始まりの音
美しい音楽は言語の隔たりを
軽々と越えていく
それは自然言語のその奥へ響くもの
言葉の生まれる前に
感情は命の音を聴いている
想いが立ち昇る靄のような
形にならない言葉はまだ眠っているころ
静かな緑野に紫の雨が降り
薔薇の香りが棚引いている
美しく輝く黒曜の瞳たちは
風を観ず触れている
引き裂かれる悲鳴たちが
息を殺す昼日中の路上に
いつか天上から音楽が降り注ぐ
わたしたちはどこからやってきたか
言葉の生まれるその前には
悲しみたちが目覚めるその前には
光とは無限のように
遍くあることを
いつもどこかにある彼方(あなた)の世へ
そして
わたちたちのふるさとより響く
音叉の一音が聞こえる
始まりの音を
わたしたちは知っている
原初の音楽の生まれるその前を
遥かで親しい声の生まれるその前を