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PPT第157回定期演奏会:PPT×日本センチュリー

はじめに

2023年6月10日(ザ・シンフォニーホール)と11日(サントリーホール)の2日間にわたって同じプログラムで行われた、PPTと日本センチュリー交響楽団、ソリスト角野隼斗さんのコンサートのうち、東京公演に行きました。これはその備忘を兼ねた適当な感想です。

曲目

J.アダムズ:Must the Devil Have All the Good Tunes?
R.シュトラウス:アルプス交響曲 作品64

会場

今回、赤坂のサントリーホールに行きました。東京の自宅から自転車で行ける距離ですが電車で30分くらいです。
前回ぎりぎりだったので早めに行き、開演1時間前に着きました。小雨が降っていました。
ホール1階の中央出入り口付近、カラヤンのサインなどが並ぶエリアの横に、角野さんあてのスタンドのお花がありました。題名のない音楽会様から。

演奏の前に

今回はステージの縁すれすれにグランドピアノが置かれています。なんとかステージの中に納まった、という感じです。ちょっと油断するとステージから落下しそうです。

客席の照明が落ち、オケの方が出てくるのかと思ったら、飯森さんと思しい方がマイクを手に一人、ステージに躍り出てきました。
「電車が遅れているとのことで、お客様はほとんど入られているとのことですが、開演を少し遅らせることになりまして、それまで僕が話すということで」
「本日はたくさんのお客様にお越しいただきありがとうございます。私は、日本センチュリー交響楽団の首席指揮者と、パシフィックフィルハーモニア東京の音楽監督をつとめております飯森範親です。今日は角野さんが来られていて、彼は本当に素晴らしい演奏家で。最近NYに拠点を移されて、一時帰国されてそれでこちらに出ていただけるということで。
今日はアダムスの悪魔はなぜすべての名曲を手にしなければならないのか?です。角野さんとは昨年もアデスを一緒に演奏しまして。アデスも難しい曲だったのですが今日のアダムスもとても難しい曲なんです。どちらも難しいけど、アダムスはアデスとは違った難しさなんです。アデスは何となく盛り上がっていればよかったのですが、アダムスはそうはいかない。誤魔化しがきかない。いやごまかしているわけじゃないんですよ。角野さんは大変すばらしいピアニストで、それをうまく引き立てていくようにオケと合わせていかないといけない。そこが難しい。この曲はオケとピアノが少しでもずれると崩れてしまうのです。アダムスのこの曲は、最後、鐘の音で終わります。それをどのようにとらえるか。みなさんの感想をぜひSNSでつぶやいていただけたらと思います。
もう1つシュトラウスのアルプス交響曲を演奏します。今日は僕が大変尊敬する作曲家の、シュトラウスのお誕生日ということで。昨日と今日、シュトラウスの曲を演奏すると。シュトラウスは山登りが好きで、真夜中の2時に突然起きて、山に登り、突然の嵐に見舞われてやっと下山したと。アルプスというとスイスにあると誤解されるんですが、違うんです。ドイツとかいろんな国にまたがっていて、僕も頂上近くまで何度か登ったことがあって。アルプスには昨日も登りましたが今日も登るということで。みなさんぜひ登山を楽しんでください。ではこのくらいで」
飯森さんはお辞儀をし、さっとステージから袖に戻っていきました。(この解説は記憶があいまいです。ご了承ください)

演奏のことなど

客席の照明が落ち、オケの方が舞台袖から登場します。次に角野さんと飯森さん。角野さんはいつものように颯爽と現れるのですが、居並ぶオケの方々の隙間を通るような通路が狭いようで、ピアノのすぐ近くまで来て立ち止まりました。なんとかでてきてお辞儀をします。
冒頭から不協和音の連続で始まるアダムスのピアノコンチェルト。飯森さんと角野さんはアイコンタクトを取りながら、息ぴったりに演奏していました。席のせいかもしれませんが飯森さんの鋭い息遣いもよく聴こえました。
アダムスは激しい曲と思っていた私にはかなり意外な展開でした。これは何だろうか?なんて美しいんだろうかと思いました。
単調さが必ずしも退屈に直結するとは限らない。ムスリムのモスクを埋め尽くす幾何学模様が無機的ともいえる同じ模様の繰り返しであるにもかかわらず、美しいと思えるように。
ソリストアンコールは、グルダのプレリュードとフーガ。一瞬、アダムスの曲の続きかと思うような曲調です。時折指パッチンも交えながら。悪魔の饗宴最後の舞踏会のようにも聞こえました。
グルダが何も書いておらず、演奏者のアドリブに任されているというフーガの結末は、グリッサンドで盛り上げてふっとフェードアウトする、リストの死の舞踏を思わせる終わり方でした。宴が明けて悪魔が暗闇にふっと姿を消すように。

アルプス交響曲は、最初不穏な雰囲気で始まります。飯森さんの前に譜面台はありません。嵐が来そうな感じです。山の天気は変わりやすい、それからこの曲は山の様々な景色や天気、空気や時間のうつろい、鳥のさえずりや木々のはずれの音。風のそよぎ、川のせせらぎを映し出していきました。管楽器の音色はまさに鳥のさえずりでした。すばらしかった。
飯森さんはタクトを振りながら時折流れる汗をぬぐいます。曲が終わってもしばらくは指揮台の上でオケの方を向いたままじっとしていて、したたる汗をぬぐっていました。壮大な演奏でした。

感想

飯森さんが公演に先立って曲目の簡単な紹介をしてくださったのは、とてもよかったです。単なる曲解説なら、ほかの評論家や演奏家もできるのでしょうけれど、当日演奏する演奏者の方々が、今日の曲目をどのように理解し、どのように演奏しようと思っているのか、を聴くことができたのは貴重で、興味深かったです。
アダムスのこの曲は変態だ、と角野さんは事前の配信で話していました。こんなリズムを延々とやりつづける、どうかしてると。この曲はユジャ・ワンさんが日本初演をしていてその音源もある。その音源を聞くと彼女は、挑発的な衣装でその同じビートを延々力強く激しく弾き続ける。あのスカートでは体重移動ができず、弾きづらいのではないかと(特に高音や低音)。

角野さんが弾くアダムスは、美しかった。比較してはいけないと思うが、彼は、激しいノリでガンガンととにかく突っ走る弾き方はしなかった。私はそこに感銘を受けた。
クラシックのカウンターパートとして出てきたミニマルミュージック。その系譜の一人というアダムス。メロディーがなければ音楽ではないのか?音楽とは何か?美とは何か。
今回の演奏を通して、一風変わった趣味のように見えても、弾き方によっては”美しい” ”音楽”ともなりうる、アダムスの新たな解釈をみたような気がしました。
激情をぶつけて激しく弾くのも恐ろしさを表現するひとつの手段ではある。しかし、その激情を抑えて、単調ともいえるフレーズを敢えて淡々と、しかし単調に聞こえないように工夫して。時に感情を爆発させ、時にはやる心を押し殺し、角野さんの持ち前の美しい音色がさらに不気味さを増幅させもするように感じました。メロディーなきはずところにあたかもメロディーが浮かび上がるかのように、構成音の微妙な変化が様々な表情を現出させます。押し殺した表現の方がより恐ろしさを増幅させもするように思うのです。ただ今回私は不気味さや恐ろしさより、音色の美しさも相まって、本当に美しい演奏だと思いました。最後の鐘の音まで。

アンコールのグルダのプレリュードとフーガは、アダムスのアンコールにピッタリだとも思いました。特にプレリュードは、同じようなフレーズが不穏な空気の中繰り返され、構成音が微妙に変化しながら展開していきます。考えてみれば、グルダがこの曲を作曲するにあたり参照したであろうバッハのプレリュードもその多くは、似たパッセージが繰り返され、その構成音が少しずつ変化しながら展開していく構成をとっています。クラシックの束縛から逃れようとしつつも、聴き方によってはその要素に、何かしらの共通点が見えてくるものなのかもしれません。

まとめ

前回のアデスは、中央ブロックの鍵盤が見える席でした。すさまじいオケとピアノの音が襲ってくる、演奏も素晴らしかった。
ティンパニとシンバルは前回も今回も素晴らしく盛り上げていました。
今回、1階の左端に近かったので、ピアノの音は前回ほどは聞こえませんでした。角野さんの、鍵盤の上をひらひらと舞うような指や手の動きは見えました。時に左手でリズムを取りながら。
単調なハーモニーとリズムの繰り返しのはずなのに、退屈に感じるどころかむしろ色々な表情・景色が表れてくる。アダムスのこの曲は美しい曲なんだ、そのように弾く角野さんやオケ、飯森さんは、なんて美しい世界を見せてくれるのだろうと思いながら聞きました。

『クラシック名曲「酷評」事典』を編集したニコラス・スロ二ムスキーは、アダムスが参考にしていた作曲家だそう。アダムスはなぜスロニムスキーにひかれたのか。彼らが伝えたかったこと、考えていたことは何か。
偉大な作曲家ですら酷評されることもある。自分を信じろと。
何が評価され、何が酷評されるか、作曲者自身はコントロールできないし、気にしすぎることもないはずだと思います。

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あ、でもすみません・・個人的にはアデスとそのあとのアンコールが最高だった・・若気の至りというのでしょうか、派手に勢いよく盛り上がる曲が好きなんです(組曲「惑星」も素晴らしかった。「惑星」は退屈な曲という中学生時代以来の印象が見事に覆りました)。これは席のせいもあったかもしれず、前回と同じような場所で聴いていたら、また違った印象だったかもしれません。

以上、とりとめのない、どうでもいい感想でした。

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