「外国人は成績上位3割」に怒る人たちへ

新型コロナウイルスで困窮する学生に対する支援策である学生支援緊急給付金について、留学生は上位3割に限定するという報道が共同通信から配信されたことを契機に、Twitterでは批判が相次いでいます。

#文科省は外国人留学生全員に現金給付しろ というハッシュタグも一時トレンド入りし、人種差別である、国籍差別であるという批判が数多くなされています。また、change.orgでも「留学生に日本人学生と同じ基準で現金給付をして下さい!」というキャンペーンが展開されています。

私自身も最初この報道に接したときは、これは差別的な政策ではないかと感じましたが、実際の給付要件等を調べてみると必ずしも差別的ではないという結論に至りました。また、数多くなされている批判も、誤解に基づいているものが殆どであり、冷静な議論がなされていません。

ここでは、いくつかの誤解について、その解消を目指し、また、実際の制度について見ていきたいと思います。

私自身は文科政策についてはド素人で、何ら専門的な知見を有していないため、「素人が調べてみた」の域を出るものではありません。当然、専門家による評価があればそちらを参照してください(本来ならここで紹介すべきところですが、リサーチ不足で専門家の方がどのような評価をなされているかは把握していません。すいません。)。

外国人は成績上位3割に関する5つの誤解

まずは多く見られた誤解について、それらが誤解であることを示したいと思います。

誤解① 留学生は成績上位3割しか特別定額給付金を受給できない

あまりこの勘違いをしている人は見当たりませんでしたが、わずかながらこの勘違いをしている方もいらっしゃいました。

特別定額給付金は一人に対し10万円を支給するもので、給付対象者は、令和2年4月27日において、住民基本台帳に記録されている者となります。留学生は入管法上中長期在留者に当たり、住民基本台帳に搭載されることから、全員給付の対象となります。


誤解② 留学生等にのみ特別な要件を要求している

半分正解で、半分間違いです。

留学生等については

留学生等(日本語教育機関の生徒を含む)については、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、 経済的に困窮していることに加えて、以下の要件を満たすことが必要。(「外国人留学生学修奨励費」等と同様。)

1)学業成績が優秀な者であること。具体的には、前年度の成績評価係数が 2.30 以上であること
2)1か月の出席率が8割以上であること
3)仕送りが平均月額 90,000 円以下であること(入学料・授業料等は含まない。)
4)在日している扶養者の年収が 500 万円未満であること

という要件が特別に設けられています。一方で日本人学生等(ここの等が何を意味するかは後述します)には以下の要件を満たす必要があります。留学生等は以下の要件を満たす必要はありません。

既存制度について以下の条件のうちいずれかを満たす
1)高等教育の修学支援新制度(以下、新制度)の第Ⅰ区分の受給者
2)新制度の第Ⅱ区分または第Ⅲ区分の受給者であって、第一種奨学金(無利子奨学金)の併給が 可能なものにあっては、限度額まで利用している者又は利用を予定している者
3)新制度に申込みをしている者又は利用を予定している者であって、第一種奨学金(無利子奨学 金)の限度額まで利用している者又は利用を予定している者
4)新制度の対象外であって、第一種奨学金(無利子奨学金)の限度額まで利用している者又は利 用を予定している者
5)要件を満たさないため新制度又は第一種奨学金(無利子奨学金)を利用できないが、民間等を 含め申請が可能な支援制度の利用を予定している者

この要件は結構厳しいものになっています。実際にどの程度の学生がこの要件を満たすかはわかりませんが、学生支援緊急給付金の対象者が43万人と算定されていることから、全学生数に対してあまり大きな割合にならないと思います。


誤解③ 日本人学生は全員、学生支援緊急給付金を受給できる

前述の要件を見ていただければ一目瞭然ですが、日本人学生等であっても一定の要件は求められています。必ずしも全員が給付できるわけではないのです。各種奨学金の受給又は受給の予定が要件に組み込まれています。

#文科省は外国人留学生全員に現金給付しろ というハッシュタグは、少なくともこの点を考慮していない、日本人学生等は全員受給できるものと勘違いしているようにも見えます。


誤解④ 留学生等にのみ、成績要件が設けられている

これも誤解になります。上記のとおり、日本人学生等は奨学金の受給又はその予定がマストです。そして受給開始・継続については各種要件が定められており、その中には出席率や成績要件が存在しています。

当然日本人学生等と留学生等が満たすべき要件は異なるため、同程度の成績水準とはなっていませんが、留学生のみ成績で足切りをするというのは誤解です。


誤解⑤ 学生支援緊急給付金は生存権の保障のため

制度趣旨は以下のとおり、修学継続のための支援です。

今般の新型コロナウイルス感染症拡大による影響で、世帯収入・アルバイト収入の大幅な減少により、学 生生活にも経済的な影響が顕著となっている状況の中で、大学等での修学の継続が困難になっている学生等 が修学をあきらめることがないよう、現金を支給する事業です。

生存権の保障は、特別定額給付金等の施策でなされるものであって本制度の射程外です。


誤解⑥ 人種差別・国籍差別である

厳密に言えば、この評価は相当ではないと考えています。

そもそも、日本人の人種自体一様ではありません。まだまだ、人口に占める割合は少ないですが、様々な人種の「日本人」の方はいらっしゃいます。

また、受給対象者について、国籍要件はありません。あとで詳しく見ますが、要件が異なるのは留学生かそれ以外であり、その留学生以外の部分には入管法上の定住資格の方や特別永住者の方が含まれます。ですので、必ずしも国籍差別とは言い難いです。

留学生の方は当然全員外国人であり、それ以外の方のほとんどは日本人であることを踏まえると、この誤解については一定の理がありますが、あくまでも厳密に言えばですが、成立しません。

差別かどうかはここでは評価していませんが、本制度では、一定の区別を設ける合理性があると考えているため、差別には当たらないと思っています。

なお、朝鮮大学校などの各種学校は学生支援緊急給付金の対象からハブられています。


制度のポイント

学生支援緊急給付金については下記の文部科学省の該当ページを御覧ください。
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/hutankeigen/mext_00686.html

概要は以下のとおりです。

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日本学生支援機構(以下「JASSO」)が事業スキームに組み込まれているのはポイントになるのではないかと思います。なぜならJASSOによる奨学金や外国人留学生学習奨励費が本制度設計では活用されているからです。これまでの支援策との連携も重視されています。

もう一つのポイントとしては「スピード重視の設計」であることだと思っています。実際の事業スキームもそうですが、給付するコンセンサスを早期に得る上で、既存の奨学金スキームを利用・援用し、ある程度対象を絞らざるを得なかったと推測しています。

じゃあ具体的な要件ってどんな感じ?

ここからは具体的な要件を見ていきたいと思います。

上記文科省のサイトの「学生の皆様向けページ」の申請の手引に記載の要件を確認します。

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ざっと概観しますと

① 年間150万円以上の仕送りを受けていない

② 原則として、自宅外で生活している

③ 生活費・学費に占めるアルバイト収入の割合が高い

④ 家庭(両親のいずれか)の収入減少により、家庭からの追加支援が期待できない

⑤ コロナ感染症の影響でアルバイト収入が50%以上減少している

以上が、全員満たさなければならない要件です。


留学生等については、他に以下の要件を全て満たす必要があります

1)成績評価係数が2.3以上であること

2)1か月の出席率が8割以上であること

3)仕送りが平均月額9万円以下であること

4)在日している扶養者の年収が500万円以下であること

成績要件ですが、成績評価係数はGPAと異なり、3点満点になります。具体的には全単位を取得したとして、優3割、他は良以上取らなければこの要件は満たしません。この要件を満たすのが概ね成績の上位3割ということになのでしょう。

これらの要件は、「外国人留学生学習奨励費」の受給に必要な要件と同様です。ただし、現に給付を受けていることは要件ではないことに留意してください。

日本人学生等が学生支援緊急給付金を受給するためには、各種奨学金を現に受給しているか、受給の予定がなければなりません。一方で留学生等は奨励費を受給していなくとも可です。

これは、外国人留学生学習奨励費の募集枠が有限で、2020年度で7,400人程度で有ることを考慮したものと思います。複数年度にわたり給付を受ける学生もいるであろうことから、単純な比較はできませんが、成績要件だけで限定すれば、今回の給付金を受給できる最大人数は約9万人程度になります。

文科省としては、ある程度学生支援緊急給付金を受給できる留学生の数を増やしたいとの考えがあり、このような要件設定に至ったのではないかと思います。


留学生等以外の学生は以下の要件のうちいずれかを満たす必要があります。

Ⅰ)高等教育の修学支援新制度(以下「新制度」)第Ⅰ区分の受給者

具体的な要件の詳細についてはJASSOのいかのページをご覧願います。
https://www.jasso.go.jp/shogakukin/kyufu/index.html
収入要件としては非課税世帯であることが必要になります。

学力基準としては、高校卒業予定又は卒業後2年以内の場合、評定平均値が、5段階評価で3.5以上になります。なお学習意欲等があると認められた場合も学力基準を満たすものと扱われます。

大学等に入学後の場合は1年次生と2年次以降で選考基準が異なります。
1年次の場合、高等学校等における評定平均値が3.5以上であること、又は、入学者選抜試験の成績が入学者の上位2分の1の範囲に属すること若しくは高等学校卒業程度認定試験の合格者であることが学力基準になります。なお、こちらも学習意欲等があると認められた場合も学力基準を満たすものと扱われます。
2年次以降はGPAが上位2分の1の範囲に属することが基準になります。取得単位数が標準以上で、学習意欲等があると認められた場合も学力基準を満たすものと扱われます。

なお、廃止(打ち切り)・警告について定めがあります。
(文部科学省「高等教育の修学支援新制度」ホームページより)

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また、外国籍でも特別永住者であるか、在留資格が「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」又は「定住者」(定住者については将来永住する意思が必要)(以上の在留資格を「定住資格」という)は制度の対象になります。ただし、前述のとおり、朝鮮大学校等の各種学校は支援対象の学校種に含まれていません。

本稿の最初の方で日本人学生「等」という括りをしていましたが、それは外国籍の方でも一定の方々が含まれているからです。

2)新制度第Ⅱ区分又は第Ⅲ区分の受給者で、第一種奨学金の併給が可能なものにあっては、限度額まで利用している者又は利用を予定している者

新制度の第Ⅰ~Ⅲ区分は主に収入によって区別されています。他の基準は異なりません。

第一種奨学金の学力基準は、予約採用の場合(高校生や浪人生)は、新制度の学力基準とあまり変わりません。在学生は本人の属する学部(科)の上位3分の1以内であることが学力基準になります。

第一種奨学金も特別永住者の方と定住資格の方は対象に含まれます。

3)新制度に申込みをしている者又は利用を予定している者であって、第一種奨学金(無利子奨学 金)の限度額まで利用している者又は利用を予定している者

4)新制度の対象外であって、第一種奨学金(無利子奨学金)の限度額まで利用している者又は利 用を予定している者

5)要件を満たさないため新制度又は第一種奨学金(無利子奨学金)を利用できないが、民間等を 含め申請が可能な支援制度の利用を予定している者

残りの要件は上記3つのうちのいずれかになりますが、いずれも奨学金等を利用しているか利用の予定をしている者が対象になります。この点が奨励費の受給が要件となっていない留学生等と異なります。


以上が、留学生等と日本人学生等の学生支援緊急給付金を受給するための要件です。なお、最終的には上記の要件を考慮し大学等が必要性を認めた場合に支給されることとなります。ですので、要件に該当していても支給されない場合や、該当していなくても支給される場合がありえます。

問題点

個人的に感じる問題点は以下のとおりです。

1)必要書類が煩雑

2)創設から第一次推薦期限まで1月しかない
創設:5月19日
一次推薦期限:6月19日

3)多言語化されていない。やさしい日本語などの対応がとられていない

4)スピード重視の設計とされているが、実施時期が遅きに失している感がある

小括

日本人学生等と留学生に対する支給要件の違いは、JASSOの奨学金等が日本人学生等向けと留学生等向けに大別されていることに起因しています。

具体的な要件については、日本人等と留学生等に違いはあるものの、既存の支援事業との連携を図る上で、合理的とは言えない程度に及んでいるものとは思えません。

学力で足切りをすることについて、嫌悪感を感じることについては一定の共感を覚えますが、義務教育ならともかく、高等教育で困窮学生全員に援助を行うというコンセンサスを得るのは必ずしも容易ではないでしょう。

その中で、留学生等について、奨励費の受給を要件としなかったのは、ある程度評価に値すると感じています。

もちろんこの事業の創設をもって、困窮する学生に対する支援が十分とは言い切れるものではありませんが、それは今後の課題であり、本支援制度の意義を貶めるものではありません。

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