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ラストサンタクロース

雪が深々と降り積もる小さな村。この村は、長い冬の間、寒さと貧しさが支配していた。かつてこの土地は、豊かな田畑に恵まれ、クリスマスの夜には村全体が喜びに満ちていた。しかし、戦争が全てを変えた。村は焼かれ、男たちは徴兵され、帰ってこなかった。村人たちは病に蝕まれ、死が静かに、しかし確実に迫っていた。特に子供たちは、飢えと病で日に日に弱っていった。

その夜、サンタクロースが村にやってきた。彼はかつて、この地で喜びをもたらしたことを覚えていた。おもちゃと暖かい毛布を持参し、子供たちに少しでも笑顔を取り戻すために訪れた。しかし、村に足を踏み入れた瞬間、かつての温かな記憶は冷たい現実に押しつぶされた。村は完全に静まり返り、家々はまるで生命を失ったかのように、すきま風が通り抜けるだけだった。

サンタは足を止めた。寒さが彼の身体を突き刺し、胸の奥で何かが壊れる音を感じた。かつての村の賑わいが頭の中で交錯し、目の前に広がる暗闇に言葉を失った。

「私は本当に、この村に喜びをもたらすことができるのだろうか…?」

彼の心に疑念が忍び寄る。それでも彼は前に進むしかなかった。希望を届けることが彼の使命だったが、その希望は今、自身の心からも失われつつあった。

村を歩くサンタの足取りは重く、かつての楽しい思い出がかえって彼を苦しめた。彼の目に映るのは、もはやかつての喜びを知らない子供たちの疲れた顔だった。

レティシアという少女がいた。かつては健康で快活だったが、戦争で父を失い、病に蝕まれていた。彼女は毎年サンタの訪れを待ち望んでいたが、今年は違った。瞳には深い悲しみが宿っていた。

サンタが彼女に毛布とおもちゃを手渡すと、彼女はそれを受け取りながら、小さな声で言った。

「サンタさん、もう暖かい夢はいらない。次は悪夢が見たいの…だって、目が覚めても現実が変わらないなら、せめて夢の中でその辛さを感じたほうが、少しは楽になる気がするの」

その言葉は、サンタの心に鋭い刃を突き立てたかのようだった。彼は、彼女の目を見つめながら、自分の役割が揺らぐのを感じた。彼女の願いは、サンタ自身の存在意義を根底から覆すものだった。

「レティシア、昔はどんな夢を見ていたの?」サンタは問いかけた。彼は彼女の言葉の意味を理解しようと必死だった。

「昔は、パパとママが笑顔でいる夢を見てた。でも、もうそんな夢は見たくない。夢を見ると、目覚めたときの現実がもっと辛くなるの」彼女は囁くように答えた。

その言葉にサンタはさらに胸を締めつけられ、彼の中にあった信念が音を立てて崩れ落ちるのを感じた。彼は、かつての自分の使命が無意味に感じられ始めたことに気づき、恐怖に襲われた。彼は今、自分が何のためにここにいるのか、全く分からなくなっていた。

村を歩き続けるサンタは、かつて喜びを届けた家々を見て回った。しかし、どの家も暗く、静かで、絶望に覆われていた。村人たちは彼を迎えることもなく、無言のまま遠くを見つめていた。彼は彼らと向き合い、手を握りしめたが、その手の温もりは、もはや彼の心には届かなかった。

村を去る準備をしていたクリスマスの朝、サンタは再び雪の降り積もる村を見渡した。彼の心には、レティシアの言葉が繰り返し響いていた。無力感が彼を支配し、彼はとうとう雪の中で立ち止まった。

「私は無力だ。子供たちを救うことなどできない。私がもたらす喜びは、一瞬の偽りに過ぎない…」

サンタは耐えきれず、赤いコートを脱ぎ捨て、帽子を投げ捨てた。重いブーツも雪の中に置き去りにし、次第に彼は寒さを感じなくなっていった。それだけではなく、まるで自分の体が消え去っていくかのように、感覚そのものが失われていくのを感じた。自分の存在意義が消え失せた今、彼はただ立ち尽くすことしかできなかった。

彼の心は凍りつき、絶望だけが残った。

サンタはゆっくりと雪に覆われていく中で、もう一度レティシアの言葉を思い返した。

「次は悪夢が見たいの…」

その言葉に込められた哀しみと、サンタ自身の無力さが彼を苛んでいた。彼はもう何も感じることができず、ただ冷たい絶望の中に立ち尽くしていた。

そして、サンタの最後の温もりが完全に消え去ると同時に、村には再び深い静寂が訪れた。サンタが届けた最後のプレゼントも、もう誰の心に温かさをもたらすことはなかった。


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