空の青さを知る人よ

大人になると、決着をつけたくなる。

正確には、決着をつけられなかった過去の諸々を引っ張り出して、日々の、今の生活を少しばかり追いやって、どうにかこうにかしなきゃいけない時が来る。現に俺も何回か来た気がする。人生の中で。


それが必要になった時、実は決着をつけることが大事で・・・そのあとにどうなるか、なんて知ったことではない。

けれど、それをしない人生は、どう考えてもありえない・・・どう転んでも、前にはすすめやしない、なんてことがある。


そんな感じで、過去の青春の思い出と決着をつける物語。

それが長井龍雪×岡田磨里 のタッグで作られた「空の青さを知る人よ」である。

予告はあるけど観なくていいです(恋愛推しの薄っぺらい作品に見えるので)。

このポスター画像のほうが物語っている。

画像1


最近、28歳になるまで時間を重ねながらも、どうにもこうにも大人になる予兆が無いと思っていた。

結婚? 収入? 家族? 仕事? 

そんなものがある/ないで決まるかと思っていたけど・・・もっと大事なのは、愛を注ぐ相手がいることと、責任を持つことなんだろうなと思わされまた。

年齢どうこうでなく、愛する人に対して、精一杯がんばろうと決めたとき、その行いが自分を成り立たせるのだと思えたとき、それが「大人になる」時なんだろう。


劇は17歳の葵がメインで進むが、本当の主人公は31歳の茜である。

本作は、葵を通して、茜の人生を観る物語だ。

大事なのは、「茜の心理描写が外からはほとんど見えない」こと。

最初は、両親の死去により妹の面倒をみるため、恋人との上京を諦めて市役所(=もうここから抜け出せない仕事)につき、大好きという訳でもない幼馴染とくっつく未来もあるように見える。

でも、そんな気が無いようにも見える。そして、かつての恋人が凱旋で帰ってくる・・・本人の望まない姿で。

そんな、いかにもな場面をいくら迎えようとも、見えるのはほとんど「葵をとしての茜」というところが一貫している。本音の部分は全然見えない。

諦めきれてないのかもしれないし、まんざらでないのかもしれない。

でも、核心が持てない。そこまでは入り込ませてくれない。

どこまでも茜は大人の女性として振る舞う。


田舎(といっても埼玉)の閉鎖感、本人として望まずに負わされた責任。

それらや、自分の年齢と板挟みになりながら人生を歩んでいる茜・・・

その茜の人生をまた、映画の主軸である葵の青さ、若さと対比させながら見ていくのが、じんじんと心に刺さってくる。

18歳と31歳のしんのすけは、大人になりきれなかった人たちを代弁してくれる。語りが一番、観ている人に近い目線なんじゃないか(男性:27歳:独身)。


ぜひ、人生に「置いてきたもの」がある人は観てほしい。心に感じるものがあるはず。そして、劇中のある人物に拍手を贈りたくなるはずだ。

また、大事な曲として出てくる「ガンダーラ」もいい感じに効いてくる。


そこに行けば どんな夢も かなうというよ
誰もみな 行きたがるが 遥かな世界
その国の名はガンダーラ
何処かにあるユートピア
どうしたら 行けるのだろう 教えて欲しい


そんな国は何処にもないと、30歳近くなったらわかってきてしまうのだ。


エンディングロールを見ながら、誰に思いを馳せるか。それだけで人生観について語れそうまである。

作中の人物の人生を観るタイプの映画なので、もう一回は観ないかもしれないけど、僕にはよく効く良い作品でした。僕は大好きです。



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物語の要素として「田舎」って面白いな~と最近思う。

社会的なしがらみや、心理的な閉塞感、人生に対する先行きが見えているような一種の絶望感(もう抜け出せないような)として作用すると、登場人物の選択の重さが出てくる。やるせなさも出てくる(『君のいる町』の月(あかり)なんかが思い浮かんだ)。

だいたいどっちか(地元が大事 or 外に飛び出せ!)で二極化する作品が多い気がするけど、そこは長井×岡田のコンビなので簡単に決着はさせませんでしたね。

プロットは絶対、茜をベースで書いて、途中から視点を葵に変えたんじゃないかな、とはめっちゃ思いながら見てた。見せたいものを見せるとき「主人公にしない」というのも、創作の作り方として大事ですね。




人生に決着をつけろ!! アラサー!!!

そして前に歩き出せ!

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