「バーチャルオンリー株主総会」の課題
コロナ禍でリモートミーティングが急速に一般的になり、バーチャルオンリー株主総会「VAGM」の開催が可能となった。以下、主に米国におけるVAGMの現状とその在り方の議論をもとに、利点と問題点を俯瞰する。
VAGMの利点は、全国的、全世界的に株主の所在地を問わず参加が可能(時差の問題はあるが)なことだ。米国では、株主の総会出席率が以前より改善した会社は多い。また、総会の場で挙手により賛否を決めるのとは異なり、賛否票数が明確になって総会の透明度が高まった。また、感染拡大下でのVAGMは、参加者の感染リスクを排除する上でも有意義だ。
しかし難点もある。実際の参加者が株主なのか代理人なのかの技術的認識、通信障害など議事進行に著しい事象が発生した場合の実務的対応や、VAGMを開催するためにかかるテクノロジーコストなどが問題点である。また、実際の総会とは異なり、質問や提議に対して議事運営が見えないところで恣意的に行われるリスクも懸念される。
米国におけるVAGMの質疑応答の場では、投資家と取締役間で活発な議論がなされなかった総会が多くあったという。深堀りをするためのさらなる質問や、議論すべき問題点を明確化する質問などが、VAGMでは活発ではなかったとの不満もあるようだ。
VAGMの運営方法に法的問題はなくても、株主と取締役が面と向かい合って直接議論を行えないことで、株主総会という貴重な議論の場としての本来の意義を失っているのではないか、というのは本質的な懸念だ。
日本では経済産業省と法務省が「場所の定めのない株主総会」についての制度説明資料を開示している。しかしコーポレートガバナンス・コードの基本原則にあるとおり、持続的成長と中長期的企業価値向上に資するため株主総会は株主の声に耳を傾け明確な説明を行う場である。今後VAGM形式が増えると思われるが、基本原則に則って議事運営を行うことは重要であろう。