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マダミスを再定義する:ジャンル拡張宣言

本Noteではこれまで、マダミスを「犯人探しのゲーム」だと定義づけてきました。この定義自体はほとんどの既存作品にうまく当てはまっていますし、これからも相当し続けるでしょう。
しかし約5年の時の流れの中でマダミス作品は多様化し、マダミス市場は拡大し、派生ジャンルも生まれています。
そしてこれからの5年を見据えると、「マダミス」を再定義すべき時期に差しかかっています。

具体的に新たなマダミスの定義として提唱するのは
「各プレイヤーが登場人物の1人となって行動し、物語を体験するエンターテイメント」
です。

分解して解説します。
各プレイヤーが登場人物の1人となる:従来の定義と変わっていません。これまで自明だったため省略していましたが、定義を拡張したことでプレイヤーが登場人物の1人にならないエンターテイメントと区別するために明文化しました。
行動する:プレイヤーが主体的なアクションを起こし、物語に影響を与えることを意味しています。プレイヤーの選択や決断によって作品に対してインタラクティブな作用があります。逆の例として演劇のキャストをプレイヤーが演じる場合、アドリブはあるかもしれませんが物語を変えるような選択はできないので、この定義ではカバーされません。
物語を体験する:今回の再定義で最も大きな変更点です。「犯人探し」が従来のマダミスの本質でしたが、新たな定義では「物語体験」が主意です。
エンターテイメント:競合や勝敗がないゲーム以外の体験も含むために変更しました。

この定義には従来の定義も含まれています。新解釈の中で特に「犯人探しを主としたゲーム」という部分集合が既存マダミスになります。さらにいえばストーリープレイング(ストプレ)やLARPをはじめとする体験型エンターテイメントも包含しています。
つまりこれまでの定義をより拡張した概念になっています。

従来のマダミスと体験型エンタメの分類
再定義による体験型エンタメの分類

ではなぜこの期に及んで定義を拡張させるのか――端的にいえば「ヒトはシニフィアンがなければ認識できないから」です。

マダミスがアナログゲームへ一定の影響を与えたことで、ストプレのような派生のエンターテイメントが生まれ、LARPも活性化しましたし、ジャンルが判然としない体験コンテンツも登場しています。
またマダミスの中でも犯人探しという枠に収まらない"マダミス風"の作品がいくつもリリースされています。
従来の定義では物語体験エンターテイメントは「マダミス」から外れていますが、総称する適切なジャンル名はこれまでありませんでした。
あえていえば「LARP」が合致しますが、LARPという言葉はマダミス以上に普及していませんし(たとえばGoogleの検索結果でマーダーミステリーは260万件ですが、LARPは40万件です)、アクロニムゆえに単語から内容を想像しがたいです。

今後、従来の犯人探しの枠に収まらない物語体験エンターテイメントが主流になっていくことは間違いありません。
推理や競合が苦手な人でもプレイできますし、提供できる体験(作品)の幅もぐっと広がります。
まさに中国のマダミス市場が広がったのは犯人探し以外の体験型エンターテイメントに依るところが大きく、いまや主流は犯人探し以外です。
日本で人気のゲームジャンルは数十年にわたってRPGが不動の1位です。またMMORPG業界ではPvPよりもPvEが好まれているのは広く知られており、日本では競合よりも協力や物語体験が好まれています。

いまのマダミス人口は5万人程度です(参考までにTRPG人口は10万人、脱出ゲームは500万人、観劇人口は1100万人、カラオケ人口は3200万人、デジタルゲーム人口は5400万人です)。これは業界を形成しているとすら言い難い人口ですが、一方でまだまだ市場が広がっていく潜在性があるとも言えます。
これから新たなプレイヤーが激増するとなると、マダミスやTRPGといったアナログゲームやその文化、文脈をまったく知らない人たちが参入します。
そうした新規層に向けては、従来のマダミスとストプレ、LARPを区別することよりも、そもそも物語体験エンターテイメント全体の存在を認知してもらうことが重要です。
繰り返しになりますが、ヒトは思考を言語に縛られており、シニフィアンがなければ認識できません。
そこでふさわしい語が「マダミス」であり、その再定義です。

アナログゲームのプレイ人口
さまざまなエンタメのプレイ人口

誤解を招く、ミスマッチが起きる、そもそも単語と乖離しているといった再定義への反論やリスクがあることは承知しています。
ミスマッチについては確かに取り組むべき課題ですが、業界の努力で一定は解消できるでしょう。
そして業界拡大のためには、再定義によるデメリットをメリットが上回るはずです。

物語体験エンターテイメントの興隆とプレイ人口の拡大、これらに対応するためにマダミスが意味するところを再定義する必要に迫られています。

2024年1月4日追記:みなさんのフィードバックを受けて図を修正しました


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