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消えた午後の少女

 田舎町の静かな午後、陽子はいつものように家を出た。彼女は10歳。学校が終わると、よく町外れの公園まで一人で遊びに行くのが日課だった。町の人々はみな顔見知りで、誰もが陽子のことを知っていた。だから、彼女が一人で外を歩いていても、特に心配することはなかった。

しかし、その日の午後、陽子は家に戻らなかった。

夕方になっても姿を見せない陽子を心配した母親が警察に通報した。町全体が騒然となり、夜通しの捜索が始まった。近所の人々や警察が懸命に彼女を探したが、陽子の姿はどこにも見当たらなかった。

日が明けて、町の人々は不安に包まれた。そんな中、陽子の通っていた学校の教師、佐藤はふと気になることを思い出した。陽子がよく遊んでいた公園の近くに、彼が知っている廃墟があったことだ。その廃墟は長年放置されており、子供たちの遊び場にはならない場所だったが、ひょっとしたら、そこに何か手がかりがあるのではないかと思ったのだ。

佐藤と警察がその廃墟に向かうと、そこは不気味な静けさに包まれていた。廃墟の中は荒れ果て、ゴミや古い家具が散乱していたが、目を凝らすと床に小さな足跡が続いているのが見えた。

足跡を追っていくと、彼らは地下に通じる古い階段を見つけた。階段を下りると、地下室の一角に小さなスペースがあり、一人の男が横たわっていた。
男の長く伸びた髪の間から懐中電灯の光を反射した目が見えた。
 「ここで何してる!」
警察の一人が男に問うた。
男のすぐそばに、赤いランドセルがあった。

彼女は無事だったが、非常に怯えていた。話を聞くと、陽子は誰かに声をかけられ、その廃墟まで連れられたという。しかし、詳しいことは思い出せず、記憶が曖昧だった。
ここにいた男は、寝場所を求め立ち寄っただけのホームレスだった。

この事件は町中に広がり、皆が心を痛めた。しかし、犯人の手がかりはつかめず、陽子も記憶がないため、事件は未解決のままとなった。

町は再び静けさを取り戻したが、誰もが陽子の話を聞くたびに、その日何が起こったのかを考えずにはいられなかった。そして、町の人々は子供たちに目を光らせ、誰かがいつも見守っているように努めるようになった。

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実際の事件を元にした短編小説。

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