
同時に開催されている「Space In-Between:吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン」にも行く予定だったので、先にこちらに行くことに。
因みに、こちらはまったく並ばないうえに、これを観た後に国芳展行くのにも並ばないので、どちらも観る場合はこの順番がいいかも。

Space In-Between:吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン

この展覧会までどちらのお名前も存じ上げなかったけれども、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンさんはグラフィックデザイナーとして有名で、吉川静子さんは美智子上皇后が皇后の時にお会いしたくらい成功されたアーティストのよう。お二人は夫婦で、スイスで活躍された方。展示内容は吉川静子さんの作品がメインだった。

吉川静子さん自身もグラフィックデザイナーだったこともあり、作品はデザイン的でもある。
多くの作品が白地に色とりどりの直線が、バランスをとって配置されている。
色と、ほとんど静的とも言える調子で置かれた線が心地よかった。

それがヨゼフ・ミューラー=ブロックマンさんが亡くなった後に、精神的痛手よりローマに滞在して制作したローマシリーズになると、その穏やかさの形が変わっていた。
それまでと同じ格子を彷彿させるクロスの要素はあるけれども、燃え上がる太陽とともにあり雰囲気が変わる。色も赤やオレンジが背景となり、チョークの筆致も残ってエネルギーのようなものが感じられた。

その後の作品は、背景にもっと色が用いられるようになり、以前のシステマチックにも近い配置から、より自由なものになっていた。

吉川静子さんの人生にも沿った作品の流れが垣間見れたようで興味深かった。
と言いつつ、正直なことを言えば、初期の白っぽい作品の方が個人的に好きだった。
白地に陽炎のように、でも機械的でもありそうな、薄い色の線の構成が可愛かったし、何よりも心地よかったのだ。簡単に言えば、部屋に飾りたくなるような作品だった。

ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンさんの作品は最後の方に、一部屋使って飾られていた。
こちらも正直なところ、グラフィックデザインに明るくないためか、いまいちぴんとは来なかった。
でも大阪芸術大学で講演したりと、日本に、しかも大阪に縁があるのには、大阪でこの展覧会が開催される意義みたいなのを感じた。
因みに、大阪滞在中に強盗にあわれたようで、その時の新聞記事が展示されていたのだが、同時に掲載されている事件もインパクト強くて、当時の大阪の治安があまり良くなかったのか、たまたまなのか気になってしまった。

歌川国芳展 ―奇才絵師の魔力(後期)

上でも書いた通り、ほとんど全部が入れ替え状態の歌川国芳展。撮影可能な作品と、あと数点が前期と同じかなという感じだった。
それがすべて個人蔵というからびっくり。一人の方がすべて所有しているのかは分からないけれども、ちゃんと温度や湿度を管理して保管されてるってすごいな。

国芳の武者絵がとても好きなので、個人的にはこの展覧会のハイライトは前半部分であるのは、前期の時とは変わらず。
なぜこんなにも武者絵が好きなのかじっくり見ながら思ったのが、よくよく見ると荒唐無稽なポーズなのに、勢いがあって、エネルギッシュでかっこいいから、という理由だった。
構図が面白いのもある。でも構図の話でいえば風景画も西洋画を取り入れた、興味深い構図ではあるが、正直なところ、風景画は広重の方が好きだった。
猫や他の動物を取り入れたり、人間を組み合わせて人の顔にしたりと、発想が面白い作品もあって、国芳の江戸を感じる洒落っ気もいいけれど、やっぱり武者絵のポーズほどには惹かれないよなぁと思ったのだった。

そんなことを思っていたら、一緒に来ていた友人が、身体の形や足の筋肉がどうにも現実離れしすぎていて、ひどく不自然に感じるといった感想を漏らしていた。私自身は逆によく見たらあり得ないポーズだけれども、ぱっと見はリアリティあって躍動感あるなと思っていたので、それを聞いてはっとした。
おそらく、私は国芳の作品を見て歌舞伎の型を想起していたから、それの相乗効果で動きやダイナミックさを感じていたもよう。
それくらい、武者絵で描かれているポーズと歌舞伎の見得のポーズは似ている。特に割と最近、歌舞伎で大立ち廻りを見たところだったので、より鮮明に絵画の中の人物の動きを感じることができたのだろう。
私が武者絵が好きな理由のもうひとつが、歌舞伎の立ち廻りが好きで、それを見た時と同じくらいの高揚感を、武者絵から感じられるということが挙げられるかもしれない。
そんな気付きも得られた後期展だった。

因みに後期の中で一番好きだった作品は、こんなにもポーズの話をしておいてなんだけれど《鬼若丸の鯉退治》だった。鬼若丸のポーズがかっこいいというよりも、巨大な鯉と水の表現がかっこよくてしびれた。
前期も合わせた中であれば、前期にあった《本朝水滸伝剛勇八百人一個 岩沼吉六郎信里》。こちらはイモリも合わせた登場人物たちの動きあるポーズも模様も、配色も、そして背景の水しぶきまでかっこいい。

図録は最後まで買うか迷ったが、国芳の武者絵だけの本があることを知り、そちらの方が気になったのでぐっと堪えた。
よく堪えたと自分を褒めつつ、物欲が刺激されまくるショップを後にしたのだった。

いいなと思ったら応援しよう!