小禄墓(おろくばか)
沖縄県宜野湾市嘉数(かかず)にある高台の断崖中腹にある。比良良川公園の遊歩道から比良良川を横目に見ながら徒歩5分程度で到着する。
比良良川の遊歩道を歩くが、昼なのに誰もいない。崖面には所々に穴が開いており明らかに岩陰を利用した、あるいは断崖を穿った墓であることが分かる。昼なお暗く周辺は墓地である。時折冷たい風が頬を横切る。これが冷気であり霊気なのだろうか。こちらの意図は心霊スポット見学ではないので見学に集中することにした。
崖面に切石を積み上げた墓が見えた。小禄墓である。石材は当然ながら琉球石灰岩であり古式の墓らしいが、これだけではよく分からない。しかし遊歩道から約2mほど登った地点であるので崖面の中腹なのであろうか。
周辺には崖面に穴が穿たれている。明らかに墓である。小禄墓と異なるのは前面が石材で塞がれていない点である。本来はこのような崖面で「風葬」がなされたのであろう。実際にある一基を見学すると灰白色を呈した灰(おそらく骨灰であろうか)に骨片が散乱していた。(合掌)
小禄墓には石厨子が安置されていた。石厨子は輝緑岩製(中国福建省産)でそれには「弘治七(1494年)おろく大やくもい六月吉日」と記されていた。現存する沖縄最古の平かな資料であるという。小禄墓と命名された所以である。
いずれにしても中国産の石厨子が安置された墓である点、他の墓とは格段に異なる上層階級の人物墓であることは言うまでもない。この墓も残念ながら内部は見学できないが、石厨子の他、多くの厨子甕が安置されていたに違いない。当然のことであるが周辺は”死者の谷”である。しかし少なくともこの地域に葬られた人々は一般民衆のそれではなく、遥かに高い地位で生活していた人々であった。もし霊魂が存在するなら、この地に葬られた人たちの霊魂はいずれの方も、高く高く昇天されているに違いない。見学後、帰路にたつ背中に感じたのは、爽やかさと暖かな霊魂であった。