ゆき
顎の下に触れると、その毛は頼りないほどやわらかい。ゴロゴロというよりも、トクトク、といったやさしく小さな音で喉を鳴らして応えた。
「ゆきちゃんに似てる、ゆきちゃん」
猫は私の足元へ寄り添い、三つ指をつくように座った。三毛だから、メス猫なのだろう。小さい頭部に、緑色のつり目が透き通っている。姿かたちもだが、自立したひとのような態度がかつて飼っていた愛猫によく似ていた。ゆきは白猫だった。
御茶ノ水に保護猫カフェがあると聞いておとずれた。人懐っこい個体が多かった。甘えたがりな猫が私の額に額を擦り付け、抱っこをせがむ。猫の額。フニャフニャと柔らかいのも、どっしりと重たいのもあった。
壁には猫の写真が名前とともに貼られている。三毛猫の名前を見ると「ゆき」と書かれているので驚いた。まさか同じ名前とは思わない。
ゆきちゃんだね、と頭を撫で、頬のわきを撫でた。猫は目を細める。部屋を出て振り返ったとき、ゆきはやはり扉の向こうで三つ指をついていた。ひとつも鳴かず、ただこちらをまっすぐ見つめ、佇むように座っていた。
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