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感涙小説 調子悪くてたぬきときつね

今日は朝の8時に、非常に不快なことが発覚。
何とか気持ちを立て直そうと一日、努力し、
やっと立て直したと思ったら再び、気分を落ち込ませるような電話が夕方にかかってきて、すべてがご破算に。

そんな一日でした。

あまりにムカついたので、
「数年前のテレビ番組で、林修先生が『テレビゲームをいくらやっても何も意味がない』みたいなことを言っていた」
ということについて考察しようと思いましたけど、
林修先生は勝ち組、
私は負け組、
負け犬の遠吠えにしかならないので、
時速200キロ出せるブルドーザーで、
現在、再開発中のどこかのきれいなビルに突入しようと思ったのです。
(すでに林修先生のことは忘れている。)

「あなただけにそんなまねは、させませんよ」
そう言ってきたのは、たぬきでした。
最近、都内にもたぬきが出没するというので、あり得ない話ではない。

人間の言葉をしゃべるたぬきがいることも、
4000万円も間違えて自分の口座に振り込まれることがあるのだから、
ない話じゃない。

ただし、ぜったいにないのが、地球が立方体だということ。
地球は立方体じゃないことに、10円賭けてもいい。

すくなっ!

いや少なくないよ。
10円を笑う者は10円に泣く、って言うじゃないですか。

たぬきがなぐさめてくれた。
そのうち、きつねもやってきた。

「きつねダンス」が流行っているからという理由で。

彼も多忙だろうに。
「きつねダンス」の件で。

朝昼晩、食事はウイダーインゼリーで済ませているという話だ。
連日、ビジネスホテルに泊まって、楽しみは寝る前に、
ヒステリックにシャープペンシルをカチカチ、ノックするだけだという。

「カチカチノックするって、カチカチ山のことを言いたいんですか? あなたはいじわるなきつねだ」
たぬきがそう言うときつねは、
「そ、そんなつもりじゃ……」
とうろたえたが、きつねはたぬきの心の地雷を踏んでしまったらしい。

一瞬、緊張が走ったが、たぬきの方が折れて、
「悪かった。時速200キロ出せるブルドーザーで、再開発中のどこかのきれいなビルに突入することに緊張してしまって」
と言って、帽子を取って謝罪した。
(たぬきは登場時から、おもしろいかたちの帽子をかぶっていた。当人は気に入っているらしいが帽子をかぶったたぬきの姿が何ともかわいかったので、私は微笑むのを我慢していた。)

「今日のところは、やめとくか」
私はたぬきが帽子を取って謝罪したのがかわいかったので、少し気分がなごんでいた。
しかし、きつねの方は逆にエキサイトして、
「今になってやめるんスか! ぼくたちは何のためにここ、西調布まで来たんスか!!」
と怒り出した。
そうだった、ここは西調布だった。

私はそれですっかり機嫌が悪くなり、やる気をなくした。
きつねを無視して、帰ることにした。
タクシーを拾って黙って乗り込むと、たぬきときつねが走って追いかけて来た。
「待ってー! どこに行くんスか先輩!!」
二人は走りながら叫んでいた(普通の人間みたいな走り方だった。)

簡単に振り切れると思ったが、そこは二匹ともケダモノだ。タクシーがどんなにスピードを出しても食らいついてきて、結局、タクシーが新宿に着いたときにも、たぬきもきつねも追いついてしまっていた。

タクシー代金はとんでもない高額になっていた。
「おまえら、金貸してくれないか?」
タクシーから外に出て私が言うと、たぬきときつねは顔を見合わせて、サッと走り去りどこかに行ってしまった。

振り返るとタクシーも消えていたし、ここは新宿ではなく、深夜二時の、だれもいない東中野駅の前の通りだった。

私は一人、泣いた。
フクロウのホーホー言う声だけが聞こえていた。

おしまい

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