自動運転車、新型コロナウイルスの検体運び活躍: 人を乗せない自動運転
(文責: 伊藤昌毅、調査・文案: 孕石直子)
3月30日、フロリダ州ジャクソンヴィル市のMayo病院敷地内で、アメリカで初めて、新型コロナウイルスの検体の運搬に、自動運転車が導入されました。運転手も補助者も乗らない無人の自動運転車が、病院敷地内のドライブスルーテスト施設からラボのある建物まで検体を積んで運ぶもので、病院が新型コロナウイルスへの対応に追われる中、運搬にかかる人手をより必要な場所へ振り分けることと、人と人との接触を減らして感染拡大を防止することが目的です。ジャクソンヴィル市では、ジャクソンヴィル市交通局、Beep(自動運転事業者)、NAVYA(フランスの自動運転車・電気自動車メーカー)の3社がこの3年間自動運転の実験を行っており、今回Mayo病院の協力で実用化につながりました(*1)。
人を乗せない自動運転
これまで自動運転と言うと、私たちの多くは、自動車が運転者なしに人を乗せて車道を走ることを想像してきたと思います。大手自動車メーカーやGoogleなどが実現に向けて巨額の投資を行い実験を進めてきましたが、実現にはまだまだたくさんの課題があり、実用化されているのは補助運転者を置いた半自動運転や、駐車のみ自動で行うなど、「自動アシスト運転」の段階まででした。そして今回の新型コロナウイルスへの対応で多くの企業が自動運転車の試験走行を一時的にストップさせました(*2)。このような中でMayo病院でのニュースは自動運転の新たな役割を感じさせます。
フードデリバリー・宅配
アメリカでは「人を乗せることを想定しない」自動運転車の試験的実用化は2018年頃から始まり、限られた地域ではありますが、徐々に広がっていました。用途はフードデリバリーや、食料品・日用品などの個人への配達です。これらの多くはクーラーボックスほどの小さな車両で、ユーザがスマートフォンのアプリで注文を入れると、小売店や配達人が車両に商品を入れます。車両は歩道を、人が歩くのと同じくらいのゆっくりとしたスピードで自律走行し、商品をユーザへ届けます。
Kiwi
こうしたサービスの1つに、カリフォルニア州バークレーやコロラド州デンバーなどでレストランやファーストフード店から個人へ自動運転車で料理を届けるフードデリバリーサービスを行っているKiwiがあります。実はKiwiは自動運転サービスの中でもいち早く新型コロナウイルスによって新たに生まれた需要に反応した会社です。3月半ばからフードデリバリーに加えて「デリバリードクター」というサービス名でマスクや除菌ジェルなど衛生用品の配達を始めました(*3) 。
Starship
アメリカで自動運転車によるフードデリバリーと言えばStarshipが有名です。無料通話サービスSkypeの共同創業者Janus Friis と Ahti Heinlaが始めた会社ですが、主にサービスの場所を大学に絞っているのが特徴です。大学のカフェテリアから料理を学生や教職員に届けるのですが、アメリカの大学は敷地面積も人数も大規模で、例えばStarshipが最初にサービスを始めたヴァージニア州のジョージメイソン大学は、メインキャンパスだけでもその面積は4㎢、学生数・教職員数は合わせて5万人を超えます。その一方で大学構内は街中の公道に比較してはるかに歩道が広く、走行車両が少なく、信号機などの制約も少なく、自動運転車を導入しやすいのは明らかです。Starshipも新型コロナウイルス禍でワシントンD.C.のスーパーマーケット、The Broad Branch Marketと協力し、顧客に対する食料品の試験的配達を始めています(*4)。また、非対面での宅配の需要が増えていることから、新たに大学外の地域でレストランと顧客を結ぶサービスも始めたようです。なお、新型コロナウイルスの影響で多くの大学が休校する中、学内にとどまる留学生や大学院生のために大学でのサービスは継続するそうです(*7 4月10日加筆)。
Amazon
ネット通販大手Amazonも、もちろん商品の配送に似たような自動運転車Amazon Scoutを試験導入しています。ただし、ワシントン州のソノホミシュ郡とカリフォルニア州アーヴァイン市のごく限られた地域で(*5)、同社の新型コロナウイルス対応でもScoutに関しては大きな動きは見られません (*6)。
未来の技術から身近なサービスへ
日本でも新型コロナウイルス感染拡大の影響で医療現場が多忙を極めていることは連日報道されています。専門的知識を持った限られた人材を必要な場所と時間に振り分けることが重要で、Mayo病院のように新しい技術がその負担を少しでも減らせるなら、これほど嬉しいことはありません。
外出自粛要請が出され、多くの人が自宅にとどまる中、個人への食品や食料品、日用品の配達の需要がますます増えています。配送・配達はマンパワーに頼る部分が大きく、近くの小売店から個人宅まで、地域の配送拠点から個人宅までの「ラストマイル」を自動運転車が担うだけでも急増する需要に応えられます。遠い未来の技術だと思っていた自動運転は、近いうちに、これまで想像もしていなかった形で私たちの身近なサービスとなっているかもしれません。
参考文献:
*1. Jacksonville Transportation Authority, “JTA, Beep & NAVYA Autonomous Shuttles Help Mayo Clinic Transport COVID-19 Tests.” JTA Press Release, 2 Apr. 2020, https://www.jtafla.com/media-center/press-releases/jta-beep-navya-autonomous-shuttles-help-mayo-clinic-transport-covid-19-tests/. Accessed 9 Apr. 2020.
*2. Wiggers, Kyle. “Coronavirus fears halt autonomous vehicle testing for Uber, Cruise, Aurora, Argo AI, Waymo, and others.” VentureBeat. 17 Mar. 2020, https://venturebeat.com/2020/03/17/coronavirus-halts-autonomous-vehicle-testing-for-uber-cruise-aurora-argo-ai-waymo-others/. Accessed 9 Apr. 2020.
*3. Wiggers, Kyle. “Despite setbacks, coronavirus could hasten the adoption of autonomous vehicles and delivery robots.” VentureBeat. 20 Mar. 2020, https://venturebeat.com/2020/03/20/despite-setbacks-coronavirus-could-hasten-the-adoption-of-autonomous-vehicles-and-delivery-robots/. Accessed 9 Apr. 2020.
*4. 6 abc. “Coronavirus: Grocer uses robots to delivery grocery orders amid COVID-19 pandemic.” 6 abc, 29 Mar. 2020. https://6abc.com/shopping/grocer-using-delivery-robots-during-coronavirus-pandemic/6060134/. Accessed 9 Apr. 2020.
*5. Amazon. “About Amazon Scout.” Amazon Help & Customer Service. https://www.amazon.com/gp/help/customer/display.html?nodeId=GTGUQUQHMZ54B55F. Accessed 9 Apr. 2020.
*6. Day One Staff. “Amazon’s COVID-19 blog: daily updates on how we’re responding to the crisis.” The Amazon Blog Day One, 9 Apr 2020, https://blog.aboutamazon.com/company-news/amazons-actions-to-help-employees-communities-and-customers-affected-by-covid-19. Accessed 9 Apr. 2020.
*7. Korosec, Kirsten. "Starship Technologies is sending its autonomous robots to more cities as demand for contactless delivery rises." Tech Crunch. 10 Apr. 2020, https://techcrunch.com/2020/04/09/starship-technologies-is-sending-its-autonomous-robots-to-more-cities-as-demand-for-contactless-delivery-rises/. Accessed 10 Apr. 2020.