石室における高さの意味?~大阪府下最大の横穴式石室・河内愛宕塚古墳~
地元に戻り、十数年ぶりに訪れた古墳である。大阪府八尾市神立(こうだち)に所在する大阪府指定史跡の愛宕塚古墳である。因みに愛宕塚古墳という名称は全国に数例あるので混乱をさけるために、前に周辺地名を記して表記する場合が多い。当古墳の場合、神立愛宕塚古墳とは言わず、地域を代表する古墳であることから河内愛宕塚古墳と呼んでいるが、正式名称でないことをお断りしておく。
古墳は近鉄服部川駅より北東へ斜面を登ること約30分の場所にあるが、周辺は草木に覆われ大変見つけにくい。あまり知られていない古墳であるが、実は横穴式石室の玄室規模が長さ7.0m×幅2.5m×高さ3.9~4.2mを測る。大阪府下でも最大級の横穴式石室をもつ古墳なのである。
石室は昼間でも中は冷蔵庫のようだ。入口には鉄格子がされていたが、戸を開けることなく横から容易に入室できた。とにかく石材が異常に大きい。全長2m以上の巨石が組まれている。まず入口から羨道という通路に入るが、その左右の石材だけでも凄い!山中から転がしてきたのであろうが、どれくらいの人達が何日かかって造ったのだろうか?
玄室の奥から開口部に向かって写真を撮る。何と前の壁部分は巨石が1石である。玄室の前部分はこの1石で天井石を支えていることになる。巨石は左右に下段3石で2段に天井に向かって垂直に積まれており、圧迫感は全くない。何より、天井までが高い。見上げて首が痛くなる程だ。床面から測って約4.0mはある。異常な高さ、空間である。
上記写真は奈良県明日香村の石舞台古墳であるが、玄室の高さは約4.7mを測るという。愛宕塚古墳よりも0.7mも高いが、石舞台古墳は全国の横穴式石室のなかでも最大であることを考えると、愛宕塚古墳の石室の高さは全国上位レベルであることがわかる。そこでテーマの高さである。横穴式石室の玄室がなぜこのように高いのか?高くなる必要があるのか?という問いである。当時の人の身長を概ね1.6mと仮定し、その倍をとって3.2m、まず3mもあれば充分に余裕をもった空間が確保できる。しかし、さらなる高さを追求した背景は何か?結論として、黄泉の国、つまり魂が浮遊する空間を可能な限りひろく作ることで被葬者の再生復活を願ったのではないだろうか。これだけの巨大な墓である。首長クラスの豪族が葬られていることは間違いない。また石室の中でのセレモニーに参加できる人物も限られていたであろう。(当然、一般民衆は見ることはできない。)玄室内は真っ暗である。松明をもつ人物がいて、納棺された主の最期の儀礼が執り行われる。それでも天井は高くて見えない。そこは漆黒の闇すなわち黄泉の国という舞台である。そして遺体は木棺ではなく石棺に入れられ厳重に埋葬された。遺体が腐らない限り、魂が戻る場所となり再生復活を遂げることができると信じられていた。こんなストーリーを玄室のなかで一人想像していた。墓の主は、当時河内を治めていた大豪族の物部氏。さらに言えば被葬者は物部尾輿、葬儀委員長は息子の物部守屋大連、その人であろう。想像が創造となった一日であった。