2021映画ベスト10
2022年も始まり、いよいよ明日には『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』も公開されて2022年の映画も始まろうとしているので、2021年の映画ライフを振り返る為にも2021年の映画ベスト10を短評とともに書いていこうと思います。
毎年、映画ベスト10と絞って無理にでも出していますが、自分でもこれが本当に”ベスト10”とは畢竟、言い切れないところはどうしてもあります。この中に入っている作品でもこれっきりしか観ない作品もあるだろうし、リピートした時に公開当時に観た際に受けた感想とはまた違った感想を抱くことだってあるだろうし大抵の作品が一回観ただけで10は無理としても8も理解しているとも言い難い。さらに、これから挙げる10本に入れなかった作品でも観た時は「これは今年ベスト」と唸っていた作品は数あります。それでもベスト10を出すのはその映画を観た時のフィーリングを大切にしたいからだと、今年のベスト10を決めた際に確認しました。故に好みという価値基準より観た際のインパクト優先で順位を決めたところがあります。
10.ライトハウス
A24製作、ロバート・パティンン、ウィレム・デフォー主演。4週間に渡って孤島の灯台守として勤める事になった二人の男。孤島に嵐が襲来し、ただでさえ荒れた環境がさらに劣悪な環境となり、最初から険悪だった二人の灯台守生活は狂気の坩堝に堕ちていく。灯台という空間、お互いがお互いに対する価値観……極限的な閉塞空間で繰り広げられる人の頭が作り出す発狂した世界とそこに画面は無く肉眼で舞台を見ているかのようなデフォーとロバートの壮絶な演技合戦。それを盛り上げる不穏でダイナミックな音響デザイン。不気味で怖気が走るも、それが観ている間に心地よくなるような不思議な没入感。まさに映画という空間でしか成しえない不思議な空間が心地良かった。
https://www.youtube.com/watch?v=7gOs6gKtrb4
9.アナザー・ラウンド
マッツ・ミケルセン主演。自分の冴えなさに鬱屈していた大学教授たちが、ノルウェー人哲学者の「血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」という理論を証明しようと決起し、朝から飲酒をして酒気帯び状態を維持し生活を送り始める。最初のうちは冴えなかった仕事もプライベートも順風満帆となっていくが、次第に摂取していく酒の量は多くなり、それに伴う破滅がじわじわと迫ってくる。馬鹿馬鹿しいプロットだが、だけども、人にはどうしてもハメを外す必要もあるが日常ではそういったわけにもいかない。そうゆう時に映画はある。情けなくも愛らしい登場人物たちにそれを感じた。最後に豪快に酒を飲んで華麗に踊るマッツの姿に人生の賛美を見た。
https://www.youtube.com/watch?v=40X5EX6Us7c
8.ドント・ルック・アップ
アダム・マッケイ監督で眩暈がするような豪華キャストで贈るディザスター・ポリティカル・ムービー。レオナルド・ディカプリオとジェニファー・ローレンスが演じる学者が数か月後に地球に衝突する彗星を発見し、それによって地球は人が住める環境ではなくなる事を大統領、メディアに訴えるも与太話として扱われる。彗星が近づくにつれ、本当の事とわかると二人を持ち上げ、さらに彗星への扱いはさらに最悪な方向へ加速していく。最初は登場人物の描き方に露悪さを感じ苦笑が収まらなかったが、話が進むたびに2021年に現実で起こったコロナ禍、大統領選にあったメイルストロームを振り返ると現実味を帯びてきて肝が冷える。政治家や富裕層による自然を軽んじる姿勢、メディアとそれを真に受ける民間人の二重苦。笑えるけど、笑えない真実味がある狂気の中でその中で光る一筋の尊ぶべき人の営みの美しさ。2021年という年と総括する痛快なエンタメ作品。
7.マトリックス レザレクションズ
社会現象を起こした『マトリックス』シリーズの待望の最新作。しかし、何故、”今”続編が作られたのか?映画界に起こるリブートブームに乗っかったのではなく、監督のラナ・ウォシャンスキーの身に連続して起こった不幸からラナ監督自身が立ち上がる為に『マトリックス レボリューションズ』で死んだネオとトリニティを蘇らせる為に作られた極めて私的な映画。とてもメタ的なストーリー、セリフで綴られるラナ監督の”マトリックス観”。かつてのセンセーショナルさは削げ落ちているが、ラナ監督のマトリックスの回顧録にかつてマトリックスに熱狂したその根源を呼び起こされた。
6.ARIA The CREPUSCOLO
漫画『ARIA』を原作にするオリジナルアニメ映画。テラフォーミング化された火星にヴェネチィアを模して作られたネオ・ヴェネツィアという街でウンディーネというゴンドラ乗りとして働く少女たちの物語。本作はオレンジプラネットという会社のウンディーネがメインの話。些細な悩みから始まる日常の中の何気ない特別な想い出の振り返りが次の特別な想い出を形作っていく。ストーリーのほのぼのさ、声優の暖かい表現、ゆったりとしたイタリア音楽……映画という環境で癒しを届ける為にそれらを最大限に活かした音響デザインが劇場に作る空間は日頃の心や身体の疲れを骨の髄から溶かしていく。
5.呪術廻戦0
漫画『呪術廻戦』の前日譚『呪術廻戦0 東京都立呪術高等学校』の映画化。TVシリーズ『呪術廻戦』に引き続き、朴 性厚監督、MAPPA製作。原作をただアニメ化するだけではなく、原作で後付け足された設定や描写の足りないシーンを新たに描き起こしたりアニメ化されてない部分から先に引用して足して補完している。ハイカロリーな作画で描かれるダイナミックでハイテンポなバトルと、呪いの運命が躍動するドラマティックな物語を実力派な声優が揃って惜しみなくキャラクター解釈を発揮させた演技は大いに映画を映画として盛り上げる特大のエンタメ映画。呪術廻戦の魅力を凝縮した1本。
4.シャン・チー レジェンド・オブ・テンリングス
新しい段階へと進むマーベル・シネマティック・ユニバースの新作。キャスティングの殆どがアジア系俳優ということに止まらず、この作品で輩出したシム・リウ、メンガー・チャンといった俳優が主演を務めるまさに新風と呼べる映画。冒頭はカンフー映画らしいアクションが多く、後半はテン・リングスという特有の武具と武術をミックスした独自のアクションが多くなる。烈しいアクションだけではなく、そこにキャラクターの心情を乗っけて鮮やかにドラマを届ける手腕が見事。何気ない描写に込められたメッセージ性、シャン・チーとシャン・チーの父親で敵対するウェンウーを中心としたドラマにあるメッセージの全てがシャン・チーをヒーローとするカタルシスに繋がっていてまた新たなヒーローが誕生した事への歓喜を盛り上げる。作品内外のエネルギーをヒーローに集約させ、ヒーローを誕生させるMCU最大の魅力の一つも昇華して新たなフェーズに突入している。コロナ禍に突入し、一年ほど映画で新ヒーローの誕生を目撃することでしか得られないエネルギーをお預けだった期間の鬱屈を吹き飛ばしてくれた。
3.ARIA The BENEDIZIONE
6位として挙げた『ARIA The CREPUSCOLO』の続編。そして、『蒼のカーテンコール』と銘打たれたシリーズの最終章にてARIAシリーズ完結作。姫屋という会社のウンディーネたちがメインの話。オレンジプラネットは他人からしたらどうってことない些細な悩みから派生する物語で、本来は主人公として描かれることの多いアリアカンパニーは一日一日の出来事を特別な奇跡としてかけがえなく描く物語なら、姫屋は生きる中で自分に欠けたものを探す物語。それまでTVシリーズとしてノウハウを培ってきたARIAが劇場作品としてCREPUSCOLOで挑み、そこで培った”ARIAらしい映画”をさらにアップデートした本作。特にその多くが拡大作画で描かれた1カット1カットはヴェネツィアをトレースして美化した街と蒼く澄んだ水面の作り出す絵画のような引き画からキャラクターデザインの伊藤葉子のデザインの美麗さの魅力を余すことなく引き出したキャラのアップ画は綺麗な映写ができるスクリーンで観るといつまでも観たくなるほど尊い。物語は姫屋の話だが、伝統と日々の新しい幸せを貴ぶARIAシリーズを総括するようなメッセージで日常を祝福する素晴らしいフィナーレで結ばれている。
2.パワー・オブ・ザ・ドッグ
舞台は1920年代のモンタナ州。ベネディクト・カンバーバッチが演じるカーボーイのフィルは傲慢で威圧的な態度で周囲にカリスマのように振舞っていた。フィルには対照的な弟ジョージがいて二人で屋敷に住んでいたが、ジョージはある日に宿泊した宿で出会った未亡人のローズと結婚し、屋敷にはローズとその息子でフィルが嫌悪するような女々しい男のピーターも一緒に住むことになる。フィルはローズとピーターを煙たがり、嫌がらせをしていくも一緒に暮らしていく中で次第に自分のルーツを振り返り、自身の加害性に向き合っていく事になる。男という力が支配する時代に翻弄される人物たちの心の移ろいを三章に分けて繊細に描いていく。観た後に振り返ると、アメリカ西部の乾くほどに壮大な自然の中に己を知らないちっぽけな人物が捉えられた虚しい画がだんだんと本来の自分が剝き出しになっていく物語のメッセージをより強めていて印象的。そして、ベネディクト・カンバーバッチ、キルスティン・ダンストンの緻密な演技は瞠目するのはもちろんだが、ピーターを演じる新鋭のコディ・スミット=マクフィーの繊細な存在感は、後半のフィル役のカンバーバッチとの掛け合いを心に染み渡るほどウェットなものに仕上げている。カンバーバッチの演技プランもまた巧みで、ラストのカタルシスは映画で物語る力を再確認した。
1.エターナルズ
『シャン・チー』に続くマーベル・シネマッティック・ユニバースの新フェーズ。『ノマドランド』でアカデミー賞 作品賞を受賞したクロエ・ジャオ監督で韓国俳優のマ・ドンソク、難聴者俳優の ローレン・リドロフ……国籍も人種も超えた俳優が集まり、紀元前に地球に到来し現代まで地球を秘かに守護していたヒーロー達エターナルズの知られざる歴史がかつてエターナルズが対峙したディヴィアンツが再び現代に現れた事をきっかけに紐解かれる。クロエ・ジャオは写実的な画を撮ることで有名でその凝り性は俳優の選出にも行き届いていて『ノマドランド』では実際にノマドとして暮らす素人を俳優に使ったりしているが、エターナルズはそこが俳優のらしさがキャラクターにフィードバックされる方向に活きている。それがエターナルズの個性に活き、人種の違いを露骨に強調するのではなく、そのキャラの当たり前の現実として描くことでエターナルズを華やかなチームとしている。エターナルズは7000年以上も地球で人類に溶け込んで生活をしているが、その感性はごく人間的でそこに不自然さを与えてないのも俳優の素をフィードバックしていることが影響している。エターナルズが様々な時代、文化を過ごしてきた描写が描かれるが、それがエターナルズ自身の個性と合わさってかつてないほど豪華絢爛な人間賛歌となっている。最初は自国のプロパガンダのキャプテン・アメリカで始まったマーベル・コミック。それがどんどん広い世界に届けようとしていって社会問題を次々に取り込んでいったのが今のマーベル・コミックだが、映画シリーズのMCUもようやくそのフェーズに入った事に万感の思いだ。エターナルズで描かれた可能性がハリウッドに止まらず、世界中の映画シーンに影響することを期待すると、やはりこの映画を観た瞬間は人生でも特別な時間と言える。それだけでなくクロエ・ジャオは生粋のMCUファンでもあり、日本の漫画オタクとしても有名でその趣味がエターナルズでは余すことなく発揮され、ハリウッド映画のアクションに日本の漫画、アニメの外連味が足されたオタクが観たかったアクションもある。キャラクター同士の関係性も色んな方向で語るに語りつくせないほどに魅力が溢れている。ボンクラオタクとしてもどこまでも蜜が溢れる最高のご馳走だ。そして、やはりクロエ・ジャオなので写実的なマジック・アワーが決まった画も観ていると生命力が溢れる息吹があるが、VFXを使った宇宙空間の画、特にエターナルズに指令を出す超巨大な生命体セレスティアルズの存在感はIMAXフルサイズで観た時は筆舌しがたい程にこれぞ大作を映画館で観る醍醐味と言った程に圧巻。全体的にマーベル・コミックの元祖のジャック・カービィをリスペクトしたビジュアルとエターナルズが日常で暮らす際のファッションの落とし込みのコントラストもコミックファンとしては堪らない。語りだすとやはり止まらないほど夢中になったのが、エターナルズだ。
という事で2021年ベスト10はこんな具合です。いざ書き連ねると、観た時のインパクトを重きにしてると言ったら冒頭であんなことを言いつつ、どうして腑に落ちる結果なような気もします(何せ後半が特に文が長くなっているのが)。
全体通して見ると自分が映画を観る際に惹かれるウェイトはやや役者よりなんじゃないかと改める事ができますね。あと、日常的に人に映画の感想はそこまで話さないですが、話すなら最低でも3分くらいは聞いてくれモードになってしまう気がこれを書いてて如実に実感するばかりだったので、これからも人と映画の感想を話す機会は消極的にしていこうと思いました。それと同時に観たあとは発散しないといけないとも自覚しました。……まぁ、Twitterで簡単には言ったりしてるんですけど、120文字に絞ろうとするとロクな感想になってないんですよねぇ。スナック感覚で書くので文章もより酷いし。ので、そんなに今までは更新頻度は多くなかったですが、これからは増やしていこうかと自省しました。アウトプット大事。映画を観ている時は素の自分が出てて、それを振り返る事は自分の再確認になるのでいい自己研鑽だと思います。なので自己満なものですが、少しでも見た方のインプットになって挙げた映画について既に観た映画なら考えてもらったり観てないなら興味を抱いてもらえば幸いです。
……こうゆう機会なので釈明しますと、レビューの際には敬語を使わないのは語る際はその方が自然とできるからでたまーーーーーーに自分を出すような文を書く時はこうして敬語と使い分けると思います。レビューを書いてる際は独り言のような気持ちの方が強いです。