Serum の “Normalize Each” と Fundamental (基音) の関係について
Serum の波形エディタには、Process のメニュー内に “Remove Fundamental” という処理があります。
結論を先に書いてしまいますと、今回の記事で伝えたいことは、“Normalize Each” をする前に “Remove Fundamental” をするかしないかで結果が異なるので、用途に応じて使い分けましょう、ということです。
例として、下記はデフォルトで入っている波形の Spectral > Monster 8 [SL] の波形です。まだ読み込んだだけで、何も加工していない状態です。
これに対して、“Normalize Each” の処理を適用した波形の図が下記になります。事前に “Remove Fundamental” をしていない場合は左の結果に、している場合は右の結果になります。
ここで着目したい点が、左の結果はデフォルト状態と比べて波形の変形がさほどみられず、一方で右は明らかに変形しているという点です。
実際に手元に Serum がある方は実際に試して聴き比べて頂くと分かりやすいのですが、左はデフォルト状態の波形からボリュームが上がっただけです。右は当然ですが全く別の音がします。
これが冒頭で述べた用途に応じて使い分けたいというポイントになります。“Normalize Each” するだけであれば、元の波形の構造を保ったまま、ボリュームを最大化することになります。単純にボリュームを上げたいだけの場合、この結果は望ましいはずです。
しかし、“Normalize Each” する前に “Remove Fundamental” すると、別の結果を得ることが出来ます。
Monster 8 [SL] 以外のいくつかの波形でも “Remove Fundamental” して “Normalize Each” の処理を試してみたところ、デフォルト状態から聴覚上大きな変化が得られるものとそうでないものに分類されました。
Monster 8 [SL] は大きな変化が得られる波形に分類されます。一方で、例えば、同じ Spectral に入っている Monster 3 [SL] の場合、結果は下記の図のようになり、実際に聴いてみると、処理前と処理後で音の変化があまり感じられませんでした。
では、Monster 8 [SL] と Monster 3 [SL] の違いは何なのか。答えは、波形に含まれる基音の割合の違いです。
Monster 8 [SL] はサブベースっぽいブーという感じの音がします。オクターブ高い鍵盤で弾くと、サイン波とスクエア波が混じったような音がします。
それに対し、Monster 3 [SL] はキーという少し金属っぽい音がします。
“Remove Fundamental” は各ウェーブテーブルの基音のボリュームを 0 にする処理です。つまり、そのウェーブテーブルの音を基音がより占めているほど、“Remove Fundamental” の処理による影響は大きいということが言えます。(だって、“Remove Fundamental” は基音のボリュームを 0 にする処理なので)
金属っぽい音というのは、波形的には、基音より上にある倍音の含有率が潤沢な音と言えます。
一方でサブベースのようなサイン波っぽい音は、ほぼ基音だけです。これが、Monster 8 [SL] と Monster 3 [SL] との間で処理結果に差異が生じていた理屈です。(と考えているのですが、間違っていたらご教授いただけると・・・・)
理屈の説明としては以上の通りなのですが、“Remove Fundamental” することによる音作り的なメリット・活用方法はというと……
いくつかあると思うのですが、最も典型的なケースとしては、ワイドなベースの音作りをするケースです。
ワイドさを演出するため、オシレーター A (・B) にユニゾンを掛けたり、パンを LFO で動かしたりなどすることがあると思うのですが、このとき基音を残したままだと、サブベース的な低い帯域にもその処理が適用されワイドになってしまいます。
ミックスの基本として、キックやベースのような (ミックスの芯となるような) 強い低音の音色はなるべくパンの中心に寄せたほうがバランスが良く聴こえるので望ましい、というものがあると思うのですが、その観点でいうと、サブベース的な低い帯域の成分が左右にぶちまかれるのは避けたいところです。
そこで “Remove Fundamental” が活用できます。基音さえ削除してしまえば、サブベース的な低い帯域の成分はほぼ消えるので、どれだけユニゾンを掛けても左右のローはクリアなままなのでヌケが良く聴こえるはずです。その代わり Sub オシレータのサブベースをパンの中心でしっかり鳴らしておけば、ローもしっかり出たバランスのよいベースに聴こえるはずです。これでクリアかつ芯もあるベースサウンドになります。
ここまで書いて気づいたのですが、“Normalize Each” する前に “Remove Fundamental” するかしないかというよりは、“Remove Fundamental” を使うべきシチュエーション、という話でしたね笑
何にしても、これからは積極的に “Remove Fundamental” 活用していきたいと思います!