理不尽な世界 ― エピソード② ― 塀と電信柱の間
フリーランスの庭師です。
これから書く内容はフィクションです。
前作は下記をご覧下さい。
〖理不尽な世界 ― 塀と電信柱の間〗
小さな頃からSF的な話が好きだった。いや、SFと言うより妄想だ。多くの子供が思うように、「もし○○だったら…」と妄想を膨らませることが好きだった。
横断歩道の白線の上だけを歩いて向こうまで渡る。行けたら今日は良いことがある。
あの角まで息を止めて歩く。行けたら今日の夕飯は大好きなハンバーグが出てくる。
日陰だけを歩いて行く。日向に出ると身体が溶けてしまうから絶対日向に出てはいけない。
様々な事を考えたものだ。
その中でも特にいつも思ったのは、誰かの家の塀と電信柱の狭い間を通ること。
普通の人はそんな狭いところは通らない。通る意味が分からない。
でもその隙間はパラレルワールドに通じていて、そこを通ると別の世界に行ってしまうかもしれないのだ。
私はいつもそこで歩みを止めて躊躇していた。
「ここは分かれ道だ。そこを通るか通らないかで、未来が変わってしまうかもしれない。」
そう思うと普段はその隙間は通らない。子供心に大きな変化が怖かったのだ。
ある日、学校で嫌なことがあった。理由は分からないのだがイジメにあった。仲間はずれにされたのだ。
怒りよりも悲しさがあった。酷く落ち込んでいた。そんな帰り道、塀と電信柱の隙間がある場所に来た。
立ち止まり、その先の景色をしばらく眺める。特に変わったところは無い。
側を通り過ぎる大人たちは、「この子供は何を見てるんだ? 変な子だな。」と思ったに違いない。
学校での出来事で少し自棄になっていたのか、私は塀と電信柱の隙間を通ることにした。
恐る恐るその隙間に足を踏み入れる。そして一気に通り過ぎた。
「ははっ、何も変わらないや。そりゃそうだよね。」
怖いながらも何かを期待していたので、拍子抜けした感じだった。
翌日いつものように登校した。前日に仲間はずれにされたから気が重かった。今日も仲間はずれにされるのだろうか…。重い足取りで教室に入った。
しかし、昨日私を仲間はずれにした友達たちは、何もなかったように話しかけてきた。
「昨日のお笑い大賞観た? ムチャクチャ面白かったよな!」
「ううん、観てない…。それより昨日僕を仲間はずれにしたじゃん。あれ何だったの?」
「ん? 何の話? 仲間はずれなんかしてないよ。」
友達たちは覚えていない?
いや確かに仲間はずれにされた。
でも、友達たちは嘘を言っているようには見えなかった。
そして気がついた。
ここは、昨日あの隙間を通る前の世界と違うのだ。僕はもう一つの世界に来てしまったのだ。
パラレルワールドいうのは、SF映画のように天変地異が来るとかというわけでは無いのだ。微妙なズレなのだ。
大人になった今でも、ときどき塀と電信柱の隙間を通る。その都度違う世界を渡っているのだ。
自分の未来を変えられる場所が無数に点在している。幾つもの世界が交差しているのだ。
ただしどう変わるのかは分からない。変化の度合いもズレ程度に小さい。でも周りの人達は全員違う人達なのだ。なんて怖い世界なんだ。
世の中は理不尽だ…。
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