小さな小説 「サファイア1」
長い間、私たち夫婦には子供が出来なかった。 色々、調べたり検査しても原因は分からずじまいで、やがて、2人ともそんな大切な宝物には会うことは叶わないと、思うことにした。
仕事でインドの宝石商の元に行っていたある日、私は夢をみた。
象さん?が目の前を歩いている、子供の姿で頭が象さんだ。インドでこの姿は「ガネーシャ神」となるのだろう、とても気品のある白いガネーシャさんが楽しそうに目の前を歩いている、あまりにも楽しそうなので、後をつけて行った。
ただただ、何も見えない白い道を下に向かっていく、象さん。 少しずつ光が無くなっていくが、その歌っているような歩みは止まらない。
気が付くと、かなり暗い所に来てしまっていた。何もないが、風が吹いていて寒くて寂しい、 目が慣れてくると、ぼうっとヒカリを放つ象さんの目の前に、ぼろぎれの様な何かがうごめいている。
ずっと苦しんでるんだ、此処で。
象さんはそう言って見つめている。
無くしてしまったんだ、大切な人、俺が、俺が……
渦巻く小さな言葉は切れ切れに、何度もそのカラダを廻り続けている。
「探したいの?」 気になって声を掛けてしまった。
……ゆっくりと消し炭のような影がコチラを向いた。
消し炭ではなく、枯れたように痩せて生気の失せた老人が切れ切れの灰色の布を纏っていたのだった。
ただ、その瞳の奥は青紫の澄んだコーンフラワー色が仄かに浮かんでいる。
「探したいの?」
何も言って来ないその瞳にもう一度尋ねる。
象さんはもういなくなっていて、何もない空間に2人だけ居る。
グチャっと、男のカラダが崩れる、最期の時を迎えている。枯れ果てたカラダに残っていた一粒の涙が青くなって、消えかけてる。もうその涙しか男の残骸は残っていない、ヒタヒタと消えかけているその〈青〉に ハッとして、手を伸ばす、 私が手伝ってあげるから、泣かないで。
……手伝ってくれるの?……
手のひらの〈青〉が問うてくる。
ええ、良いわ、おいでなさい……抱き締めて、ゆっくりと飲み込んだ。
数ヶ月後に、妊娠している事が判明した。
多分、男の子だわと言った私の言葉に、主人は戸惑いを隠せてなかった。
そして、
高齢出産ながら何とか、出逢えた我が子を腕に抱いた。主人も泣きながら喜んでいた。
スッと瞳を開けたその幼子の瞳は仄かにコーンフラワーの空色を纏っていた。
いつか、この子にコーンフラワーのサファイアをあげましょう。
探し物が見つかるように願いを込めて。