S橋に気をつけろ

変に伏せて書いても同年代に同じ学区だった人にはピンときちゃうんでしょうか。
まあでもとりあえずS橋として書いていきますね。

「通学路に変質者が出没するので気をつけるように」
という連絡が、複数回あったと記憶しています。中学校の、朝の会?とかで。ホームルーム?学活? 何と呼んでたか忘れた。

担任の先生がクラス全員の揃った場でそのように通達する。
っていうのは、つまり職員会議でそのように話すように決められてたってことで、
ってことは、その時点で既に事態はわりと深刻だったのかもしれない。
と、大人になってから思うのでした。

既に警察とかが把握してるような事件が起こっていて、それで学校に注意喚起の知らせが来て職員会議→朝の会 って流れだったのでは。
てことは何かの被害に遭った人がいるってことじゃん。こわ…
尚且つ今のところ犯人野放しってことじゃん。こわ、こわすぎる…一旦休校にしよ…?
と、大人になってから思うのですが。

実際に当時において朝の会での注意喚起のお話を聞いたバカ中学生共(私を始めとした)は、
まあ、右から左に受け流してましたね。

それどころか、この件の矮小化というかネタ化みたいな流れが、生徒たちの間にはあったように覚えています。

朝の会とかで
「通学路に変質者が出没するので気をつけるように」
というお話が、複数回あったわけです。繰り返し語られたわけです。
すると逆効果というのか、これをやられることで、生徒の側には(またその話か〜)っていう空気が生まれて、
「廊下を走らないように」とか
「定期テストに向けてしっかり学習するように」とか
そういうレベルの耳タコ話として受容されていた。と思います。

少なくとも私は(またその話か〜)って思ってました。
そもそもあまり真面目な生徒ではなくて、何かとぼんやりして学校生活をやり過ごしてたので、他のお話もけっこう右から左でした。クズか。

まあそれはいいや、他の生徒らの間でも、変質者出没の話題はまともに受け取られてないというかクスクス笑いを伴う噂話と化していて、
主な出没箇所はS橋の付近らしいよ。っていうのは、学校からのお話ではなく生徒間の口コミとして聞きました、たしか。

ある日の休み時間には、男子生徒のグループがふざけ合いながら、その中の一人に
お前がS橋の変質者なんだろう、
暗くなってからS橋を行ったり来たりしてるのを見た人がいるってよ、
家もあの辺だし間違いないな。
等と語りかけているのを見かけました。

(ここを地元の訛りで書こうとして気分が悪くなって挫折しました。わかる人は適宜方言に変換してお読みください)

そのときのわたしの感想を今持っているセンスと語彙で表すと「陽キャ終わってんな」なのですが、
当時は(男子の間でのああいうからかい行為は珍しくない。バカ同士の付き合いは大変だな。気持ち悪いから他所でやってくれないかな)とぼんやり思いながら眺めていました。

結局のところ変質者はどうなったのか。
誰の身に何が起こったのか。
私たちには「気をつけるように」というお話しか与えられなかったので、よくわからないです。

あとは、
ここまでの話と関係あるのかないのか何とも言えませんが、
その頃に私自身が経験したことを書いておきます。

まずは中学二年ぐらいのとき、
帰宅しようとして自転車置き場の自分の自転車を取りにいくと、何故かサドルがいじられて最大限まで高くなっていた。ということがありました。

前カゴには学校指定のヘルメットを置いていたのですが、それを見ると、中に、
「サドルを上げておいた ヘルメットのバンドを調節しておいた」
と書きなぐられたメモ用紙が入っていました。

後から友達が追いついてきたので彼女の仕業かと思い、
変ないたずらしないでよねーwって言いながら見せたら
「えっ知らない…何これ…」って言ったきり表情が固まってしまったのでした。

あっなんかシャレにならない空気になってる…? と思った私は
まっ! 何かよくわからないけど、サドルの高さとか直せばいいしー!?
つって、メモは握りつぶして捨てました。

今になって考えると、そういうの一応は先生に報告したほうが良かったんじゃないか。

しかし我々が言われていたのは「通学路に変質者が出没するから気をつけるように」であって
自転車のサドルや何かをいじられてヘルメットに怪文書を投げ込まれた場合にはどうしたら良いのかはわからなかった。

あと、たくさんの生徒の自転車が並んだなかで、
自分のだけがそういうわけのわからん被害に遭っている、っていう状況が、そのときめちゃくちゃ恥ずかしかった。
遭遇するかしないかわからない変質者よりも、確実に発生すると思われるからかいとか噂話が恐ろしく思えました。

この件はそれきりだったので、本当に何だったのかわからないです。

その後、高校生になってから、
自転車での帰宅途中に同じく自転車に乗った男性がめっちゃ後ろをついてくる。っていう日が続いた時期がありました。
S橋の近くの通りでのことでした。

そいつがうろついてることに早めに気づいたらルートを変える、
うっかり追跡されてしまったらひたすら無視して全速力で自転車を漕いで走り去る、
という地味な対抗策を繰り返してるうちに見かけなくなりました。

が、一度、ほとんど隣まで追いつかれて話しかけられたことがありました。

高校に入って間もなくの頃だったと思います。
学校祭か何かのイベントの準備のついでで、友達のほかに、上級生の男女が入り混じっている場で、あれこれ雑談しているうちに、S橋の変質者の話題が出てきたのでした。

私が「それらしい人にわりと最近追いかけられ、話しかけられた」と打ち明け、
誰かの「何と話しかけられたのか」という問いに、素直に
「『一年生〜?』って」
って答えたとき、
何故かその場の皆さんの反応が爆笑だったんですよ…
うわー! リアル!
本物じゃん!
とか言われた。

その時は、なんかウケてるからいっか。と思ったのですが、
このことを今思い返すと、

はあー?一回お前ら見知らぬおっさんに追いかけられてみろや街中住みの良い衆のお坊ちゃん共が!
親がクソ辺鄙なとこに家なんか建てたせいでこっちはS橋の前を通るしか帰る方法がないんじゃー!
リアルも何もあるか100パーのマジ話じゃボケ!!
っていうのは八つ当たりだけど、
とにかく!
人の変質者被害を笑うんじゃねーよ!!

などと思うのでした。
田中さん、これってムカつきますよね。(突然のラジオネタ)

結局何にも気をつけられないまま
変質者が出るという橋近辺を避けられない通学ライフを終えて
なんとなく大学生になったわたしは東京に移り住んだのでした。

東京にいる間には意外とその手の被害に遭うことはなかったです。
スキル「気をつける」が高くなっていたおかげかもしれませんが、
べつに誰にも感謝したくはありません。
それではごきげんよう。

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