週刊レキデンス ~第14回~ 血圧の目標値はどうやって決めたの?
高血圧の時、血圧を下げた方が長生きが出来そうな事が分かりました。それでは、血圧はいくつぐらいにコントロールするのが良いでしょうか?
この結論を巡って、フラミンガム研究以降も幾つかの血圧管理を巡る様々な臨床試験が行われてきました。
VA Cooperative Study
例えば、フラミンガム研究と同時期 1967 年に発表された VA Cooperative Study こちらは退役軍人を集めてきて、拡張期血圧(以下、DBP)が高い群(115-129mmHg)と低い群(90-114mmHg)でヒドラジン塩酸塩 vs プラセボで降圧による死亡率を比べました。
結果は、DBP:115-129mmHg の死亡率は 0例 vs 4例 (P<0.001)、DBP:90-114mmHg の死亡率は 8例 vs 19例 つまり、ヒドラジンを使用して降圧を行う方が死亡率が有意に下がる事が示されました。(1)
ANBP Study
そこから少し時代は進み、1980年 ANBP Study(Australian National Blood Pressure Study)は軽症高血圧(収縮期血圧(以下、SBP)<200mmHg、DBP:95~110mmHg)患者に対して実薬 vs プラセボで比較した結果、実薬群の方が心血管死亡が2/3に減少したと示されます。(2)
降圧の安全性は?
1940 年代以前に考えられていた「血圧を下げると危険ではないか」といった疑問に対しては、BBB(Behandla Blodtryck Battre (Treat Blood Pressure Better) 研究という DBP を80mmHg 未満に下げても安全かどうか検討した試験があります。その結果、心血管系の罹患率と死亡率に統計学的有意差は見られませんでした。つまり血圧を下げても死亡リスクが増えないという事が示されたのでした。(3)
SPRINT試験
VA Cooperative Study は DBP で比較しました。では、SBP ではどうなのでしょうか。2015年 SPRINT という試験では、SBP<120mmHg(厳格群)とSBP>140mmHg(標準群)で比較した所、血圧を厳格にコントロールすると死亡率が 27 % HR:0.73(0.60-0.90 P = 0.003)下がることが示されました。
(4)
そんな SPRINT 試験の最終報告が 2021 年に発表されました。その結果においても厳格降圧群は心血管関連のイベントリスクを 27 %低下させることが示されました。複合アウトカム HR:0.75(0.61-0.92) 全原因死亡率 HR:0.73(0.63-0.86)(5)
高齢者の降圧
高齢者についてはどうなのでしょ? 2021年に発表された STEP 試験 高血圧の60〜80歳の中国人患者を対象に厳格な降圧( 110-130mmHg )と標準降圧( 130-150mmHg )を比較した試験結果では、厳格な降圧で心血管リスクを26%下げる傾向にあることが示されました。複合アウトカム HR:0.74(0.60〜0.92; P = 0.007)(6)
まとめ
こうして様々な臨床試験の結果を受けた結果、日本高血圧ガイドラインでは、家庭血圧で若年・中年・前期高齢者(75歳未満)で 125/75mmHg 未満、75歳以上の後期高齢者で 135/85mmHg 未満を目標にしていくようになりました。(7)
参考:
1. JAMA. 1967; 202: 1028-34.PMID:4862069
2. Lancet. 1980; 315: 1261-9.PMID:6104081
3. Behandla Blodtryck Bättre. Blood Press. 1994 Jul;3(4):248-54. PMID:7994450
4. N Engl J Med. 2015; 373: 2103-16.PMID:26551272
5. N Engl J Med. 2021 May 20;384(20):1921-1930.PMID: 34010531.
6. N Engl J Med 2021; 385:1268-1279 PMID:34491661
7. 高血圧治療ガイドライン2019 2019 ライフサイエンス出版