「勝手に DI 室」低用量ピルと経口避妊薬について まとめてみた
前回低用量ピルの「低用量」の謎に迫ってみました。
そもそも、「低用量ピル」と「経口避妊薬」の 2 つは違うんでしょうか?同じような・・・違うような・・・分かりにくいですよね。
低用量ピル と 経口避妊薬
「低用量ピル」という日本語は、LEP: low dose estrogen progestin から来ています。そのため「LEP」と表現することがあります。
他にも同じような単語として OC :oral contraceptives(海外:ChC/CoC )というものがあります。この 2 つの明確な違いは、前者は月経困難症や子宮内膜症に対する保険適応(つまり、治療)がありますが、後者は経口避妊薬として 自費対応 という点が異なります。
治療目的の場合は「LEP」、避妊目的の場合は「OC」となる訳ですね。
ただ、資料・文献検索を行う際には、どちらも入れるとヒット率が高くなるような気がします。
現在使われている LEP
現在日本においては、LEPには5種類が使われています。
1. ヤーズ® 2. ヤーズフレックス® 3. ルナベル®ULD 4. ルナベル®LD 5. ジェミーナ®
それぞれの違いは ①飲み方、②含有する黄体ホルモン、による各種違いがあり、この点が使い分けに関連しています。
①飲み方の違い
1. 21 日服用して休薬するタイプ
2. 77 日連続で飲むタイプ
3. 120 日連続で飲むタイプ
1. 21 日服用して休薬するタイプ(※プラセボありなし含む):ルナベル® ULD/LD ヤーズ配合錠 ジェミーナ(その① )
スタンダードなタイプ 3週間服用して1週間休薬をします。
2. 77 日連続で飲むタイプ:ジェミーナ®(その② )
28 錠タイプを 2 シート、21 錠タイプを 1 シート、合計 77 日連続して服用。ヤーズフレックスとの違いは、不正出血が起きても 77 日間までならば連続投与が可能で、より計画的な連続投与が可能
3. 120 日連続で飲むタイプ:ヤーズフレックス®
最長 120 日間の連続投与が可能 = 最大 120 日間月経期間を開けられる。
28錠 × 4シート +α で 120 日
②含有する黄体ホルモンの違い
第一世代:ノルエチステロン → ヤーズ/ヤーズ配合錠
第二世代:レボノルゲストレル
第三世代:デゾゲストレル ( → マーベロン )
第四世代:ドロスピレノン → ルナベル LD/ULD
世代間で黄体ホルモンが異なるのは血栓リスクと効果の改良の影響であると考えられます。
血栓リスクは、 第一世代 < 第二世代 < 第三世代 < 第四世代 と考えられています。
1. レボノルゲストレル(第二世代)と比較した血栓症リスクは、
①ノルエチステロン(第一世代):0.98(95%CI:0.71-1.37)
②ドロスピレノン(第四世代):1.64 ( 95%CI:1.27-2.10) (3)
2. 第二世代 / 第三世代と比較したドロスピレノン(第四世代)の静脈血栓リスクは、
① vs 第二世代 :RR:1.65 ( 95%CI:1.02-2.65 )
② vs 第三世代 :RR:1.43 ( 95%CI:1.15-1.78 ) (4)
何故、血栓リスク に注目しているの?
それは、血栓症による心筋梗塞、塞栓症脳卒中リスクを減らすためです。 実際低用量~高用量で比較していくと高用量になるほど心筋梗塞や脳卒中リスクが高くなることが示されています。(5)
ちなみに、経口避妊薬による血栓リスクの最初の報告は、1961年 子宮内膜症の治療で投与された Enavid 10 mg(ノルエチノドレル 9.85 mg/メストラノール 0.15 mg) および嘔吐と脱水が原因とされる血栓症の報告です。(6)この報告は、1960年に Enavid 10 mg が使われるようになって僅か 1 年という早さです。
<塞栓症脳卒中リスク>(5)
20μg RR:1.60 (95% CI, 1.37 to 1.86)
30-40μg RR:1.75 (95% CI, 1.61 to 1.92)
50μg RR:1.97 (95% CI, 1.45 to 2.66)
<心筋梗塞リスク>(5)
20μg RR:1.40 (95% CI, 1.07 to 1.81)
30-40μg RR:1.88 (95% CI, 1.66 to 2.13)
50μg RR:3.73 (95% CI, 2.78 to 5.00) (P<0.001)
まとめ
これらの結果をまとめて図にしてみましょう
参考
1. ジェミーナ®配合錠の服用方法について ノーベルファーマ
2. ヤーズフレックス配合錠処方簡易マニュアル 2021年 バイエル薬品(株)
3.Trenor CC 3rd,et al. Pediatrics. 2011 Feb;127(2):347-57.PMID: 21199853
4.Gronich N,et al. CMAJ. 2011 Dec 13;183(18):E1319-25.PMID: 22065352
5. Lidegaard Ø,et al.N Engl J Med. 2012 Jun 14;366(24):2257-66. PMID:22693997
6. Jordan WM. Pulmonary embolism. Lancet 278(7212):1146-1147,1961