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「本と絵画の800年」展@練馬区立美術館

先日、東京で用事があったので、せっかくなので気になってた展覧会に行ってきました。
初めて行った練馬区立美術館。あいにくの雨でしたが、駅からすぐだったので助かりました。

お目当ての展覧会は「本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画のコレクション」でした。
以前、上野の西洋美術館で中世の彩飾写本が展示されていて、めちゃくちゃツボだったので是非にと思って行ってきました。

全体的な感想

「本と絵画の800年」とあるだけあって、中世の写本だけではなく、近代の本までカバーされていて興味深かったです。
特にウィリアム・モリスたちによる中世への憧れから、“理想とする本の出版”への熱が高まっていったのが面白かったです。

イギリスでの産業革命後、あらゆる分野に対する工業化が進み、出版もその例に漏れなかったわけですが、いっぽうで原点回帰ということで、古い技法の出版が豪華本として作られていた…というのは、なんか分かるなと思ったり。
電子書籍が一般的になっている今、もしかして紙の本を思いっきり豪華にしたら売れるのか?とか、その場合はどんな内容の本がいいのか?とか妄想してしまいました。

概ね大満足だったのですが、ちょっと残念だったかなと思ったのが、最後の章が日本美術だったところ。
いや、作品自体はとても素晴らしかったんですよ。さすが吉野石膏さん、めっちゃ良いものお持ちだな~と思いましたよ。

でも、第1章、第2章と西洋の出版の歴史を堪能した後に、近代以降の日本美術を突然出されると頭ついていけませんでした。
それこそ、近代日本の本の装丁が紐解かれているとかであれば分かるのですが、物語を題材にした絵とか、出版事業に携わった画家の絵とか、それまでの展示物から割と離れた題材で、唐突感があった気がします。

と言いつつ、大好きな上村松園の絵とかあったので、思いっきり堪能しました。

以下、各章の簡単な感想です。

第1章 ヨーロッパ中世-ルネサンスの美しい本の世界

この章は、一部を除いて写真OKだったので、めちゃくちゃ写真撮りまくりました。

写本の世界は不勉強なので、美術的価値とかそういったものはよく分かりませんが、ビジュアルの美しさにただただ興奮してました。
特にディテール好きとしては、細かい装飾に歓喜です。

『レオネッロ・デステの聖務日課書』(部分) 1441-48年  フェッラーラ インク,彩色,金,羊皮紙

例えばこれ。くるくるとした装飾の上に更にひげのような装飾とか、このしつこい装飾が最高だし(褒めている)、「P」のめちゃくちゃ細かい装飾も最高。
文字は1つも読めないけど、字体が素敵…途中途中の大文字ももかっこいい…

『詩篇集』13世紀? 北フランスあるいは南ネーデルラント? インク,彩色,金,羊皮紙

この魚をくわえている得体の知れない動物も可愛い!
魚くわえてる顔が、ちょっと困り顔っぽいのがまたまた可愛い!
そして文字にある過剰な装飾も素敵!

と、こんな感じで興奮しながら見ていました。

また、本の形になっていると、なんとなく「紙」と思ってしまうのですが、これらは羊皮紙。ということは動物の皮。
温度や湿度で膨らむらしく、そのため留め具が必要とのこと。
羊皮紙が動物の皮とは知識で知ってはいるものの、そういう説明や実物を見ると、「動物の皮か・・・」としみじみ思って、そうはいっても紙のように見える形態に不思議な気持ちになりました。

因みに、皮だからこそ耐久性にも優れ、インクの色も鮮やかだそうです。
確かに、金との相性が抜群なくらいの色鮮やかさで、眼が楽しい!

となった後に、木版を見ると、ちょっと眼福度が下がるというか…
挿絵は彫っていたと思うとすごいんですけどね

フランチェスコ・コロンナ『ポリフィロのヒュピネロトマキア、すなわち夢の中の愛の闘い』1545年 ヴェネツィア、アルドの息子たちの出版所 木版

この中で、こちらの本が目を惹きました。
挿絵もケンタウロスが馬車を引く姿をはじめとして、大勢の人たちの細かな表現が素晴らしいのですが、何よりもこのレイアウト!
展示されていたのは初版ではないようですが(初版は1499年)、初版から独創的なレイアウトだったようです。
なんで漏斗のような形をしているのか説明はなかったのですが、文章に呼応しているのでしょうか。妄想が膨らみます。

この本は、19世紀の愛書家たちやプライベート・プレスに大きな影響を与えるらしいのですが、そういえば『不思議な国のアリス』にもこんな変わった形(ねずみの尾)で文章が書かれていましたが、それもこの影響によるものなのかしら…と思いました。

第2章 近代における書物:美しい本が芸術となるまで

ここから写真はNGとなりました。

19世紀、中世趣味が流行して、カリグラフィーも流行したそうです。
ウィリアム・モリスがケルムスコット・プレスを創設したのを皮切りに、プライベート・プレスが誕生しました。
プライベート・プレスとは、小規模な出版社で、良質な書籍の出版を目的としていました。
この展覧会では、その中でもエラニー・プレスを中心に紹介されていました。

このエラニー・プレス、印象派の画家として有名なカミーユ・ピサロの息子、リュシアン・ピサロが創設したプライベート・プレスです。
リュシアンは、イギリスで流行したプライベート・プレスによる出版物に心惹かれ、あまりに入れ込み過ぎてお父さんに心配されたくらいだったそうです。
でもリュシアンが出版した書物を見て、お父さんも納得した、というエピソードを読んでほっこりしていました。

正直なところ、ケルムスコット・プレスをはじめとしたイギリスの出版物はあまり惹かれませんでした。
めちゃくちゃ装飾的ですごいんですが、あまりに「これでもか!」というくらいの装飾で胸やけしてしまいそうになりました…

対して、エラニー・プレスの本は素敵でした!
お国柄が出るのか、全て黒い線でみっちり装飾しているというより、一部を薄い色にするなどして緩急つけていたり、アールヌーボーを思わせる曲線を使って柔らかい雰囲気を出している気がしました。
挿絵も素朴なほっとするような絵で、周りの細かい装飾と良いバランスになってたかと思います。


以下、メモ程度に好きだった本/作品です。

『ドロシーが5歳のお誕生日を迎えた日』挿画・文字:セシリー・ランサム
姪っ子への誕生日プレゼントとして作った本。それだけに愛を感じて、しかもとても可愛い。装飾も5歳の女の子に向けてお花という可愛さ。

『アルマナック』ケイト・グリーナウェイ
手のひらサイズの小さな本で、それがケイト・グリーナウェイの可愛い絵にマッチ。サイズも印象付ける大事な要素なんだと実感。

《静物、白い花瓶》ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
本ではなくて絵画。灰色がかった青にオレンジっぽい花。真横からとらえた安定した構図のため、静かな雰囲気をたたえている。

『暁の女王と精霊の王の物語』原画・装飾:リュシアン・ピサロ
白い格子に絡むバラ。紙の地にも薄く葉の模様が入り細かい。中に窓が配され、その中に人物がいるのだが、よく見るとその背景がまた格子にバラ。ごちゃごちゃしてそうだけれども、色でうまくまとめている。

《結合する緑》ヴァシリー・カンディンスキー
こちらも絵画。色がとっても素敵。ペルシャンブルーのようなとても暗い青色に浮かび上がる図。薄いピンクやクリーム色などで形成された図が、色と形でリズムを取っているようで秀逸。

《オペラ座の夢(ルネ・エロン・ド・ヴィルフォス著『魅せられたる河』挿画)》藤田嗣治
小さい作品ではあるけれども、今まで見てきた藤田嗣治の中で一番好きかも。肌の色が本当にきれいで、胸のわずかな陰影がとても良かった。

第3章 本と絵画でみる日本の芸術

冒頭で文句を述べてしまいましたが、東山魁夷の《靜映》と《春映》が本当に素晴らしかった!!!
心が洗われるってこのことなんだな…としみじみ感じるくらい、浄化していくのが感じられました。

あの深い深い緑と、春のほのぼの暮れていく空と…
もう言うことがないですね。
絵って確かにデトックス効果あるわと感じました。

ということで、しみじみと堪能して、「あれ、何見に来たんだっけ?」と多少混乱しつつ、この展覧会の鑑賞を終えたのでした。

因みに、断捨離中なので迷いましたが、図録買いました。
吉野石膏のエラニー・プレスのコレクションは国内随一ということなので、それがたっぷり載った本、買うしかないでしょということ。
それくらいエラニー・プレス、良かったです!

いつも東京に行くと、ついつい大きな展覧会に行きがちですが、今回はこの展覧会を選んでよかったなと思うくらい堪能しました。

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