はね木搾り(天秤搾り)を採用している6蔵とはどこなのか → (訂正)7蔵ありました → (追記)6蔵に減りました
(2021/11/6 追記)
7月に公開したこちらの記事ですが、新しく分かったことがあり追記しました。
実ははね木搾りを採用している酒蔵が、当初記事に記載していた6蔵に加えてもう1蔵あることが分かりましたので追記しました。これで採用蔵は合計7蔵、ということになります。
あわせて、今回7蔵目を発見した背景である海外SAKE蔵でのはね木搾り採用例についても追記しました。
(2022/6/11 追記)
花の香酒造(熊本県玉名郡)様ははね木搾りでの上槽を終えられたそうです。現在は蔵内に、直近まではね木搾りに使用していた設備が展示されているとのことです。その旨、本文中にも追記しました。これにより、はね木搾りを行っている蔵は全国で6蔵(わかっている範囲で)ということになりました。
「はね木搾り」。「はね木」と呼ばれる、ながーーーい木の棒を使って、梃子の原理でお酒を搾る方法で、「天秤搾り」とも呼ばれています。
京都府の嵯峨遺跡には、1300年代中頃以降に創業したとみられる酒造り施設の遺構に、この方法での搾り機と断定された跡があり、現在も使われているなかでは最古の上槽(搾り)方法と言って良いと思います。
(以上参考、および以下画像出典:Sankei Biz 2019年11月21日記事「最古の天秤式酒搾り遺構を確認 京都・嵯峨遺跡」(2021年7月18日閲覧))
(はね木搾りに使われた柱とそれを支える横木&石、と断定された遺構。)
さてこの方法、現在も使われているのですが非常に珍しく、全国に6蔵ほどしかない、とされています。
(2021/11/6 追記) あくまでも6蔵「ほど」と書いてはいたのですが、7蔵目が見つかりました。以下の記載では、「7蔵」と修正させていただきます。
日本酒の伝統製法“はねぎ搾り”は、酒蔵 吉田屋を含め、全国で6箇所しか採用していないと言います。その理由は、あまりにも非効率・非生産的で現代的な手法ではないからです。
(出典:合資会社吉田屋ホームページ、以下にリンクを掲載)
この6蔵(ほど)がいったいどこなのか、インターネット上でまとまっている情報を見つけられなかったので、この記事でまとめてみたいと思います。
なお、先ほど引用した吉田屋さんによる記述の通り、はね木搾りは生産効率で見ると他の方法に劣ってしまいます。そのため、以下に掲載している7つの酒蔵も、全ての酒をはね木搾りで搾っているとは限らない点にはご注意ください。
ちなみにこの方法が非常に珍しいことから「全国で唯一」とか「すべての酒をこの方法で搾るのはここだけ」とか、酒蔵の人が言ったわけではなく、周りの人が勝手にそう言ってしまうケースがあるようなのですが、いずれも誤りです。少なくとも7蔵で採用されていますし、うち少なくとも3蔵が全量この方法で搾っています(鑑評会出品用酒の袋吊りなど、少量の例外はあるにしても)。
1:「不老泉」 上原酒造 (滋賀県高島市)
滋賀県にあり、山廃造りや酵母無添加による奥深く力強い味わいで人気を得ている酒蔵です。「不老泉」は僕も大好きなお酒ですし、僕の2つの勤務先はどちらもこのお酒を扱っています。
こちらは訪問して実際にはね木搾りの設備を見せていただいたことがあります。全ての酒をはね木搾りで搾っています。
上原酒造さんに掲示されている、はね木搾りの解説図です。天秤式の機構が分かりやすいですね。
実際の「はね木」です。がっしりとした、ながーーーい木材。写真では分かりにくいですが太さも相当あり、今ではこんな木材を確保するのも難しいのだろうなと思います。
上原酒造さんには2台の搾り機がありますが、1台の天秤部分には木ではなく鉄骨が使われています。この鉄骨が、搾り作業を経てたわむ形で曲がっていることからも、それに長年耐えている木材の頑丈さが分かります。
実際にお酒の入った袋に圧をかけている部分(梃子の「作用点」)です。
酒袋の上に積み重ねられた木材があり、これを通じて圧力がかけられています。
見学した日は実際に搾り作業が行われていたのですが、本当にゆっくりゆっくりと、お酒が滴り落ちてきていました。
梃子の「力点」部分にある、重りとして使われている石です。ものすごい大きさです。これを見ると、より効率的な上槽方法である佐瀬式の槽搾りやヤブタのすごさも視覚的に分かりますよね。。。
2:「都美人」 都美人酒造(兵庫県南あわじ市)
淡路島にある酒蔵です。杜氏を務める山内さんは、伝説的能登杜氏・農口氏の教えを受けたうちの一人です。能登仕込みの正統派な山廃のお酒もさることながら、夏季にぴったりなさわやかな酸味の「Rafale」や、低アルコールで甘酸っぱくも上品な味わいの「Miracle Rose」など、個性的・現代的な味わいのお酒も人気です。
こちらも訪問したことがあるのですがその時は、はね木搾りの設備は見ませんでした。ヤブタの搾り機(現在最も広く使われている、機械式のもの)も備えているため、そちらで搾っているお酒が多いはずです。
3:「名刀正宗」 田中酒造場(兵庫県姫路市)
「名刀正宗」「白鷺の城」を醸す、姫路市の酒蔵さんです。はね木搾りはしばらく行われていなかったそうですが、蔵に道具が残っていたことから平成12年に復活させたそうです。
実際の搾りの様子は、以下のリンク先で紹介されています。
4:「田中六五」 白糸酒造(福岡県糸島市)
「田中六五」は、おそらく今回紹介する7蔵のお酒の中で一番有名な銘柄なのではないでしょうか。こちらの酒蔵さんも全ての酒をはね木搾りで搾っているそうです。「田中六五」は知っていても、「はね木搾り」は知らないという方が多いかもしれません。
実際の搾りの様子は、以下のリンク先で紹介されています。
5:「萬勝」 吉田屋(長崎県南島原市)
吉田屋さんはホームページ等でも「はねぎ搾りの酒蔵」を自称しており、7蔵の中でも最もこの搾り方法をプッシュしているように感じます。
(以下のリンクは、記事冒頭あたりで掲載したものと同じです。)
Instagramでも酒造りなどの様子を積極的に発信されているので、お酒造りについて勉強したい方はフォローするのもおすすめです。冬季には、はね木搾りの写真を見ることもできます。
廃止:「花の香」 花の香酒造(熊本県玉名郡)
「花の香」も、はせがわ酒店さんでの取り扱いがあったり、海外コンテストの受賞もされたりしていることで最近有名になってきていると思います。
あまり発信はされていないように感じますが実は、はね木搾りを用いている酒蔵さん(以下2022/6/11追記)・・・だったのですが、ブランドリニューアルのタイミングに合わせて、はね木搾りは廃止。現在は蔵内に直近まではね木搾りに使用していた設備が展示されているそうです。(追記終わり)
※リンク先下部の沿革部分、「2015年」のところに関連する記述があります。
(追記)6:「鏡山」小江戸鏡山酒造(埼玉県川越市)
記事公開後に見つけてしまった7蔵目です。(2022/6/9追記:花の香酒造さんのはね木搾り終了に伴い6蔵目になりました。)
僕の勤務先である地酒屋こだまでも扱っている「鏡山」を醸す小江戸鏡山酒造さんでも、一部はね木搾りが採用されていることが分かりました。(扱いのあるお酒なのに、知らずに漏らしてしまったという失態……!)
1〜6例目はすべて西日本の酒蔵でしたので、「東日本唯一のはね木搾り」かもしれません。(他に採用例をご存知の方がいたら、教えてください!!)
小江戸鏡山酒造さんには搾り用の槽が2つあり、うち1つがはね木搾りの方式になっているようです。
搾りの様子は、こちらの記事で紹介されています。
かなり小型の槽ですね。天秤の木や、重りのサイズもほかの例に比べるとかわいい感じになっています。
(追記)番外編: 海外SAKE蔵
こちらも追記した内容です。
今回、小江戸鏡山酒造の搾り機に関する情報を発見したのは「海外でははね木搾りを使うことがある」と聞いて、それについて調べている中でのことでした。
例1:Den Sake Brewery(アメリカ・オークランド)
例2:Artisan SakeMaker(カナダ・バンクーバー)
鏡山の例と似た感じがしますよね。原始的な作りの機械だけに、日本式の搾り機を導入することが難しい海外SAKE蔵で採用例が増えているのは興味深く感じました。
情報をお寄せいただいた春日井さん、木村さん、ありがとうございました!!🙏
まとめ
以上、はね木搾りを採用する6蔵についてまとめてみました。6蔵のうち5蔵は西日本にあり、その中でも近畿地方と九州地方に集中しています。
この背景なんかも、分かってくると面白そうだな〜と感じています。該当する地域を訪れたら、詳しい人にお話を聞いてみたいですね!
重りをつける重労働の存在や、搾るのに長い時間がかかること、圧力が弱くお酒を最後まで搾り切ることができないこと、を考えると、生産効率は控えめに言って良くありません。
それでもこの方法を採用するメリットとしては
(1)ゆっくり搾ることによって、味がまろやかになる
(2)圧をかけすぎないことで、クリアな味になる
(3)伝統的な製法である(その継承自体に価値があり、PRへの活用も可能)
という3点が各蔵からは挙げられています。特に、田中酒造場さんがはね木搾りを平成12年に復活させたように、(3)の理由が現代では評価されるようになってきているのは嬉しい点ですね。
最後に、この方法を採用している酒蔵さんは6蔵「ほど」と言われています。上記の7蔵以外にも存在をご存知の方がいたら、ぜひ教えていただけると嬉しいです!
(2021/11/6 追記)
当初6蔵を調べた結果を記事にまとめていましたが、その後すぐに7蔵目が見つかりました!
もしかしたら・・・というより、けっこう高い確率で、ほかにもあるような気がしています。ご存知のところ、もしかしたらそうかも、というところがあればぜひ、教えてください!!!