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オンラインマーダーミステリーの短評(第5回)

腐草館からの招待状

バランスの取れた作品で、初心者にもベテランにも薦められる良作です。
犯人探し、没入感、個人目標、推理のどの要素も高レベルにあります。各キャラクターの見せ場もあって濃淡の差もほとんどありません。

強いて改善点を挙げるならば、一般販売用にエンディングを用意してほしかったです。元々はドラマのオーディション作品なので、役者の見せ場を作るために事前にエンディングを用意しなかったのでしょう。
ただ一般人がアドリブで感動的なエンディングを作れるとは限りません。せっかく情動的な要素もある作品なので、誰がプレイしても一定以上の感動を味わえるようにすれば、いっそう作品の満足度が上がったでしょう。

マーダーミステリーの中にはエンディングがなおざりになっているものもありますが、プレイヤーにとってはエンディングも含めてゲーム体験です。
議論中の出来が良くてもエンディングが手厚くないと、作品の評価としては損をします。

躍呂奇珠杖最期のステエジ

最先端のマーダーミステリーに求められているのは「ポストミステリー」です。そして本作はポストミステリーを体現した作品で、最新作を追いかけるマーダーミステリーファンはマストプレイです。
コミカルなテイストで敬遠されるかもしれませんが、犯人探しやマーダーミステリーの三要素はきっちり揃っていますし、犯人探しのその先まで見据えられています。
ただ難点としては、犯人探しまではリニアなフィールドなのに、その先ではオープンワールドになっていてヒントもないという点です。ここは不親切すぎるので誘導を入れるべきでしょう。

「ポストミステリー」とは「犯人探しを行った上で、その後にキャラクターたちがどう行動するのか」ということです。
キャラクター視点では、犯人以外にとっては殺人事件は予想外の出来事で、本来は別の目標があるはずです。
またプレイヤー視点では、犯人探しだけでは物足りなくなったベテラン向けに新たな刺激を用意することで、マーダーミステリーが止揚できます。

デスゲームや脱出ゲームなど複合的な作品が出ていますが、それらの要素はマーダーミステリーの魅力からは外れます。
マーダーミステリーの魅力となる要素の延長上で追加できるのがポストミステリーです。
もちろんMystery Party in the Boxシリーズなど、これまでもポストミステリー的な要素のある作品はいくつもあります。
ただポストミステリーがプレイで明言されているのは本作が初のはずです。

黄昏からの手紙

小品ながらマーダーミステリーのさまざまな醍醐味をどのプレイヤーも体験できる佳作です。
ただ作者の意図をすべてプレイヤーが汲み取るには導線が心もとないです。パラダイムシフトを起こすのであれば、強調しすぎだと作者が思う強度でないとプレイヤーは実感できません。

崩えた祭壇

本格的な伝奇ミステリーで、歯ごたえのある作品です。
マーダーミステリーの没入感といえばキャラクターのエモさやロールプレイで表現する作品が多いのですが、本作は世界観が没入感を生み出しています。
そして世界観が推理の難易度にもつながっている佳作です。

sCrap the/dUo err end

3つのストーリーからなるオムニバス形式というのが斬新で、すべてをプレイし終わるときちんと1つの物語ができ上がります。
試み自体は非常に面白く、うまくまとめられています。この形式自体には魅力の可能性を感じました。
ただ全体の謎を解き明かすためにメタ視点が必要となります。プレイヤーが知っていることとキャラクターが知っていることは別のはずです。
小説のような没入感が謳い文句になっていますが、残念ながらメタ視点が没入感を阻害しています。

未申ノ刻

重厚で本格的な推理の骨太な作品で、新作マーダーミステリー大賞の奨励賞作品の改訂版です。
受賞時の講評では推理導線についてかなり厳しい指摘を受けていて、商品化にあたって一から再構築したそうですが、それでもまだ改善が足りていません。
情報カードは客観的な裏付けとヒントになりますが、その客観的な情報が不足していて、犯人探しの推理に支障を来しています。

これに輪をかけるのがブラウザを使ったシステムで、慣れないが故に戸惑いを覚えてしまいます。利便性を高めて没入感を上げたいという意図は伝わりますが、かえってプレイしづらく、没入感を阻害しています。

スパイス工場殺人事件

実際にスパイスの匂いを嗅いで推理を進めるという、ほかのマーダーミステリーには無い貴重な体験ができる作品です。
犯人探しに関しては曖昧なところがあって、納得感があるとはいえません。
また謎解き要素が含まれるという説明が公式ページにありますが、突然脱出ゲームになります。謎解きをする必然性は薄く、ゲーム全体の完成度から見れば不必要な要素です。

導かれし花嫁

犯人探しは確かに存在しているのでマーダーミステリーですが、脱出ゲームにかなり近いプレイ感覚です。没入感よりは謎解きが重視されています。それが分かった上でプレイするのであれば佳作です。
GMも一般的なマーダーミステリーよりも脱出ゲームに近いので、バランス感覚が要求されます。

マダミス同好会殺人事件

ロールプレイ要素はあまりない推理寄りの作品で、好き嫌いがはっきり分かれます。
変化球なので、たまには毛色が変わった作品をプレイしたいという人向けです。
かなり有名な推理小説がモチーフになっているので、小説のネタバレを受けたくない人はプレイ前に確認した方がよいです。

四人の探偵 第一話 呦呦と鹿は鳴く

やりたいことの意図は理解できるのですが、テストプレイ不足が否めません。
推理導線がきちんとつながっていないというのが1つ。また怪異が登場しますが、現実にない存在の理屈はプレイヤーの知識では推測できないというのが1つです。
たとえばゾンビを倒したと思っていたら、倒したはずのゾンビが動き出して襲われてしまってバッドエンドになったとします。
実は脳を破壊しないと倒せないと後から言われ、でもその情報は作中には出てこないとしたら納得できないでしょう。

探偵が4人いるというせっかくの魅力的な設定も活かしきれておらず、キャラクターの満足度の濃淡に差がありすぎます。

記憶の海とラピスラズリ

ともかく情報量が冗長すぎて犯人探しや推理といった楽しむべきポイントを阻害しています。文章面でも設定面でももっと刈り込んでシンプルにできます。
ゲームのコンセプトはなにか、それに必要不可欠な要素はなにかを精査すべきです。
作品の骨子そのものは面白いところもありますが、プレイヤーにとってもGMにとっても時間的なコストパフォーマンスが悪くて消化不良で終わってしまいます。

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