一息つまんで。
環境は変われど、何かしら今も昔と日常のひと時は繋がる所はあるのかなと思う。そんなふとしたひと時をふんわり楽しめたらと思っている常この頃だ。
自分の席にはお菓子箱がある。自分のものではなく、隣に座る上司との共有の箱だ。
この箱に、朝コンビニで朝ごはんを買うついでに補充のお菓子を選ぶ。最近はチョコやハイチュウの甘い系から、昆布や梅系のお菓子が自分の主流だ。朝、あれこれ考えながら選ぶのが、意外と楽しい時間である。
上司も朝購入しており、朝礼前にお互いの品を紹介しあう。その後、箱に配置していく。私は適当に置くが、上司はきれいに分類して並べる。
「こういうところ、仕事にも出るよなぁ」と反省しながら、ひょいと昆布の小袋を開ける。
「匂いが酸っぱいなぁ」
「いやいや、美味しいですよ」
「まぁ、後で食べるわ」
そう言いながら、上司と僕はパソコンを抱え、朝会の会議室へ向かっていく。
朝会が終わり、作業を始める。上司は会議に行っていて席を外している。しばらくして戻ってくると、こちらを見て言った。
「進捗どない?あれ、昆布無いね」
「ちょっとレビューしてもらいたいです。すいません、昆布は全部食べました」
「そうかぁ、昆布って食べだすと止まらんもんなぁ」うんうんと頷きながら、レビューをしてくれた。
昼前になり、上司がお菓子箱を見てぽつりと言う。
「食べたいけど、お昼近いから食べれませんわ」
僕も、お菓子をつまみながらぽつり。
「この煎餅、美味しいですよ」
すると上司がニヤリとして、手を伸ばした。
「にっしーが隣はよくないね。食べやすくなるんだよね」
そう言って、ぱくりと煎餅を頬張る。
その言葉に、ふと修行時代の楽しいひと時を思い出した。
「いやー、西山君がいると、あまり食べてない気がするから良くないですよ」
テーブルに並ぶ中華料理の数々。目の前では糸谷先生が麻婆豆腐をすくいながら、僕を見て笑っている。
糸谷先生は僕たちに将棋の稽古をつけてくれて、そのあとよくご飯をご馳走してくれる先生だった。
「多すぎるなぁ…」
隣で久々に食事に参加した古賀君が呆れ顔でつぶやくと、
「いやー、このメンツとご飯行きすぎて、僕は多いと感じなくなってきています。」
徳田君が苦笑いしながら言う。
「最近、他の人とご飯行くと『あれ、こんだけ?』って思いますよ。」
「こちらの世界に染まりましたね」
糸谷先生がニヤリと笑う。
僕達は、箸を止めて一言。
「早く食だけでなく、将棋も追い越せるように頑張ります」
すると、糸谷先生は「ほう」とつぶやきながら、メニューを開いた。
定時前になり、上司が伸びをしながら言う。
「いやー、疲れたわー」
僕はお菓子箱を覗き、チョコをひとつ取り出す。
「このチョコ、美味しいですよ」
「ほんまぁ。食べるわ」
上司はチョコを口に入れると、ふと箱の中を見つめた。
「そいや、お菓子箱、今日めちゃくちゃ量減ってない?」
僕も覗き込む。
「うーん、朝は山盛りでしたよね」
「そうやなぁ」
そして、ふたりで顔を見合わせて、ぽつりとつぶやく。
「まー、今日めちゃ考えましたからね」
「せやせや」