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鎌状赤血球と勃起不全の関係性

定期的に論文抄読会を行っているのですが、今回のテーマは貧血でした。そこで鎌状赤血球症と勃起不全について関連があることが知れたので、歴史も交えてまとめてみました。

鎌状赤血球症とは?

鎌状赤血球症(sickle cell disease , sickle cell anemia)とは、ほぼ黒人、いわゆるアフリカ系民族だけに生じる慢性溶血性貧血と言われています。

何故、アフリカ系の人種が多いのでしょうか?
それには、マラリア感染が大きく関与しています。(1)
アフリカではマラリア原虫が多く、マラリア感染症が蔓延しやすい状況下ですが、鎌状赤血球になっているとマラリアに感染した赤血球が酸素不足に陥って溶血を起こしてしまい、マラリア感染が進行しにくくなります。
実際に 鎌状赤血球症(SCD) を有しない小児は、有する小児と比較してマラリアによる死亡率が高いことが示されています。OR:1.8(95%信頼区間:0.9-3.5) (2)

いつ発見されたの?

鎌状赤血球(SCD)は1910年(今から 112 年前)、James B・Herrick(1861-1954 )によって黒人男性が持っていることが報告されました
。(3)(4)

鎌状赤血球症と勃起不全の関係性

では、その鎌状赤血球がどうして勃起不全に関係してくるのでしょうか?
鎌状の赤血球は血管の閉塞を引き起こし、溶血を起こしやすいことから、重度の疼痛発作や臓器虚血、および他の全身性合併症につながるとされています。 その症状の1つに「虚血持続勃起症(Ischemic Priapism)」があるのです。

虚血持続勃起症と勃起不全

持続性勃起症 って聴くと「勃起不全とは逆じゃない?」って思いませんか?
実は、虚血性持続勃起症 のほとんどの症例では陰茎の萎縮不全が関与しており、最も頻度の高い原因は静脈流出路の閉塞が生じます。
だから、虚血性持続勃起症 が 4 時間以上持続した場合、4 時間後虚血によって疼痛が生じ、更に海綿体に線維化、将来的に勃起不全に至るとされています。そのため鎌状赤血球症は勃起不全になりうると知られています。

では、本当に勃起不全の割合が高いのでしょうか?

ここで、とある疫学的研究を見てみましょう。(5)

患者背景を見てみます。特に年齢、罹患歴、喫煙有無の部分のバラツキがあります。 しかし結果的に虚血性持続勃起症は、鎌状赤血球症の患者での発生率が高いことが分かります。

鎌状赤血球症を有する群は平均年齢が若めでした。これは鎌状赤血球症が遺伝的素因を持っていることを物語っているといってもいいのかもしれません。

実際に、鎌状赤血球症(SCD) 患者の持続勃起症は早くて 2 歳で経験しているという報告もあり、遺伝的な部分が見えてくるのではないでしょうか?(6)

この様に疫学的研究は、地域社会や特定の人間集団(今回で言えば鎌状赤血球症の患者)を対象として、健康に関する事象(今回は勃起不全)の頻度や分布を調査して、要因を明らかにするのに役立ちます。 

とても便利ですね✨

参考:

1.Mediterr J Hematol Infect Dis. 2012;4(1):e2012065. PMID: 23170194
2.BMC Infect Dis. 2020 Jan 14;20(1):40.PMID: 31937250
3.  Yale J Biol Med. 2001 May-Jun;74(3):179-84. PMID: 11501714
4. Herrick JB. Arch Int Med 6:517-521, 1910 doi:10.1001/archinte.1910.00050330050003
5. J Sex Med. 2015 Mar;12(3):713-9. PMID: 25572153
6. Einstein (Sao Paulo). 2020 Apr 22;18:eAO5070.PMID: 32321079


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