小説「静かなる 花の舞い散る 夜の川」
山に登れば 春が来る
川を泳げば 秋が来る
西に 東に 東に 西に
ブルドーザーの お通りだい!!
今日も初老の男が、自身の音程を気にしながらヘタな歌を歌っているのが聞こえる。
平日の昼下がり。
私は公園で弁当を食べていた。
初老の男は公園を見下ろせるアパートの三階の窓から顔を出して、必死に歌っていた。
その男が歌い続けているうち、みるみる顔が変化して、ラモスになり、ラモスになったと思ったら、さらに顔が変化し続けた。
魚類から爬虫類、哺乳類、類人猿、
そして最後になった顔は、
室外機そのものだった。
「生物じゃないんかいっ!!」
私は懸命に、慣れぬツッコミをした。
よく観ると、それはアパートにしつらえられた本物の室外機で、
妙な歌を歌う初老の男は、どこにもいなかった。
もうすぐ梅雨が来る。
しめっぽい空気が、それを告げていた。
(完)