世界最大級の米国の気候変動イベント「Climate Week NYC 2024」参加の学び(前編)
2024年9月22-29日までの8日間にわたり、世界最大級の米国の気候変動イベント「Climate Week NYC 2024」@ニューヨークのマンハッタンに現地参加してきました!
Climate Weekは、ビジネス、政府、金融・投資家、国際機関など各方面から、気候変動対策に影響力のあるリーダーが参加する、米国気候変動の一大イベント。現地で参加、たくさんの学びがあったため、今回ASUENE CEOブログとして前編・後編の2回にわたり、その知見をみなさんと共有します。
1.世界最大級の米国気候変動イベント「Climate Week NYC」とは?
「Climate Week NYC 2024」は 世界中の企業や政府のリーダーと協力して気候変動に取り組む非営利団体「Climate Group」が主催するイベントです。2009年に第1回が行われ、今年で16回目を迎えました。
「Climate Group」は、企業が自らの事業の使用電力を100%再エネでまかなうことを目指す国際的なイニシアティブでRE100を主導など、気候変動に大きな影響力を持つ団体です。
そんなClimate Groupが主催する「Climate Week NYC 2024」に今回、僕は、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)視察団のメンバーとして参加してきました。
各国首脳や国際機関のトップ、企業のCEOが集う「オープニングセレモニー」のほか、「The New Industrial Revolution」「Leadership and Green Growth」などをテーマにしたセッションが行われる「The Hub Live」に参加。尚、今年のオフラインイベントは過去最多の約900以上のサイドイベントが開催されたことから、より高い注目度・関心度がうかがえます。
ビジネス、政府、金融・投資家、国際機関など各方面から気候変動に影響力のあるリーダーが一同に集結するという意味では、COPと少し似ているように感じるかもしれませんが、その趣旨は大きく異なります。
違いは、まず「ClimateWeek」はあくまでアメリカのイベントであるという点です。世界最大級の気候変動に関するイベントでありながらも、アメリカに関わる参加者がやはり中心になります。もちろんグローバルな視点からも語られることも当然ありますが、アメリカの人たちが中心となって議論をしているところが一番の違いかもしれません。
またもう一つ違いは、COPの場合、各国の政府やリーダーが集まり議論をした結果、条約などの合意事項が決定されます。そういう意味では、「ClimateWeek」で行われるのは「議論」「共通認識の醸成」「関係者との面談や知見共有」であるのが特徴だということが言えるでしょう。
2.Climate GroupのCEO ヘレン・クラークソン氏の言葉
今回、印象に残ったことが多数ありましたが、そのなかのひとつがClimate GroupのCEO/ヘレン・クラークソン氏が語ったオープニングの言葉でした。
今年のテーマは「It's Time」、日本語で「今がその時」をテーマに掲げていました。
そのテーマに合わせて、ヘレン氏は「気候変動により地球規模の変化は緊急的な状況を迎えています。今がその時です。手遅れになる前に、私たちは行動しなければいけない」と語りました。
また「歴史が私たちを裁く」とも言及。 100年後、次世代の人々は「どうして現代を生きる我々が何もしなかったのか、手遅れになる前に何もしなかったのか」と糾弾する日が来るだろうと予言しました。「自分たちがどこへ向かっているのか分かっていたはずである。それなのに、科学者からの警告がどれだけ強かったのか? そして、過去の人間にあたる私たちができる最善のことは、少しスピードを落とすことだけだったのだろうか?なぜ誰もUターンのためにハンドブレーキを踏まなかったのか?」 と100年後の人たちにいわれないためにどうするべきなのか。現在の我々の取り組みに対して、さまざまな疑問も呈されました。
この点に関しては、当社「ASUENE」のミッション「次世代によりよい世界を。」に大きく共振する部分がある、と改めて感じました。
3.今こそ取り組むべき「5つの提言」
こうした現在の気候変動に対する危機感や次世代の人々から今の世代の我々が糾弾されることを想定したときに、ヘレン氏は「It's Time」と語りながら、5つの提言を発表。ここではその提言をご紹介します。
①は地域社会のニーズや優先事項、いま起きている現実を念頭に置いて、すべての人が現在の危機的な状況を認識して、自然エネルギーへの投資や化石燃料の使用を減らす、EVの推進などやるべきことは多々あります。けれど、これらは富裕層のみならず、途上国も含めて気候変動の影響を受けている「人々」すべてを第一に考えて取り組むべきであるといった趣旨です。
②は、グローバルサウス、グローバルノースという言葉がある通り、やはり気候変動の影響を最も受けているのが「途上国」に住む人々であることを踏まえたうえでの提言です、前回のCOP28でも議論された「気候変動基金」のように、気候変動危機の甚大な被害を受けている途上国にもっとお金を使って、対策や取り組みを行う責任が先進国にはあるのではないかというものです。先進国はファイナンスの力を使って、アクションをしていく必要があると説いていました。
③は、国連開発機構(UNDP)の開発計画によると世界の約80パーセントの人々が政府が気候変動に対してより強力な対策をとるべきだという調査結果が出ていることがわかっています。だからこそ、こうした市民の声に耳を傾け、政府は気候変動への取り組みを行うべき、との提言。
④は、気候変動の解決におけるテクノジーの役割にみんなが正直になるべきだという内容でした、テクノロジーをはじめ、新しいものに対して、多くの人が熱意を持っている一方で、すべてを解決する「銀の弾丸」が存在しないことも事実です。「銀の弾丸」のように見えるものは過大広告だったり、化石燃料を燃やし続けるための何らか支援するための戦術にすぎないといった現実もあります。
だからこそ、「銀の弾丸」のような解決策に、未来を託す余裕はもうすでにないと考え、もっとシビアに、地道に着実に気候変動対策を進めるための再エネの導入などに関する障壁を排除するためのアクションなどを起こすべきなのではないか。
⑤は、多くの人々は、化石燃料の使用を減らすという難しい議論を行い、2050年までにエネルギーミックス達成のために化石燃料のレベルを著しく下げないといけないという現実を多くの人が認識しています。その一方で、産油国や化石燃料を取り扱う企業がそれらによって未だに利益をあげることを企図しているように思われる節が見受けられます。
今こそ、ビジネスモデルの転換を行うべきなのではないか。
こうした5つの原則に従った行動を現代に我々が行うべきなのではないか。
最後に、ヘレン氏は「これは私たちの人生の戦いです。あまりに長い期間、燃料業界に利益をもたらしてきましたことを変革するためのチャレンジです。これまでの活動とそのシステムを覆すという大きな挑戦となります。それは過去の経済を根本的に再構築し、よりよい未来を目指して前進し続けなければなりません。未来において、次世代の人々が現代を生きる我々をどう評価するかは、私たちが今とる行動にかかっている」とも語りました。
4.生成AIで電力需要は爆増中
「ClimateWeek」はアメリカで開催されているということもあり、テクノロジーやGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)の影響力が強いという現状を踏まえ、IT×気候変動に関する議論が活発に行われていました。その中でもとても印象的だったことが2点。
1点目は、生成AIを始めとしたAIコンピューティングによる電力需要の急増。アメリカのコロンビア大学でのサステナブルクラウドコンピューティング&AIの講義セッションに参加したのですが、昨今生成AI・ChatGPTの利用が急増している中で、人々が生成AIを使うと電力需要ってどれぐらい増えるのかという研究結果や考察が発表されました。Google検索対比で、なんと約100倍の電力を消費量へと増加傾向(これも急速な技術革新により更に数字は変動)。生成AIを利用する際にはより多くのデータセンターの利用が必要となり、そのデータセンターでの電力消費量を賄う電源の必要性が高まっています。それはつまり、それだけ電力使用によるCO2排出量が増えるということであり、今後データセンター保有のIT企業にとっては、膨大な電力・電源の確保が大きな障害になるのは間違いありません。
また、マッキンゼー&カンパニーの調査によると、データセンターでの電力消費量が2022年が17ギガワットだったものが、2030年の8年後には、約2倍の35ギガワットに達すると予測されています。
アメリカは世界のデータセンターの電力消費のうちの40%を占めており、そのアメリカでこれだけ電力需要がこれだけ高まるということは、世界規模でかなりの電力不足が発生します。今までは電力需要の2%ほどが世界のデータセンターによるものでしたが、今後20%まで電力需要が拡大する見込み。つまりそれぐらい、今後さらなる電力不足が予想されます。
電力を確保しないと、今後ITの技術革新をいかに進めても、電力不足がボトルネックになり、新技術が生まれても使えない可能性が高くなります。電力の確保をどのように行っていくか?という問題も含め、今後さらなるテクノロジーの進歩を踏まえると、どれほどの電力が必要になるのかは予想が非常に難しく、さらに電力需要が急増する可能性は非常に高い状況です。
一方、今後新たな技術革新によって、テクノロジーの進歩によって拡大する電力需要を削減する技術が生まれてくる可能性も大いに期待できます。
5.安定的なクリーンエネルギーとしての原子力発電
前述の電力需要の拡大を考慮して、GAFAMが原子力発電所から電力を調達するケースがとても増えています。
例えば、2024年3月、アマゾンのAWSは原子力発電所からの電力調達をしているデータセンターを米国電力会社のタレン・エナジー社から約960億円で買収を発表しました。
Amazonはデータセンターをさらに増やしていかなくてはならないニーズがある一方で、2030年にはネットゼロの実現を目標に掲げているため、目標を達成するためには、再エネや太陽光発電にとどまらず、原子力発電のリスクも鑑みたうえで、CO2を排出しないクリーンエネルギーとしての原子力発電の活用をはじめたということになります。
またちょうど、「ClimateWeek」中の2024年9月、マイクロソフトがアメリカのペンシルベニア州のスリーマイル島原発の再稼働後にデータセンター向けに過去最大の電力調達契約を締結しました。
契約期間は20年間。2028年から2047年までとなっており、835MWの電力を調達します。名前はスリーマイル島原発から名前はクレーン・クリーン・エナジー・センターに改名されます。
また、マイクロソフトは「この合意は、カーボンネガティブを目指す我々の取り組みを支援し、電力網の脱炭素化を促進する上で大きな節目となります」と、同社のエネルギー担当副社長であるボビー・ホリス氏が声明で述べています。
ジョッシュ・シャピロ州知事も「ペンシルベニア州の原子力エネルギー産業は、安全で信頼性が高く、二酸化炭素を排出しない電力を供給する上で重要な役割を果たしており、それは排出量を削減し、ペンシルベニア州の経済を成長させるのに役立っている」と言及。
また、この契約は約3,400人の雇用を創出し、州税と連邦税で30億ドル以上をもたらすと同社は述べている。 また、この合意はペンシルベニア州のGDPに160億ドルを追加するとしています。
なお、過去スリーマイル島の原子炉の2号機は、1979年3月にメルトダウンが1979年3月に起きているが、マイクロソフト向けに再稼働する1号機の原子炉はこの事故には関与していません。
また、マイクロソフトは「この合意は、カーボンネガティブを目指す我々の取り組みを支援し、電力網の脱炭素化を促進する上で大きな節目となります」と、同社のエネルギー担当副社長であるボビー・ホリス氏が声明で述べています。
そして、Googleは2030年までにNet Zeroの目標を掲げています。しかし、23年は19年対比で+48%のCO2排出量の増加しました。電力の確保と排出量の削減の両方が必須となり課題となっています。
原子力はグリーンでフリーかつ供給可能な電力が豊富な電源なので、GAFAMが原子力発電の活用に注力しているというわけです。
6.巨大なサプライチェーンエンゲージメントの課題
2点目に印象的だったことは、GAFAMの1社と個別面談したときの話です。その会社は「ClimateWeek」で米国政府のトップと最新の情報や自社の取り組みに関するコミュニケーションを目的に参加していました。彼らは2030年までに再エネ100%への転換にコミット、小型の電子力や太陽光への取り組みも公表している企業です。自社で使用する自動車におけるEV化にも関心が高く、現状2.5万台のEV車の導入を10万までに増やす計画をしています。
この企業のスコープ1-3の排出量を見てみると、スコープ3にあたるサプライチェーンからの排出がその75%を占めています。しかもサプライチェーンの数は約30万以上と大多数。30万以上のサプライヤーのエンゲージメントは大きな課題であり、正直、エンゲージメントの余裕がないというのが現状、と話していました。
だからこそ、比重が大きく課題の多いサプライヤーの課題とリスクに焦点を当て、解決策の実行が重要であると同時に、サプライヤーへの教育、課題の共有、リソースの一部提供の必要性も感じていると語っていました。
そのために、160万人近くいる従業員にサステナビリティの考え方を社内浸透させることも重要とも語っていました。そこでサステナビリティ・アンバサダー制度を儲け、従業員を巻き込むことは非常に重要度が高いとのコメントもとても印象的でした。
また、興味深いと感じたのが「カーボンクレジット」へのスタンス。この企業のみならず、GAFAMはじめ多くの企業がネットゼロ達成を目標に掲げています。そんな中、カーボンクレジットはその信頼性などの観点から批判されている部分が一部あるものの、どんなにテクノロジーが進化をしたとしても、人類が活動をする以上、必ずCO2が排出されてしまうので、排出自体をゼロにすることは現実的に不可能。
この前提に基づくと、やはりネットゼロを達成するためには、GHGを除去・オフセットするカーボンクレジットは必要不可欠である、との考え方。
他にも様々な学びが多かった「ClimateWeek」でしたが、アメリカの気候変動政策は2024年11月のアメリカ大統領選の結果次第によって、大きく風向きが変わります。
後編では、アメリカ大統領選挙の予想、各候補になった時の脱炭素政策がどうなるか?などの「ClimateWeek」での学びをさらにお届けします。
ぜひ、後編も楽しみにしていてください。