【供養】 2022年度年間ベスト100 : The 100 Best Album & EP Of 2022 + α

2023年8月8日 17:56

今年も悲しいことに「供養」の季節がやってきてしまいました。一年近く前の話ではありますが、昨年末、レイアウトを済ませつつも、諸々のライター仕事と書籍の編集と本業と持病の悪化が重なり、余裕がなく途中まで書いてお蔵入りさせてしまった幻の2022年の年間ベスト記事を「供養」として公開します。

21年のベスト記事も「供養」していた中で、またしても書き切れなかったという...ただ、去年も尋常じゃない数の新譜を買った（多分カセットだけでも200本は買ったはずだ）から、埋もれさせれるわけにはいきませんでした。

流石に1年を超えると風化しそうだなと、勿体なく感じて、リンクだけは埋め込みを済ませて、公開できる状態にしました。半年以上経って眺めてみると、オブスキュアなアニソンを通過したのち、ブレイクコアやシューゲイザーと邂逅もしくは再会し、「遠泳音楽」を提唱して以降の自分の音楽観の変遷を辿る上でも貴重なラインナップになったなと感じています。

ジャケットとリンクだけ（数枚分だけレビュー付き）ではありますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

（アルバム・タイトルをクリックすると作品リンクに飛びます。）

100.
cat & town
by Nekomachi
(Eating Music)

昨年、リリースをお手伝いしたTwoth氏やKath BloomやAsuna、Killer Bongといった実験的な作家を多く送り出している東京のレーベル〈Powershovel Audio〉にも作品を残す名古屋の音楽家／DJで、先鋭的なヴェニュー〈space rita〉の店長を5年間務めたことも知られる藤城雄一郎氏のソロ・プロジェクト「猫町」のアルバム。2018年のニューエイジ傑作『Nothing Nil』がバズったKnophaを擁する上海の〈Eating Music〉からの作品ということで目に付いた。僕のツイッターの「猫街まろん」という名前は、ZAZEN BOYSとはっぴいえんどから来ているが、「猫町」というネーミングには、強いシンパシーを覚えざるを得なかった。『猫と町』という表題を見ても、吉村弘や広瀬豊といった日本の環境音楽、アンビエントへの目配せが感じられるが、より深い音楽的なルーツは、00年代的なエレクトロニカにもありそう。日本の環境音楽を想起させる、柔らかなミニマリズムと、風流な引きの美しさとが溶け合う、青々とした夏の日の望郷音楽。

99.
Next Time Could Be Your Last Time
by Forgiveness
(Gondwana Records)

今年のベスト・レーベルの一角にも挙げるべきであろう現代ジャズの大名門、マンチェスターの〈Gondwana Records〉。いまさら、僕が言うまでもないのかもしれないが、主宰者のトランペット奏者、Matthew Halsallを始め、Portico Quartet、Mammal Hands、Hania Raniなど、その在籍アクトには聴きどころしかなく、まさに「聖地」と称すべきレーベルだ。本作は、同レーベルでも貴重なニューエイジ作品。Portico Quartet、Paradise CinemaのJack Wyllie、〈Lo Recordings〉にも在籍するJQらが参加した豪華なグループのデビュー・アルバム。Sam GendelやJoseph Shabason、昨今の〈Moon Glyph〉作品などに代表されるアンビエント・ジャズというよりは、モダン・クラシカル寄りなニューエイジというテイストながら、"Glasswing"の様な第四世界風の楽曲も織り交ぜられており、アンビエン・ジャズ好きも必聴。イマジナリーにして幻想的な奥地感が香る、柔らかな音風景が魅惑的。幾重にも折り重なる宇宙的なシンセスケープの中で忘我の果てに至る瞬間が多々。まさに瞑想のための音楽。

98.
Whatever The Weather
by Whatever The Weather
(Ghostly International)

レジェンド= Squarepusherにもその才能を認められた人物ということで要注意。2015年より活動を開始、名門〈Hyperdub〉からの作品群で頭角を現した英国の女性電子音楽家、Loraine James。昨年度発表したこの本名名義での最新作（Arthur Russellらと仕事を共にした黒人作曲家Julius Eastmanの作品を再構築した、アンビエント・ゴスペル的内容）と並んで素晴らしかった彼女のアルバムが、そのアンビエント・プロジェクト、Whatever The Weatherによる22年度話題のデビュー作。グリッチ・アンビエント・テクノ化したKara-Lis Coverdale（Tim Heckerのコラボレーダーとしても知られる女性鍵盤奏者）とでも評したい即興のシンセラインと声の実験が特徴的。曲名に気温が配されているのも興味深い。アートワーク通りの景色を想起させる、寂しく虚ろに移ろい続ける、荒涼として広大なサウンドスケープは、ロックダウンで無人化したコロナ禍の都心部の景色ともどこか重なる。

97.
Watarase Joe Claussell Remix
by Fumio Itabashi / Henrik Schwarz / Kuniyuki
(Studio Mule)

本邦のダンス／エレクトロニック・シーンを長年に渡り牽引し続けてきた名門〈Mule Musiq〉のサブ・レーベル〈Studio Mule〉からの秀逸なタイトル。ワールドワイドにその支持者を増やし続ける栃木県足利市出身のジャズ・ピアニスト、板橋文夫の傑作『渡良瀬』。Henrik SchwarzとKuniyukiによるリワークを、さらにJoe Claussellが再構築したヴァージョンをA面、板橋文夫が地元のオーケストラや民謡歌手と共に演奏したライブ盤（レコード化が待望されていた貴重な民謡バージョン！）をB面に収録。日本のディープ・ハウスの聖地と言えば、〈Mule Musiq〉と言っても過言ではないだけあり、その人脈と卓越したダンス観を最大限に注ぎ込んだA面、史料的にも貴重な録音と言えそうなB面共に、それぞれがスピリチュアル・ジャズの1つの究極といえる域に達した、タイムレスで破格の内容。

96.
Dublin
by Dublin
(wherethetimegoes)

NashpaintsやFrog Of Earth、Odd Nedといったカルト的な面々を送り出し、昨今、徐々に地下人気を高めつつある特異点的なアイルランドのレーベル〈wherethetimegoes〉。昨年ここが送り出した最高の作品である本作に言及している人は少ないのではないか。インフォメーション困りな本作は、その内容や制作意図についてはほとんど情報もなく、Dublinによってダブリンで書かれ、演奏され、録音されたということ、（重要だが）やたら尖った作品ばかり手掛けるカルト・エンジニアのThe Bastardがマスタリングを担当したことしか分からない。その内容は、Dubient以降の屈折的な電子即興と、ジョン・ハッセルの第四世界アンビエント・ジャズの異形の邂逅と言える稀有な仕上がりで、まさにエポックメイキング、発明と言うべきだ。極わずか限定部数のCDしかリリースされなかったというのがとても惜しい。

95.
Orientalism ツ
by DJ Synthesizer
(Not On Label)

バンドキャンプの新着テープを上から全部見ていた時に見かけた、このジャケ、作家名、アルバム・タイトル。それはもう、その全てが狂おしく、まさに完璧な黄金比をなしていたとしかいえず、即購入した。東京で活動、ローファイ・ヒップホップやアンビエントのアルバムを制作しているプロデューサー、DJのYosuke Kakegawaの変名DJ Synthesizerによるカセット作品。昨年4月から8月にかけて、発表していた、回帰的なオリエンタリズムにインスパイアされたシングル楽曲5曲をコンパイルし、ボーナス・トラックを追加収録してカセット化したもの。伸び切った拾い物のフィルムを現像して立ち現れた朧げな景色を揺蕩うような、異界どこかノスタルジアを纏った、可憐で風雅なチルアウト・ビート・ミュージック。

94.
Tawamure
by Suemori
(Modern Obscure Music)

現行エクスペリンタル界屈指のカルト・レーベル〈Youth〉や〈ESP Institute〉から秀逸な作品を発表。かつては『パンティ＆ストッキング』のオリジナル・サウンドトラック（傑作！）にも参加した異色の経歴を持つだけでなく、「和のNurse With Wound」ことコラージュの名手= Sugai Kenとも対比される存在、Hoshina Anniversary。2021年に新始動した”Suemori”名義でのニュー・アルバム。版元は、坂本龍一やHieroglyphic Being、Lyra Pramuk、Visible Cloaksといった先鋭的な面々が名を連ねるバルセロナの〈Modern Obscure Music〉。オブスキュアにこそ求めてやまない「むこう側」の絶景と、混沌とした陰鬱な情景が、豊かな質感の中で同居する大変秀逸なエレクトロアコースティック作品。