マーダーミステリーに解説が付いていないのは作者の怠慢です
投票が終わって誰かが犯人として拘束され、物語の展開に応じたエンディングが語られる……それでマーダーミステリーは終了でしょうか。
たしかに登場人物としてはそれで終わりですが、プレイヤーとしては解説を聞くところまでがその作品の一部です。
しかしいまだに解説が不十分、あるいはまったく用意されていない販売作品があります。
プレイヤー目線で見れば、そうした作品は「未完成品のまま売られている」と言っても過言ではありません。
解説が必要なのは作品の満足度を上げるためです。「何が起きていたのか」、「どうすれば解き明かせたのか」を知ることでカタルシスを感じることができます。
深みのある作品であればあるほどゲーム中にすべてを解き明かすのは難しくなっていきます。
たとえ事件の犯人であったとしても全容を把握しているわけではありません。まして犯人以外のキャラクターであれば何が起きているかよくわからないということもあるでしょう。
脱出ゲームは必ず解説があります。もしも脱出ゲームに解説がなくて失敗していたら、答えを聞けずにモヤモヤした気持ちを抱えたままになります。
マダミスで解説がないのもそれと同じです。
解説はけっしておまけ要素ではなく、プレイヤーにとってマダミス作品の重要な一部です。
たとえ目的が達成できなかったとしても、「こうすればよかった」と知ることで納得感を得ることができます(解説を聞いた上で論理的に納得できない作品は単に不出来な作品で論外です)。
マダミスは物語を体験するゲームではありますが、主題が犯人探しである以上、ミステリーの解明は不可欠です。そして推理小説と違って解き明かしてくれる探偵が不在なので、自分たちでたどり着けなかった場合は探偵の役割を果たす仕組み(=解説)が必要です。
解説には「犯人がどのように犯行を行ったのか」だけではなく、「どういった推理で犯人を絞れるのか」、「事件や登場人物の背景は何なのか」を含む必要があります。
犯人がいつ、どのように犯行を行ったのかというのは解説のスタート地点ではあっても、それだけでは不十分です(にもかかわらず、解説と称して犯人の行動のみ説明されている作品が散見されます)。
プレイヤーキャラクター全員が基本的には容疑者であり、犯人のみが犯行を可能であってほかの容疑者には不可能であることが明らかにならなければ犯人が特定できません。犯行について分かってもほかの容疑者を消せるわけではないのはいうまでもありません。
アリバイ、凶器など、犯人の特定方法は作品ごとに違っていますし、最終的に確たる証拠で1人まで絞られるかは作品のコンセプト次第です。その場合でもある程度の絞り込みはされるはずです。
納得感を高めるためには犯人の特定方法だけでなく、事件の背景まで解説されるべきです。
なぜ犯行に至ったのかという動機、そしてほかの登場人物がどういった目的を持っていたのかなどです。
推測できたとしても動機は犯人の口から語られない限りは確定できません。被害者こそが極悪人だった、犯人の勘違いから生まれた悲劇だったなど、動機を知ることで物語への没入感が高まります。
また犯人以外の登場人物もそれぞれの目的や動機を持って動いています。犯行に直接つながらなくても不思議な出来事が起きているはずです。それらもプレイヤーにとっての謎であり、知りたい対象になります。
作品に解説が付いていないものの、推理の筋道を知りたい、物語の背景を知りたいという場合、親切なGMがいれば独自に解説を用意してくれるかもしれません。
ですがパッケージやオンラインの作品で端からGMをあてにするのは、制作者として誤っています。
解説のためには、全プレイヤーキャラクターのキャラクターシートとカードを読んで論理的な筋道を見つけ出し、それをプレイヤーにわかりやすく説明しなければなりません。これをゲーム開始前に準備する必要がありますが、時間的にも知的な作業としても大変な労力です。
素人GMであれば友達と遊ぶ1回のためだけにその作業を行うことがほとんどでしょう。プロGMでない限りはGMもプレイヤーの一人であり、その1人にだけ負担を強いるのは販売側のやりがい搾取です。
解説がないというだけでGMのなり手が減り、作品が遊ばれる機会そのものも減りかねません。
ましてGMレスだった場合、プレイ後にプレイヤー同士で情報を出し合って解き明かす必要があります。よほど興味がなければそこまでする人はいないでしょうから、作品の意図が伝わらず、満足度を高めることなく終わる可能性が高くなります。
万が一にも解説がない方が感想戦が盛り上がるなどと考えていたら、大いなる勘違いです。
マダミスを制作する際にキャラクターシートとカード、盤面が出来上がったら完成と思いがちですが、実のところそれは折り返し地点にすぎません。
GMガイドと解説まで作り上げて初めて完成といえます。
「解説がないマダミスは未完成」ということを制作者は肝に銘じてほしいです。