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まわせないし、まわれない



水曜日、大学の授業が午前中に終わるため、午後は特に予定がない。

やらなきゃならない課題は溜まっているが、別に今日じゃなくてもいい。
最近は有意義な休日を過ごせていない気がするから、今日の午後はなにか文化的な活動をしよう。

というのも、前日の夜にYouTubeで「君たちはダウ90000にはなれない【後編】」を見たせいで、その日は”ダウ90000な時間を過ごさねば” という謎の使命感に朝から駆られていた。

ダウ90000のような休日。

この時点で一人で過ごす可能性がぐっと引き上がる。
なんせ僕の大学の友達にダウ90000はいないから。
一人だったらどこにでも行ける。
ただ、天気予報は夕方まで雨マークが並んでいたので、屋外での活動は避けよう。


頭の中のいろんな引き出しから集めた候補を戦わせ、最終的に ”あまり知られていない写真家の展覧会” との決勝戦を制して、
映画『アットザベンチ』を観に行くことにした。

さすがに少しダウ90000に引っ張られ過ぎた。
この映画の第2編の脚本を書いているのが蓮見さんということは知っていたし、何なら無料配信期間にそのエピソードだけは観ている。


この映画の劇場公開が発表されたとき、観に行くことを決めたと同時に、一緒に観に行きたいと思い浮かんだ人が一人いた。

たいていの場合、映画は一人で観るが、この映画に関しては同じサークルの気になっている女の子を誘うつもりだった。
その子とは過去に一度、二人でコナンの映画を観に行ったことがある。

それだけ。

彼女は優しいから、もし今回も誘っていれば、いつものパーカーを着て一緒に観に来てくれただろう。
そしてアットザベンチの内容からして、観た後はちょっとイイ感じの空気になったかもしれない。

ただ、自分が絶対に好きな作品を、あまり面白くなかったと言われたら?たぶん自分は拗ねてしまって、ものすごい険悪な空気になる気がする。
もしかしたらそのまま彼女への想いも冷めてしまうかもしれない。
好きすぎる映画だからこそ、価値観の違いを恐れて好きな子を誘いにくかった。

あと普通に勇気がなかった。



だから結局、「一人で観に行くのが、作品を楽しむ上では一番。」
今回はそういうことにする。

あの映画は今のところ東京だとテアトル新宿でしか上映していないため、とりあえず新宿に向かう。
別に頻繁に行っているわけではないが、テアトル新宿で映画を見るときはいつも雨が降っている気がする。

”大学の授業帰り、好きな子を誘うか迷った挙句、雨のなか一人テアトル新宿で『アットザベンチ』を観る”

これはどのくらいダウ90000だろうか。
ここまできたら正直もうどっちでもいい。


『アットザベンチ』は案の定とても面白かった。
好きな映画は何ですか?の回答の一つになるぐらいお気に入りの映画になった。

やっぱりエンターテインメントは笑える方がいい。
感動超大作によって心に与えられる感情よりも、もっと気楽に前向きになれて健康的な気がする。
映画を生活の一部に馴染ませるにはちょうど良すぎる作品。


やっぱりあの子を誘えばよかった。

まだ付き合ってない男女が観る上でこれ以上の作品はないかもしれない。
観ていないふりして改めて彼女を誘うことも考えたが、さっき何も考えずに劇場の入口にあったポスターの写真をインスタのストーリーにあげてしまった。


ということは僕がこの映画を観に行ったことは彼女にばれている。
「面白かったから一緒に行こう!」はちょっとやりすぎかもわからないし、また誘うハードルが高くなってしまった。

もうこの映画を二人で観るのはあきらめよう。


いくらでもチャンスはあるし。




次は上野国立博物館でやってる「はにわ展」にでも、誘うかどうか迷ってみようか。







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