[酒スト編集後記]酒造組合中央会取材 -公益団体の情報公開制度とそのメリット-
昨日公開した記事です。
中央会は素晴らしい活動をしていますし、素晴らしい方々も所属されています。
しかしそれでも、日本酒の未来は中央会だけでは担えないのではないか・・・ということを書いています。ぜひご一読ください。
さて、記事中で触れている以下の内容について、こちらのnoteでもう少し詳しく書いてみたいと思います。
(別の機会に詳しく触れますが、税制優遇・補助金交付を受ける公益法人でありながら、上記のような意思決定方法を定める「定款」や、記事前半で紹介した多様な活動を示す「事業計画書」「事業報告書」が公開されていないことも、中央会の役割が業界内外に理解されにくい一因になっているように感じます。)
「公益法人」って?
記事中にもある通り、日本酒造組合中央会は法人税法の分類上、「公益法人等」にあたります。
公益法人は、営利目的の活動を行わず公共の利益のために活動することから税金の免除・軽減などの優遇措置がとられています。
たとえばNPO法人や医療法人なども「公益法人等」にあたる法人格です。
出典:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/koekihojin/pdf/01.pdf
一方、税制優遇の根拠となる公益性を担保する観点から、情報公開においては厳しい基準が設けられています。
出典:https://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koueki-bappon/yushiki/dai15/15siryou2.pdf
たとえばNPO法人の場合には定款や事業計画書・事業報告書の開示が義務付けられており、罰則規定もあります。以下のリンクのような形ですね。
(必ずしもインターネット上の公開が義務付けられているわけではありませんが、多くのNPO法人は公式サイト上で情報公開を行っています。)
公益法人の場合にも、罰則規定はないものの、事業計画書や事業報告書、定款の公開が義務付けられており、開示方法は「主たる事務所・所轄官庁での閲覧」のほか「(所轄官庁から)HPでの公開を要請」となっています。
他の業界団体の法人格は?
通常、業界団体は「任意団体」、あるいは「一般社団法人」「一般財団法人」として設立することが多いようです。「任意団体」というのは法人格を持たないグループのようなものです(町内会とかもこの形態ですね)。
「一般社団法人」「一般財団法人」は、営利目的の企業でこそないものの、税務上は株式会社や合同会社等とほぼ同じように扱われます。
公益法人の形態をとるのは、業界団体としては珍しいと言えます。
なぜかというと通常、業界団体というのは営利活動を行う企業の集合体であって、会員となる企業の利益のために活動する団体なので、「公益性」があるとは判断されにくいからでしょう。
日本酒に関しては、主食である米、あるいは税金が関わるからじゃないの?と思われるかもしれません。
しかし例えば同じように税金が関わるたばこ産業に関しては「日本たばこ協会」という業界団体がありますが、こちらは1987年に任意団体として設立され、1990年に一般社団法人になっています。
米に関しては、確かに「農業協同組合連合会(JA全農)」が公益法人にあたりますが、「全国農業協同組合中央会(JA全中)」は一般社団法人であり、その他の下部組織も公益法人には含まれていません。(一概に比較はできませんが、酒造組合中央会と類似の役割を果たしているのは、どちらかといえばJA全中側であると、僕は認識しています。)
また米に並ぶ主食であり、今でも政府による価格統制の行われている小麦粉産業の業界団体「製粉協会」は任意団体です。
上記の例から税金、あるいは主食が関わった程度では、業界団体が公益法人と見做されることはない、というのはご理解いただけるんじゃないかなと思います。
公益法人の情報公開体制
先ほど見たように公益法人の情報公開に関しては、事業計画書や事業報告書、定款の公開が義務付けられており、所轄官庁からHPでの公開が要請されています。酒造組合中央会のホームページを見てみると、以下のようになっています。(一つ目のリンクは団体概要、もう一つのリンクは財務状況)
事業計画書、事業報告書、定款などは見当たりません。
中央会と同様に公益法人として登録されている業界団体のホームページも見てみましょう。
たとえば証券業協会のホームページでは、事業計画書/報告書という体裁での開示はないものの、各種会議体の議事要旨を含む活動内容が詳しく掲載されています。定款ももちろん公開されています。
地方競馬全国協会のホームページにも定款や事業計画書/報告書にとどまらず様々な資料が公開されています。財務情報に関しては詳細な財務諸表が公開されています。
ここまで見ていただくと、「中央会は、公益法人としてはホームページでの開示情報が客観的に見て少ない」と言えることがお分かりいただけたかと思います。
なぜ僕はこんなことを指摘してるのか?
僕がなぜこんなことをつらつらと書いているのか、なのですが何も「法律の定めや、官庁からの要請にも関わらず情報開示が少ない!けしからん!!」みたいな、つまらないことを言いたいわけではないんです。
もちろん、法律の定めや官庁の要請を守ることは重要です。でもそれだけのために、手間のかかる開示作業に人員や予算を割くのはもったいない。情報開示は、コミュニケーションツールなんです。
今回の取材を通して感じたのは、「中央会の活動内容や意図は社会に伝わっていないし、社会の声も中央会に十分伝わっていない」ということでした。リンクをもう1回貼りますが、今回の記事の前半部分に書かれていること。中央会でこんなにいろいろ考えて活動しているって、皆さんご存知でしたか?僕は不勉強ながら一部しか知りませんでした。
そして今回、個人的に一番残念に感じたのは、全国紙等での報道にも関わらず新規免許の解禁を望む声が伝わっていない、ということでした。
どんな活動をしているか詳しく公開して発信することで、自然と社会から活動に対する賛否の声が寄せられるようになるし、そうすると開示内容や活動内容も社会の声を意識したものになっていくのだと思います。
記事中では未来志向の団体も必要ではないか、ということを書かせていただきましたが、中央会の役割も依然重要であり続けると思っています。大好きな業界だからこそ、広くコミュニケーションが取れるような体制になってほしい、と願っています。