近年のジャンプパターンと知らない池の知らない鯉
「ワンピース」の連載が始まった頃(1997年34号~)は、週刊少年ジャンプのマンガというと、たとえギャグマンガでも、
「どうせ途中からトーナメント戦するんでしょ?」
とかよく言われていた。
トーナメント戦でなくても、5対5マッチとかね。
(「ワンピース」はそうはならなかったと思うけど。途中までしか読んでない。ならなかったよね。)
「ジョジョの奇妙な冒険」第四部「ダイヤモンドは砕けない」は、どういう打ち合わせでやっていたのか知らないが、そのテのパターンをかわしたい気持ちがあったんだろうと思う。
いちおう最後に「大ボス」が出てくるが、序盤から一直線に大ボスに向かっていく物語ではないので。
「杜王町」という限定された空間でまさに「奇妙なこと」が起こっていくという、こじゃれたイギリスの短編小説みたいな印象がある。それをさらに押し進めたのが、露伴先生を主人公にしたスピンアウト作品なのだろう。
「トーナメント戦」、「何人か同士の対抗戦」、「連載初回からほのめかされる大ボスとの決戦に向けて物語が進行する」などのジャンプパターンは、自分がしばらくジャンプを読んでいない間に変化していた。
で、最近(じゃないか。ここ20年くらいか?)多いのは、
「特殊な資質を持った主人公がひょんなことから、作品世界内の『魔物』的な存在を打ち倒す。その後、すぐに『作品世界内に存在する魔物を倒すハンター的な組織』の一員が主人公の前に現れ、『魔物を倒したかったら組織に入れ』と言われる。組織にはクセはあるが尊敬できる先生、先輩、仲間たちがおり、その組織で主人公がやって行けるかどうかが最初の物語をけん引する。その後はどんどん強い魔物が出てきたり、組織内でうちわもめがあったりどーたらこーたら」
というヤツ。
「ナルト」とか「ハンターハンター」とかも私はこのパターンに入れている。「鬼滅の刃」もこのパターンだし。
どうせどこかのだれかが解説しているだろうけれど(しかしどこかのだれかが似たようなことを語っているだろうな、と思うと本当に書く気が失せる)、たとえば同じジャンプでも、今の「ジャンプバトルもの」の大元、元祖的存在の「男一匹ガキ大将」では、主人公がまず組織づくりから始めていた。
60年代後半~70年代では、主人公の敵は既存の大人たちの組織だったり、大人たちの組織存続のために純粋培養されたエリート少年だったりした。
「大人たちの既存の組織がイマイチ信用できない」ことになっているのは、70年代頃でもまだ「日本の敗戦」の影響があったからだろう。
実際、「男一匹ガキ大将」では、日本敗戦の責任を取って、軍の大物が野に下り、日本全国の浮浪者の頭目になっているという設定がある。
ちなみに彼は主人公の強い味方となる。
一方、少年ジャンプに限らず、戦後の少年マンガには「日本は戦争に負けたが、精神では負けてない」という主張も同時に流れている。梶原一騎がそうだった。梶原一騎作品は、当人が旧来の縦社会で生きて来たことと、戦後の「無法地帯」感が混在している。そして登場する女性は聖女か娼婦しかいない。
冷静に考えると狂った世界だが、戦後の混乱とはそういうものだったのかもしれない。
ここ20年くらいの「ジャンプパターン」を見ると、世界はすでにできあがっていて、ある程度の秩序があることが多い。そう言えば80年代の「北斗の拳」ではそうではなかった。
世界はラオウやケンシロウが何とかしなければどうしようもなくなっていたはずで、彼らが新秩序構築に利用したのは、過去の「北斗」とか「南斗」とかの伝統的な概念である。
ラオウの方は伝統への反逆者ということになっているが、すべてを否定する反逆者というよりは自分がテッペンに立ちたかっただけだろう。
そうそう、ジャンプとはあまり関係ないが、いわゆる「異世界転生もの」も、「世界はすでにできあがっている」ことが前提となっている。主人公がもともといた世界は「主人公にとって都合の良くないようにできあがった世界」であり、転生して「主人公が無双できる、すでにできあがった世界」に移行する。
この息苦しさ! 一方で「無秩序な世界」が描かれることもあるが、それはたいていディストピアで、胸糞の悪くなるような世界である。そこでは要領のいい者、目端の効く者だけが生き残れる。正直者や人間的な者は生き残れない世界だから、息苦しいことには変わらない。
「世界(社会)のルールは変えられない」という前提を極端に推し進めたのが「デスゲームもの」だろう。
ゲームのルールが変えられる、と最初に提示してしまったら物語の推進原理自体が失われてしまう。
個人的に何の興味もないジャンルだが、一過性のブームで終わるかと思ったら、ジャンルとしてほぼ定着してしまった。
まあ要するに、何を観ても何を聞いても面白くも何ともない。
それなら、知らない公園の池の鯉でも観ていた方がマシだ。
だが、知らない公園だから永遠にそこに行きつくことはできない。
知らない公園の知らない池では、知らない鯉たちがきったない色の水の中で、「餌をくれ、餌をくれ」と水面から口を出してぱくぱくさせている。
ぱくぱく、ぱくぱく。
おしまい
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