園芸版の著作権? 種苗法をわかりやすく解説します
昨今、メルカリをはじめとしたフリマアプリやオークションサイトといった個人間での売買プラットフォームが広く利用されるようになり、種苗法に接触する行為が表立つようになってきました。
種苗法は、端的にいえば『園芸分野における著作権』なのですが、一般的な認知度はあまり高くないらしく、"種苗法とは何か?" を知らずに売買している人も多い印象です。
しかし、種苗法違反は懲役や罰金が課せられる歴とした法律違反であり、クリーンな園芸ライフを楽しむためには基本的な理解が欠かせません。
この記事では、種苗法とは何か?という基礎知識から、フリマアプリで気を付けるべきポイントまで、違反行為の事例を交えてわかりやすく解説していきます。
種苗法の概要
種苗法(しゅびょうほう)とは、
新品種を開発した生産者の権利を守るための法律です。
新しく開発した品種を農林水産省に出願すると『登録品種』として扱われ、25~30年の間、育成権や独占販売権が認められます。
これにより、許可のない栽培を阻止され、育成者の知的財産権が守られるのです。
要は、許可なく増やして人に渡さないでくださいね、という内容です。
DVDの海賊版規制のような制度といえばわかりやすいかもしれません。
販売や譲渡をおこなわず、個人で楽しむ範囲の増殖は許されています。
背景
日本で開発されたブドウやイチゴなどの優良品種が海外へ流出し、第三国に輸出・産地化された事例があります。
これらの優良品種が安価で取引されるようになり、国産品の価値が下がってしまうという問題がたびたび起きています。
シャインマスカットや、さくらんぼ「紅秀峰」の流出問題はまだ記憶に新しく、ニュースで目にされた方も多いのではないでしょうか。
このような事例を機に、2021年4月には種苗法が一部改正され、規制が強化されるなどしています。
フリマアプリでの事例
去年の秋(2023年11月)、フリマアプリで登録品種のイチゴ苗を販売した女性が書類送検されました。
→こちら日本農業新聞の記事です。
この女性は、購入者3人に対して7株を譲渡して検挙されましたが、その販売価格が3631円と公表されています。
そこからフリマアプリの販売手数料10%と送料、梱包資材代を引くと…粗利はごくわずかだったはずです。
記事によれば、女性は違法と知りながらも注意で済むだろうと軽く考えていたらしいのですが、もしこれが知らずにやってしまった人だとしたら…その絶望たるや想像に難しくありません。
・ 知らずに購入してしまったら?
ちなみに、知らずに購入した側が種苗法違反で罪に問われることはありませんが、『損害賠償請求の対象となる可能性はある』と農林水産省は注意喚起しています。
フリマアプリの安さは魅力ですが、野菜や果物のブランド苗は園芸店で購入したいですね。
観葉植物との関係
「わかったけど、それって野菜や果物の話じゃないの?」と思われたそこのあなた。
もちろん、種苗法は観葉植物にも大きく関係しています。
ここからが本題と言っても過言ではありません。
観葉植物の中にも、品種改良された新しい品種が数多く存在します。
たとえば、近年人気のザミオクルカス”レイヴン”。シックな黒葉が魅力で、SNSでもよく目にします。フリマアプリではこの増殖株がごろごろ出品されていますよね。
そこで筆者が育てている株のタグをよく見てみると、
『出願中』とありますね。
これは種苗法に基づいて登録品種の出願をしています、という意味です。
しかし、筆者がレイヴンを購入したのはもう一年以上も前のこと。
この記事を執筆した2024年11月時点では『登録品種』になっているので、増殖させた株の売買は禁止です。
登録品種の表示
実は種苗法の登録品種はタグにその表示が義務付けられており、
・『登録品種』
・『品種登録』および『登録番号』
・『PVPマーク』
これらのいずれかを明記する必要があります。
これらが表示されている植物は、無断で増殖・販売してはいけません。
・ タグがない場合は?
購入後すぐにタグを捨ててしまったり、譲り受けてタグがなかったりした場合でも、以下の農林水産省のホームページから登録品種かどうかを調べることが可能です。
まとめ
ここまで読むと大変な法律のようにも思いますが、実際の登録品種は『米』17%、『ブドウ』13%、『野菜』9%と、それほど多くないのが実状です。
観葉植物においても、アガベやビカクシダ、ニッチな着生植物などは、ほとんどが一般品種(登録されていないもの)に該当します。※2024年現在
筆者も30種を超える観葉植物を育成していますが、登録品種は1つか2つ。観葉植物というニッチなジャンルにおいては、登録手続きに対する手間と費用対効果が薄いからではと考えていますが、現状それくらいの感じです。
したがってそこまで神経質に考える必要はありませんが、それでもレイヴンのように、しっかりと申請手続きをおこなっている生産者もあります。こうした素晴らしい品種を開発した育成者が不利益を被ることは、我々園芸愛好家の不利益にもつながります。
フリマアプリは上手に使えば楽しみの幅を広げてくれる良いものです。
ですが、売買の際には、「これは大丈夫かな?」と一度立ち止まって確認し、ルールを守ってクリーンな園芸ライフを楽しみたいものですね。
では!