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夏休みの図書室
「しかし、今日も暑いなあ〜」と言いながら、グランドを横切って図書館へ向かう。あっ、おれ陽介、この学校のラグビー部2年、勉強はいつも赤点ギリギリ、ラグビー中心の生活を送っていた。
そんな俺がなぜ図書館にとなるが、先週の試合で膝の靭帯を痛めてしまった。歩くことも難しい状態で、もちろんラグビーどころではない。図書館の窓からはグランドが一望できて、室内はクーラー完備、環境最高!今日も本棚から読まない本を数冊選んで窓際の席につく。窓にかぶりつきの状態でグランドを見て、「あっ!」とか「うっ」とか小さい声で叫んでいた。
そんな夏休みの図書館で、「ここ空いてますか?」と女の子の声、顔を上げて「うん」とは答えたが・・、夏休みで学校に来る人も少ない図書館はガラガラ、「他にもいっぱい空いてるやん」と心の声。。彼女は俺の前の席に座って「ドフトエフスキー」を読みだした。ラグビーに夢中のふりをして無関心を装っていたが、こちらも花の16歳、気にならないはずはない。時々、気づかれないようにそ〜と横目で彼女の方を見てみるが、彼女は“ドフトエフスキー”に夢中だったように見えた。
夏休み中、毎日、俺は図書館からグランドを見て、相変わらず小さな声で叫んでいる、前の席には彼女がいる。勇気を出して「おはよう」とか「今日も暑いねー」の第一段階に入る。そこから「何読んでるの、おもしろい?」の第二段階、「ジュース飲む?」の第三段階を経て、「一緒に帰る?」の卒検段階までこぎつけた時は、お盆も過ぎて夏休みも終わろうとしていた。
その頃には、ラグビー部を見に来ているはずの図書館が、“彼女に会うための図書館”に変わっていた。16歳にして初めてやってきたフアフア感に戸惑いつつも、楽しかった。
新学期まであと1週間となった日。今日は彼女が来ていない、いつもの図書館のいつもの席、ピースが1つ足りてない。あんなに毎日、一緒にいたから、いなくなると、そこに絶対あるはずのものがないという不安感。しかも、いつしか彼女のことが好きになっている俺・・・
一日が終わりそうな時、不意に彼女がやってきた。笑顔で「ここ空いてますか?」と彼女、「うん」と俺。。夕焼けがきれいな日だったなあ~
「私、転校するんです」と唐突に彼女が、「えっ!」・・・「今日でサヨナラです」「これ」と、ラグビーボールの栞をくれた。。「今日までありがとう、校門でお父さんが待ってるから、バイバイ」・・何も言えなかった、動けなかった、ただ黙っていた。時間が止まってるような感覚の中で、夕焼けの美しさが目にしみるようだった。
あれから5年、大学の図書館でドフトエフスキーにラグビーボールの栞をはさむ俺、夕焼けがきれいな日の3点はセットは完成できるけど、最後のピースだけが揃わない…
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