世界が大注目!アメリカ大統領選、どうなる気候変動政策? 世界最大級の米国の気候変動イベント「Climate Week NYC 2024」参加の学び(後編)
アスエネの代表取締役CEOの西和田です。
世界最大級のアメリカの気候変動イベント「Climate Week NYC 2024」にニューヨークのマンハッタンで現地参加レポート、の後編となります。今回CEOブログの後編では大統領選の話題を中心にお伝えします。以下の前編も御覧ください。
1.アメリカのGHG削減目標と再エネ・ガス火力の躍進
最新のアメリカのGHG削減目標、電源構成の推移、規制の動向について、まずはお話していきましょう。
アメリカの現在の気候変動・脱炭素の取り組みはバイデン大統領の成果です。
アメリカが現在掲げている目標は
となっています。
アメリカの再エネなどの電源に関する状況は、
● 再エネの活用が石炭火力の利用率を上回る。2022年に再エネが石炭火力の使用料を上回り、再エネ導入までの移行期として、天然ガス利用が加速。トランプ氏大統領の任期中も再エネの利用率は伸長。2024年末予測では再エネが24-26%、石炭が17-18%、ガスが37-38%、原子力が19%。
● 再エネと蓄電池の2つが中心、昨今の新規電源の8割を占める。とくにカリフォルニア州では、規制の優遇や技術革新によるコスト削減もあり再エネが継続的に急成長中。最近ではテキサス州も太陽光が急激に成長している傾向。今後各州で、再エネのさらなる増加が予想。
● さらなる蓄電池の計画も進み始めています。テキサスは大統領選において、共和党優勢の州ですが、トランプ氏の共和党が反対している風力発電容量では全米1位となっており、太陽光が1位になる日も近く、矛盾が起き始めている。
● 2022年に再エネが上回り、再エネ導入の移行期のエネルギーとしての天然ガスは今後も増加傾向。過去のトランプ氏大統領の任期中も再エネは急成長。24年末予測では多い順にガス火力が37-38%、再エネが24-26%、原子力が19%、石炭火力が17-18%。
● 石炭火力の発電量は2022年に半分以下に下落。代わりに、天然ガスは2001年と比較して、約3倍に増加。
この様に、移行期のベースロード電源の役割を担うガス火力、規制や技術革新によるコスト削減により1kWhの価格が安い再生可能エネルギー電源が伸び続けている。
2.アメリカの気候変動対策法「インフレ抑制法」による大規模な雇用創出
世界各国を見てみても、インフレ抑制法(「IRA」)は画期的な法案です。CBAMや炭素税の様な規制とは真逆の飴(アメ)の施策であり、2022年8月の制定以後の経済的な成果として、以下を強調。
政府発表によると、2023年に340万以上の世帯がヒートポンプ空調や住宅太陽光に関する税控除を活用。また、2024年1月以降、25万人以上の消費者がEV税控除を申請。これらを合わせて100億ドル近くの消費者の節約に繋がったと説明されています。
ただし、IRAのみでは、CO2排出量の削減幅に足りていないという現状も一方であります。仮にハリス氏が大統領に就任し、民主党政権が継続されたとしても、2030年までのGHG29-42%減少にとどまり、削減率50-52%の国家目標とは大きな乖離があります。
政府目標に近づくためには、連邦政府の規制とアメリカ各州の野心的な気候政策の両方が飛躍的に高まることを想定した「共同行動」シナリオが必要不可欠といえるでしょう。
現在アメリカ政府は、電力部門と主に小型車に商業的に利用可能なクリーン技術を普及させることに重点をおいているけれど、高排出セクターにおける政策やソリューションが大事であることもまた現実です。
3.世界が大注目!11月のアメリカ大統領選 どっちが勝つ?
いよいよ2024年11月5日(火)に民主党ハリス副大統領VS共和党トランプ前大統領による、大統領選が行われます。
さまざまな報道を見てみても、正直どちらが勝つか、まだ誰にもわからないというのが実情でしょう。一部では、ハリス氏が一歩リードという報道もありますが、それも確実ではありません。
ブルーステートと言われる、例えばニューヨーク州とかカリフォルニア州は共和党が強い州として有名で、いわゆるブルステートは民主党が勝つことがほぼ確実。
上記の地図を見ればわかる通り、アメリカ前55州のうち43州は、どちらが勝つかの予想がついている。
問題は、「スイングステート」といわれるこの7州がレッドか、ブルーになるかで大統領選の勝敗は決まります。特にペンシルベニア州とミシガン州は最注目の激戦州。ペンシルベニア州でどちらが勝つかによって、アメリカ大統領選全体の勝負がつくというほど影響力の大きな州です。
そのペンシルベニア州でハリス氏が勝つと、93%ハリス氏が大統領選を制す、トランプ氏が勝つと75%トランプ氏が制す、と言われていることから考えても、若干ハリス氏の方が有利といえるかもしれません。
4.ハリス氏が勝ったら? トランプ氏が勝ったら? 気候変動政策はどう変わるか?
では、ハリス氏が勝ったら、気候変動はどうなるのか?反対にトランプ氏が勝ったら?
と気になるところかもしれませんが、今回の大統領選では大きく3つの争点が挙げられています。
そのなかで気候変動は5~6番目の争点になっているのが実情です。
ハリス氏は気候対策に対して、具体的なことは述べていないスタンス。だが、カリフォルニア州司法長官などもつとめ、石油メジャーの公害問題に対峙したり、環境寄りの「気候ファイター」というイメージがあります。特に社会正義としての気候変動、たとえば発展途上国が気候変動の影響を多大に受けていることを訴えたり、前述のIRAにより投資や雇用創出が行える点を演説などでも謳っているので、バイデン路線を継承していくだろうともいわれています。
ペンシルベニア州はスイングステートとして重要な州であることを前述しましたが、ペンシルベニア州はシェール層と呼ばれる岩盤に化学物質を含む高圧水を注入し、生じた割れ目から石油や天然ガスを抽出する「フラッキング」が盛んに行われている州です。このフラッキングは多くのCO2が排出されるのですが、スイングステートであるペンシルベニア州を意識して、この「フラッキング」を禁止すべきとしていたハリス氏は、今回の大統領選では「禁止」しないことを表明しています。一貫性という意味では欠けますが、とにかくスイングステートで勝利を納めることに必死になっている状況です。
一方、トランプ氏が勝利した場合「トランプ氏2.0」がスタートすることになるわけですが、トランプ氏が何をするか?一言でいえば「バイデン大統領がしてきたことをすべて無効化する」。これは前回、オバマ前大統領が行った政策を全部無効化したことからも、簡単に推察されることですよね。
共和党大会の際にはSloganで「We will Drill、Baby、Drill!」、日本語だと「ほってほって掘りまくれ!」をコールするととても盛り上がります。つまり石油も、石炭も天然ガスもほってほって掘りまくれ、ということ。
また前回同様、パリ協定から、再び離脱する可能性も高く、EVに加えて「イルカが死ぬ」という理由から風力発電も敵視していると言われています。ただし、イーロン・マスク氏がアドバイザーについたので、EVに関しては発言も抑制される可能性もあると言われています。
さらにいうと、議会を通さないと撤回できないIRAは、そんな簡単に変更はできないと予想されています。また、IRAの恩恵がトランプ氏応援のレッドステートで多く出ていることがわかっており、もしIRAを撤回した場合、トランプ氏の政権運営にも影響が出る可能性があるからです。ロジウムグループとMITの分析によると、IRA成立後に発表されたクリーンエネ関連の民間投資3,460億ドルの3/4以上が共和党優勢の選挙区だったという結果が出ています。したがって、IRAの完全撤廃を求めることはないとの見方が大半。
5.どちらが勝っても我々は変わらない、気候変動対策は止まらない
Climate Weekに集った、ビジネス、政府、金融・投資家、国際機関など各方面の気候変動対策に影響力のあるリーダーならびに報道各社を見てみても、正直ハリス氏とトランプ氏のどちらが大統領選に勝利するかはわかりませんが、今後4年間の米国及び関連国の脱炭素業界の命運を左右するとみています。
しかし、ただひとつわかっていることがあります。気候変動・脱炭素への取り組みはグローバルで喫緊の課題であり、止めてはならないということ。
前回トランプ氏前大統領がパリ協定から離脱した際、ほかにも離脱する国が出てくるのではないか?といった危惧が囁かれたこともありましたが、結局そのようなことは起きませんでした。
石油・石炭を「掘って掘って掘りまくれ!」をスローガンに掲げている共和党を支援するアメリカの企業は、脱炭素に向けた目標を掲げ、再エネ導入、クリーン電源と捉えた原子力の活用も始めています。アメリカの企業が気候変動・脱炭素への取り組みにストップをかけることはありません。
それは我々、ASUENEも同じです。11月のアメリカ大統領選でどのような結果が出ようとも、人類にとって最も困難な課題である気候変動への取り組みは止めません。脱炭素の起点となる、CO2排出量の見える化サービスや複合的な新たな打ち手を通じて、その解決にフルコミットしてチャレンジしていきます。
日本、アメリカ、APACなどを拠点にグローバルNO.1を目指して、ASUENEはこれからも止まることなく、これからも邁進していきます。アメリカでも日本でも絶賛採用募集中です!
最後に、本記事は2024年9月に毎日新聞ニューヨーク支局八田浩輔様のClimate Week NYCでの個別会談内容を参考に作成させていただきました。こちらで記されている内容は、重要な示唆を与えると同時に、気候変動・脱炭素への取り組みは、止めてはならないと改めて感じました。深く感謝申し上げます。
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